奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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7時間に合った



誤字修正。ハクオロ様、244様、見習い様、kuzuchi様ありがとうございました!


第五十二話 米国からの来訪者

第五十二話 米国からの来訪者

 

 

冬がやってきた。

奥多摩は山間にある為冬になると道が凍ったりして国道が通れなくなることもある。青梅線のお陰で陸の孤島にはならずに済むが、道路上にまで根雪や氷が残るようになれば急な外出はほぼ無理になる。不便な季節だ。

 

そんな季節にある嬉しいニュースが入ってきた。下原の小父さん、沙織ちゃんのお父さんがうちのヤマギシに入社してくれたのだ。

元々青梅の個人商社の次男坊で今までは兄の片腕として働いていたのだが、下原の小母さんもうちで働いてくれているし、実家の方も長男の子供が大人になってこの春に入社をしていた為、彼に自分の仕事を引き継いでいる最中で丁度いい頃合だったらしい。

これを機に下原の小母さんもパートから正式にヤマギシの社員になり、今は一家でヤマギシビルの5階に住んでいる。

 

 

「いやぁ、エレベーターで1階降りるだけで職場なんて夢のようです」

 

「全くですなぁ、寒さも厳しくなってきますし」

 

 

と言っても下原の小父さんはうちの父さんと同じく渉外担当で、主に冒険者協会側とのやり取りをしてもらうので毎日都心の方に行くことになるんだがなぁ。

父さんはこれからは技術協力をしているIHCなどの会社を回る担当になるらしく、真一さんとの打ち合わせが多くなった為先月に比べて奥多摩に居ることが増えてきた。

顔を合わせる機会が前よりも増えてうちのお母様もにっこにこである。

ただ、新しい弟か妹が欲しいかって質問はちょっと勘弁して欲しいです。

 

 

 

さて、そんな冬に入る奥多摩にある珍客が訪れてきた。

何とアメリカから世界冒険者協会の幹部がやってきたらしい。

次の冒険者教育の話もほぼ本決まりになったし挨拶にでも来たのかと思ったら、どうも恭二と俺に会いに来たらしい。

 

 

「久しぶりの変身接待だねお兄ちゃん!」

 

「最近忙しかったから忘れられていたのに・・・・・・」

 

 

動画の方は小まめに更新している。この間、変身の魔法を使ってジャバウォックへの変身シーンを再現してみたらコメント欄が「次はハルクでお願いします」で埋め尽くされていてちょっと吹いた。全部英語だったので組織票と思って受け付けませんと応えると、何とアメリカの某原作者様からお願いしますと言われたので次回にやりますと発表。現在は練習中である。

 

 

「兄貴や一郎だけじゃなく、俺ぇ?すっごい面倒な事になりそうだ」

 

「そうだね、多分『良く分かってる』人だと思うよ」

 

 

うめき声を上げる恭二に、一花が相槌を打つ。

基本的にヤマギシのフロントマンは真一さんになるし、真一さんがリーダーなので大体の人は真一さんに会おうとする。例外は俺やシャーロットさんのように、冒険者とはまた別の意味での顔を持っている場合だ。

その点、直で恭二を指名するって事は、テレビで見た以上の情報源から情報を取れるという事だろう。

念の為に、シャーロットさんには同席をお願いしておこう。嫌な予感がする。

 

 

「シャーロットさん、これから会う人物の情報ってあります?」

 

「ええ、調べてますよ」

 

 

約束の人物との会談の前に、事務所に居たシャーロットさんに同行のお願いと事前情報を教えてもらう。

世界冒険者協会を構成しているのは、いくつかある個人ダンジョンのオーナーの内、テキサスのブラス家とモンタナのジャクソン家の代表だそうだ。

ジャクソンの代表は大学生の次男。ブラスは長女で、18才。

ジャクソン家は観光業、天然資源や木材の生産や加工で財をなした富豪。そして、ブラス家は世界的エネルギー企業の一社、ブラスコ社のオーナーで経営者一族だ。

 

 

「どちらも大変力のある一族で、勿論ここと付き合う場合はメリットとデメリットが発生します。特にブラスコは危険です」

 

 

テキサス人独特の陽気さと傲慢さが共存する経営方針。必要であればギャンブルのように資金を投入し、カジノごと買い占めるように根こそぎ持って行くような、そんな事を代々帝王学として学び受け継いできた一族だ。

下手なところを見せれば丸ごとむしられる可能性もある。

そんな厄介な存在は、新ビルの屋上に作られたヘリポートの初の利用者として俺達の前に姿を見せた。

 

 

 

 

『は、ははははじめまして、ウィリアム・トーマス・ジャクソンです!』

 

『はじめまして、キャサリン・C・ブラスです』

 

『はじめまして、イチロー・スズキです。お会いできて光栄です』

 

『はじめまして、イチカ・スズキです。よろしくお願いします』

 

 

翻訳の魔法を使って、ヘリから降りてきた彼・彼女と挨拶を交わす。中への案内役は俺とイチカが押し付けられてしまった。

それぞれサングラスをつけた黒服のボディガードと通訳を連れて来ており、彼らを案内してビル内の会議室へと向かう。

 

その道中、やたらとジャクソンの次男坊に話しかけられた。見た目が典型的なギーク(パソコンオタク)で、話し方もドモリ気味で少し聞き取りづらいのだが、どうやら俺の動画のファンらしい。

そう言えば最近、ジョン小父さんに会いに横田基地に行った時も似たような反応を貰ったことがある。

ブラス家の長女の方は比較的冷静だが、何と言うかこの子、多分恭二目当てじゃないかなぁという節がある。

一花に恭二についての質問を何度かしてたし。多分この子が恭二を指名したんだろうな。

格好が完全に黒ゴスという初めてみるような服装をしているが、一花と同じ位の身長のせいか良く似合っている。

 

 

『こちらが会議室になります』

 

 

会議室のドアを開けてエスコートする。中には社長を含めたうちの幹部が勢ぞろいしている。

彼らを席に案内して、俺と一花も椅子に座る。

さて、どんな話になるのだろうか。面倒ごとにならなければいいんだがな。




ウィリアム・トーマス・ジャクソン:大富豪ジャクソン家の次男。典型的なオタクだったが、長年憧れたヒーローが現実になったというニュースに居ても立ってもいられずダンジョンに潜る。3層までは自力で潜れているらしいが、まだ魔力は感じ取れないらしい。

キャサリン・C・ブラス:ブラス家の長女。18歳と言う年齢の割には小さな体躯をしており、金髪のツインテールという事も相まって黒ゴスをつけた人形のような見た目をしている。

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