奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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感想が2件も同時に来るという初めての体験にテンションを上げてしまってつい書き上げてしまったんだ。ちょっと手が痛いので明日は普通にやります(反省)

誤字修正。244様、見習い様、kuzuchi様ありがとうございました!


第五十三話 彼らにとってのヒーロー

第五十三話 彼らにとってのヒーロー

 

 

『本日は、貴重なお時間をいただき私たちとお会いくださってありがとうございます』

 

 

口火を切ったのはブラス家の長女だった。

18という年齢の割には体躯の小ささが目立つが、立ち居振る舞いや口調、物腰等に品位を感じる。

ジャクソンの次男の方は完全に見た目通りだからこっちが世界冒険者協会の分かってる方だろうなぁ。

 

ブラス嬢の提案はいくつかあったが、まず最初に来るのはヤマギシチームの世界冒険者協会への参加だった。

これは、すでに日本冒険者協会に所属している事を理由に断る。日本冒険者協会と世界冒険者協会がどういう関係になるか分からないしヤマギシの一存だけで決めて良いものじゃない。話は日本冒険者協会と行ってほしい。

次の提案は世界冒険者協会で役人にならないかと言われたが、これも同じ理由で受けられないと伝えておく。

まぁ、この辺りは相手もダメ元って所なのかあっさり引いてくれた。

問題は次の提案だった。

 

 

『現在行われている冒険者の教官育成についてお話をしてあると思いますが、我々はこの冒険者の育成に強い興味を持っています。特に魔法の習熟訓練を行えるのは現在この奥多摩しかない。これを専門的に研究・開発する研究機関・・・有体に言えば大学のような物を作りたいのです』

 

『大学、ですか?』

 

『はい。現在皆様が開発している魔法燃料、エネルギーのブラスコとしても注目していますが、その魔法製品の開発に関しても現在は一部の天才の閃きだけに頼っている状態です。現在、魔力や魔法についてはほぼ何も分かっていない状態です。そんな状態ですらすでに世界を揺るがすような発明がなされています。そして、今貴方方が使用している翻訳魔法!直接対面していないと使えないと言われていますが、それも今現在の話です。これからどうなるかは分かりません。もし、技術や知識の蓄えによって、これが通信越しでも使用できる日が来たら・・・それは、人類史にとっても非常に大きな一歩だと思います』

 

 

迫力というか。彼女の魔法に対する情熱を圧力のように叩きつけられる気分だ。

しかし、なるほど。確かに今の俺達は魔法に対しては恭二が開発した物を使用しているだけの状態で、それは一個人に非常に寄りかかった危うい代物だ、というのは理解できる。

あと、この子の恭二を見る目が熱い。同じ目を良く向けられるからなんとなく分かるが、このブラスの長女・・・恭二を英雄視してるのかもしれない。

だが、理由が分からん。魔法に対して熱い思いを持っているみたいだが。

 

 

『成るほど、ブラスさんの仰りたい事は良く分かりました。実際俺たちも同じ懸念を持っているため、その解消の一手として魔法を教える事の出来る人物を育てるように努力しています。ただ、人を育てると言う関係で一足飛びにという事が難しいのが現状です』

 

『勿論そこは理解しています。その為に我々も次回の教官教育に参加する予定なので』

 

『ご理解いただけて幸いです。何分、小さな企業ですので人員の問題もありまして』

 

 

何せこの会議場に入りきる人数しか社員が居ないからなぁ。世界に名だたる大企業とは地力が圧倒的に違うのだ。

ブラス嬢もそこは理解しているのか、それ以上の提案はしてこなかった。あくまで今回は世界冒険者協会がどういう理念で動いているのかを俺達に伝える為に来たのかも知れない。

実際に話を聞いてみると、今まで感じていたうさんくささのような物が無くなったし。応援してもいいって思える内容だったな。

そしてこのまま話が終わるのかと思った時、ブラス嬢がジャクソンの次男に目線を送る。

 

 

『あ、あー。その、実は今日はあと一つお願いがありまして』

 

『お願いですか、どのような?』

 

 

いきなり提案ではなくお願いと言われ、真一さんが怪訝そうな顔で応えた。

 

 

『その、イチロー・スズキさんとキョージ・ヤマギシさんと、是非ダンジョンに潜りたいのです。彼ら・・・あなた方は、私達二人にとってヒーローなので』

 

 

そう言って恥ずかしそうに顔を赤く染めるギークと、同じく顔を赤く染める黒ゴスに会議場の空気は何とも言えない物になった。

おい、どうするよと恭二に目を向けて確認すると、仕方ないんじゃね?という表情で返事が来た。

という事で会議は終わり、他の仕事がある社長や真一さん達は席を立ち俺と恭二、沙織ちゃん、一花、の4名にジャクソン・ブラスコの人員を含めたメンバーで奥多摩ダンジョンに入る事になる。

とりあえず明らかに恭二狙いの黒ゴスちゃんは恭二と沙織ちゃんに押し付け、俺はギーグ君を担当する事にする。

一花も何となくこっちとの方が話しやすそうだしな。オタク同士通じるものがあるのかもしれないな。

 

ギーク君は独力で3層まで潜ったことがあるらしく、今回はフロントアタッカーを任せることにする。

また、黒ゴスちゃんは何と自力で回復魔法を使えるらしく、基本はギーク君と彼らの護衛2人を前衛に黒ゴスちゃんが援護を、そして手が足りない所を俺達がカバーする方式で行く。

そして銃社会のアメリカなのにギーク君なんと剣装備である。

 

 

『昔、中世の頃実際に使われていた剣を鍛冶師に打ち直してもらったんだ。銃は5層までは有効だけど6層、7層と行くとどうしても近接武器や魔法に見劣りするって、動画で学んだから』

 

『俺の動画を見てくれているんですね』

 

『もちろんさ!君が初めてTVに映ったCCNのニュースからここまで、全部の動画や画像を集めているよ!MEGAMANの時からずっと追いかけていたんだ!最近の動画ではエンターテイメントに寄ってるけど、随所で相手の行動を阻害したり一手先を読んで魔法を撃ったりしているだろう!勿論気づいていたよ!』

 

 

きっちりと事前に知識を仕入れてあるし、見てくれてありがとう位のノリで会話を振ったら矢のように返答が帰ってきた。

おお、うん。熱心だな。その調子で警戒をね。余り話に夢中になるのは良くないぜ。

 

 

『あ、ああ、すまない。話に夢中になるとつい、我を忘れてしまうんだ。普段は、こう簡単に夢中になったりしないよ。君が目の前に居るからずっと頭がパニックを起こしているんだ』

 

『ああ、うん、大丈夫。これから俺と君は命を預けあってダンジョンに潜るんだ。心を落ち着けよう。俺を頼ってくれていい』

 

『ああ!もちろん、もちろんさ。夢みたいだけど現実だ。僕は今奥多摩に居て、隣にマジックスパイディが居て、一緒にダンジョンに潜るんだ。国の友達皆羨ましがるよ!』

 

 

プロテクターを装備しながら、彼はそう言って笑顔を浮かべる。

向こうのブラス嬢も準備が整ったようなので、早速ダンジョンに入るとしよう。

さてさて。アメリカの代表の実力はどんなものかねぇ。

 

 




マジックスパイディ:米国の一郎のあだ名。スパイディはスパイダーマンの愛称であり、魔法を使うスパイダーマンという意味があるらしい。現在連載中らしい。

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