奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百六十六話 忍野大工場竣工式

 パシャパシャと眩しいほどに焚かれるフラッシュ。こちらを向いてくださいという言葉に笑顔で答えながら、根性と気合でハサミを持つ手の震えを抑える。

 

「いやはや。君と並ぶと、やはり私は添え物になってしまいますなぁ」

「いや、はは、は」

 

 隣に立ち、同じく金バサミを手に持った男性。文民の頂点に立つ人物の言葉に嫌な汗をダラダラと背中にかきながら合図に合わせて左手で持ったテープにハサミを入れる。

 

 待っていました、とばかりに光るフラッシュに照らされながら、俺はつぅっと視線をずらしてニコニコした表情で来賓席からこちらを見る恭二に視線を向ける。

 

 なんでヤマギシの新工場が竣工したのに総理と社長と俺の三人で金バサミ持ってんだよ。仕事しろ次男。

 

 

 

「総理の隣に立つの、いつやっても心臓に悪いんです」

「ワンワン! いや、ネームヴァリューって怖いですねぇ! あ、新工場竣工おめでとうございます!」

「一社員なんですがねぇ! あ、現場犬さんお疲れさまです。工事期間はありがとうございました」

 

 ただの工場の竣工式に総理が来るのも怖いですけどねぇ! と軽口を叩き合いながら、打ち上げのために用意された料理をつまむ。お、このオードブル美味いな。濃いめな味付けだがこれが中々。

 

 やはり体力仕事の人をねぎらう場だとこういった味の濃い物が多くなるんだろうか。

 

「あとは酒に合うかがポイントですね。現場の人間なんて大体酒飲みですし」

「ああ、なるほど」

 

 現場犬さんの言葉に頷きを返し、グイッと手に持った缶ビールを呷る。確かに周りを見渡すと現場関係者だろうおじさんやお兄さん達が多い。流石に全作業員というわけではないらしいが、それでも結構な人数の人が飲んで食べている。

 

「大きい現場だったからですねぇ。来月からは宿泊施設も新造が始まりますし、忍野の建設業者は右に左の大忙しですよ」

「奥多摩に本社を置く分、こっちには場所をとらなきゃいけない生産設備を全部移設するんで……」

「鍛冶場の建造なんて初めてみました。いやー、商売繁盛な上に勉強になる仕事が多い! ワンワン! ヤマギシ様様です」

 

 ケラケラと笑いながら犬型マスクをかぶり直し、現場犬は工事の責任者にあいさつ回りをしてくる、と席を立った。日本でも数十名しか居ない魔法施工管理技師専門の会社、11建設(ワンワン)株式会社の社長である現場犬さんは、このヤマギシ忍野工場の施工に計画当初から関わっている。当然、ただ式典に呼ばれた俺よりも顔を出さなきゃいけない相手は多い。

 

 それでも最初に挨拶しにきてくれたのは、こないだの企画でそこそこ仲良くなったから、と思った方が良いのだろうか。

 

『いや、君と仲がいいアピールをしたかったんだと思うけどね』

『あんまり夢のない事を言わないでくれる?』

 

 それまで黙々と料理に舌鼓を打っていたウィルがボソリ、と夢も希望もない言葉を口にする。

 

『それが全部とは言わないだろうけどね……半々くらいかな。こういう場で君と親しげに話せる人間だってアピールしとけば少なくともこの工事に関わった、この場に居る人間で彼を軽んじる奴は居なくなる。たとえ20代の若社長だろうと。上手い手だと思うよ?』

 

 実際ほら、とウィルが視線を送る方向に目を向けると、5,60代くらいの良いスーツを着たおじさん方が顔色を変えて話し合っている姿が目に映る。

 

『その反対側。若い子が集まっている辺りは、若干興奮しながらぺちゃくちゃ話してるね。大方有名人と話せて凄い、だとかかな?』

『現場犬さんも十分有名人なんだけどなぁ』

『日本の一部界隈で、でしょ』

『日本の冒険者界隈で、だよ。軽く潜った事あるけど、あの人も良い冒険者だよ。魔法の使い方も、目の付け所が良かった』

『んー、その点を論じるには僕は彼のことを知らなすぎるかなぁ。あ、でも今回の工事、開始から終了までの間無事故で終わらせたのは非常に良い結果だよね。最初から最後まで魔法を用いた安全管理を行った大規模工事。世界冒険者協会としても非常に有用な事例になる。モデルケースとして扱いたいくらいだ』

『魔法施工管理技師のアピールには十分って感じか』

 

 日本冒険者協会が結構な熱意で推し進めてる新しい資格、魔法施工管理技師は、魔法をある程度使える技能と建築施工管理技士としての知識が求められる取得難易度の高い資格だ。建築施工管理技士としての実務経験があれば筆記の方は免除されるらしいが、バリアやウェイトロスといった魔法の使用と、それらを複数回用いる魔力も求められるからある程度以上の冒険者としての技能も必要になる。

 

 だが、そういった取得難易度と比例するようにこの資格の持ち主は好待遇を受けるという。

 

『まぁ普通にバリアを全作業員にかけるだけでも安全性は段違いで上がるしね。ウェイトロスがあれば重機を扱わなくても重たい荷物を扱える。ストレングスがあれば更に』

『アメリカでも導入しないの?』

『育成は始めてると思うよ。まぁ今は先駆者も居るしね。今回の工事のデータ、日本冒険者協会に取り寄せとかして良さそうな部分を模倣する辺りから始めるんじゃない?』

 

 ヤマギシにしてるみたいにね、と言いながら現場犬さんに視線を送り、少しだけ眺めた後ウィルは手前の料理に視線を戻した。初期の自転車操業みたいな会社運営を知る身としては、ヤマギシを真似るのはかなりリスキーな選択だと思うんだが。

 

 あのコンビニ一軒だった家族経営の会社がよもやでっかい工場を建てて総理を竣工式に呼びつける会社になるとは。たった数年でここまで環境が変わるなんて、あの頃の自分に言っても信じてくれないだろうな。

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