奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様、名無しの通りすがり様ありがとうございます!


第二百六十四話 影響と後始末

「ここにノートパソコンがあります。ワイファイにつないでネット環境も整えてあります。基地局はこのビルの屋上に設置されており電波状態も良好です」

「はい」

「そしてこれは最も規模の大きい映画レビューサイトです」

「おいバカ止めろ」

 

 映画『MAGIC SPIDER』公開から一週間。

 

 その影響の大きさは過去に出演した『ライダー一号』、『復讐者本編』とは比べることすら出来ないほどに大きな物となっていた。

 

『えー、映画『MAGIC SPIDER』公開から1週間。ファンたちによるニューヨークのデモは現在も勢いが衰えていません』

『興行収入ランキングをただ一週で塗り替え、前評判が過小評価であったことを証明した『MS』。次なる目標は――』

『魔法を使った表現、素晴らしい。過去作からの伏線の数々を大胆に絡める脚本、これもまた素晴らしい。しかし、です。何よりも凄いのは主演である鈴木一郎演じるハジメの、演技を超えた自然体そのままの”演技”こそがこの作品のキモでして――』

『映画史は一つの区切りを迎えた。『MS』前と『MS』後では、映画を取り巻く環境は劇的と言っても良い変化を遂げている』

『映画発表前の番宣、生放送の奴ですね――あれ、見た時に僕、勝てないなぁ、って思ったんですよ。彼、ダンジョンに潜る時と寝る時以外はほぼ漫画やアニメ、映画、ドラマといったものを見続けているそうなんですよね。新しいキャラクターを模索し、そのキャラクターを自身に取り込むために。そしてそれを行っていながら、ほぼオリジナルキャラとも言えるハジメをあぁも見事に演じ切られるとね』

 

 テレビのリモコンを操作する。どのチャンネルに合わせてもどの番組でも映画の話がされている。

 

 とあるニュースでは米国・ニューヨークのメインストリートの一つを占拠するマーブルファンの一群が手に手に『MSを返せ!』『救いを!』と書かれたプラカードを手に叫び声を上げており。

 

 それとは別のニュース番組ではアナウンサーが『MS』の興行収入が過去類を見ないほどの勢いで跳ね上がっているのを興奮した様子で語り続け。

 

 また別の番組では、バラエティ番組の筈がどこかで名前を聞いたような覚えのある映画評論家や映画監督、果てには本職である筈の俳優までもが口々にMSの、ひいては自分の話をしている。

 

「どうして……」

「その「どうして」が何を指しているかは分かんないけどさ! 残当!」

「ニューヨークのデモはあれ俺関係ないだろ!」

「脚本家さんは暫く身を隠すことになるな! ってスタンさん笑いながら言ってたよね!」

 

 そう口にしながらカタカタとキーボードを叩き、一花がヒョイっと手に持つノーパソの画面をこちらに向ける。

 

「スゲェな、これLIVE映像?」

「そそ! デモの主催側がね! 『僕たちは決して暴力を目的としていない!』って声明出して、それと一緒に流し始めたんだよね!」

 

 どこぞの動画共有サイトだろうか。ノーパソの画面に映るどこかで見たことのある風景はプラカードやMSグッズを手に持った群衆の姿に、思わずため息をつく。

 

 映画の結果を受けてデモという、なんとも言いづらい事態に色々言いたいことをぐっ、と堪えて画面の移り変わりを眺め……てここ前にウェブで空飛び回った通りじゃん。見たことあるわけだ。

 

 タコス屋さんのおじさん、元気かな。次ニューヨークに行くときには寄りたいもんだ。

 

「今じゃ元の名前よりもスパイダー通りって呼ばれる事が多いらしいよ!」

「観光資源の開発に寄与出来たんだなって」

「観光資源どころか聖地作ってる感あるけどね!」

 

 聖地という一花の言葉に思い切り顔を顰めて一花を睨むが、視線を向けられた一花はどこ吹く風、とばかりに鼻歌を歌いながらノーパソをカチャカチャとイジる。

 

「なぁ一花」

「んー?」

「流石にこれ、俺も何かした方が良いのか?」

「”今”は良いかな!」

「”今”は、ね」

「そそ! 多分これ、マーブル側もちょっと予想外だと思うからさ!」

「あの内容で?」

「普通映画の内容でデモ起きるとか思う? しかも社会風刺とかじゃなくて指輪物語で。お、ポチ公ちゃんライブ配信してるじゃん!」

「せやな。指輪物語言うな」

 

 趣味のネットサーフィンを始めた一花の言葉に頷き、ついでに一釘刺しておく。あくまでそういう雰囲気を目指したってだけで別に指輪物語をパクってるわけでもないしな。権利関係とか色々面倒くさい話になりかねんし。

 

 映画関連の宣伝やらなんやらで忙しく、今日まで休む暇もなかった。明日からは冒険者としての活動も徐々に戻していくし、今のうちに溜まってる積本を消化しておかないといけない。とりあえずアニメしか見てなかったベル◯ルクを1から――

 

 

 

「等と思っていた時期が俺にもありました」

「ごめん、予想より早く来ちゃったね」

「すみません、中々話し合いが進まず急になってしまい……」

 

 配信用の機材を組み立てながら、シャーリーさんがそう言って申し訳無さそうに頭を下げてくる。それに気にしてはいない、と手振りで答えて、設置されたカメラに視線を向ける。

 

 予想を遥かに超える反響。国や市との兼ね合い。本来なら反響が多いのは喜ぶべきなんだが、想定を遥かに超えたせいで瞬く間に社会現象っぽくなってしまったしな。責任の所在とか、まぁ色々あるんだろう。

 

 すでに撮影が始まっている復讐者の次の本編。その内容を知らされている側としてはもどかしい状況だが、それをネタバレするわけにも行かず。なんと言えば良いのか、うんうんと悩んでいる間に準備は進んでいく。

 

「ああ、そういえば。他の演者の人もやるんですよね」

「ええ。鉄男にキャプテン、ブラックウィドゥ、ハルク……例のアレで消えなかった関係者は、皆。マーブルの公式サイトで、会社側の声明と合わせる形で公開するそうです」

「なるほど」

 

 まぁ映画が発端でデモになっちゃったからな。とんだ大事になったもんである、とシャーリーさんの言葉に頷きを返し、カメラに視線を戻す。

 

「一花、風景を大蜘蛛の森に変えてくれ。シャーリーさん、内容は俺に任されてるんですよね?」

「オッケー! なにすんのん?」

「はい。デモ隊を穏やかに解散させるよう話してくれるなら、後はどういった内容でもいいと。ネタバレは駄目ですが」

「そこら辺は分かってます」

 

 言いながら、右手の変身を切り替える。ハジメは純粋なスパイディ、ピーター・パーカーになった状態で外見を日本人の少年に変えるイメージで象られたキャラクターだ。最初のうちは少し戸惑ったが、今じゃあこれが一つのキャラクターだと認識できるほどには体に染み付いた変身である。

 

「余分な言葉は言うつもりありません。問題が有ればまた別のものに切り替えますよ」

 

 外見を変えたら今度は声。15歳という設定に従い、若干幼く、けれど声変わりを終えた少年の声をイメージして声帯を型取り、違和感がなくなるまであー、やらうー、やらと発声を行う。この動作だけは、瞬時に切り替わるとは言い切れない。普段は外見だけいじればいいから、中々内部までの変身は慣れないのだ。

 

 声が整うのに合わせる形で、周囲の風景が切り替わる。変身魔法の応用。勿論ただ見せかけるだけで、本当に森が出現したというわけではない。とはいえ今回は別にアクションを行うわけでもなし。ガワさえ見せかけられるなら十分だ。

 

「そのまま、映画のラストシーン。閉じたゲートの前を再現してくれるか」

 

 一花にそう頼み、映画のラストシーンを撮影した状況を頭の中で思い浮かべていく。最後の最後。目の前でゲートが消えた、あの瞬間をイメージ。切り替わっていく画面に、あの時演じていたハジメの中身が蘇ってくるのを感じながら目を閉じる。

 

 ワナワナと震える右手。蘇ってきた感情――怒りを拳を握りしめることで我慢しながら、深く息を吸い、吐く。

 

 動き始めたカメラに向かって視線を向け、ゆっくりとした口調でハジメ()は語り始めた。

 

 

 

『ほんと助かったよ、ありがとうハジメ! ところで諸外国の反響も怖いから、あの配信をマーブルのトップページに据えたいんだけど』

「ほんと勘弁してください」

 

 次の日。報告という形でスタンさん直々の連絡をもらい、泣きを入れる。お礼として以後の広報活動は参加しないでもいい、と言われたが差し引きマイナスってくらいに疲れた気がする。

 

「休みを延長してもらったしベルセ◯ク読もう。うん」

「せやな! あ、ベ◯セルクの通な読み方は1~12巻を読んだ後に14巻以降を読み始めることだよ!」

「ほー。わかった、試してみるわ」

 

 一花の言葉に従い、疲れた頭を切り替える形で漫画本を手に取る。

 

 その日の夜。数年ぶりにガチで妹と口論になった事は、まぁ余談である。

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