誤字修正、244様ありがとうございます!
「柄の部分に魔樹を使用してます」
「oh...」
刀匠、藤島さんの言葉に彼女はごくり、とツバを飲み込んだ。現状世界一高い木材とまで呼ばれる魔樹を消耗品でしかない刀の柄に使っているのだから、この反応は当然と言えるだろう。
新しい素材候補が見つかればヤマギシの技術部では最初に装備の更新が起こる。いや、装備を更新するための研究、と言うべきか。
この魔樹を使用した柄も、魔樹を使用した鞘も、魔樹を分解して作られた木糸を内側に縫い込まれたボディアーマーも、ここ1月、技術畑の社員が総力を上げて開発し、効果を確認している最中の物品だ。
「この、鞘。デスか。これはどういった意図ガ?」
「魔鉄には魔力を吸い込む特性があるのはご承知の通りだが、どうも付与した魔法はその溜め込んだ魔力で賄っている節があるからね。なら常に魔力を発し続ける鞘に収めれば長時間の魔力付与が実現できるのではないか、と考えたんだ」
「なるほどぉ!」
「……あれ。この案、確か冒険者部から出たって聞いたんだけど」
一つ一つ彼女の質問に丁寧に答える藤島さんの言葉に相槌を打つと、えっと驚いた表情を浮かべて藤島さんがこちらを見る。いや、案が出た時は「魔力を発する鞘に突っ込んだら付与した魔法がパワーアップするのでは?」というベンさんの主張にかっこいいなぁと思っただけで正直覚えてなかったというかね。うん。
「ダイ大は聖典だからね。仕方ないね」
「sacred book?」
「あー、うん。そういう言葉になる、かな? まぁ世の男の子達がついモノマネしちゃうくらい影響力の高い漫画だよ」
「ナルホド! ならイッチがダンジョンでひろーしてクレるデス」
「しないからね???」
実はこっそり練習はしてるけどな!
ダイ大は恭二が良くパロってるからいつか紋章閃やって煽ろうと思って練習し始めて、とりあえず見た目の再現は成功している。魔法の再現については難航してるが。
勿論、アバンストラッシュは傘で練習してる。真剣は危ないからね!
「というかさぁ」
「うん?」
「ハイ?」
ダイ大の良さについて語る一花に微笑ましさを感じながら、ふと気づいたことをぼやくように口にすると、一花と彼女は怪訝そうな顔でこちらに視線を向ける。この光景もまぁ結構久しぶりだなぁ、と感慨深くなりながら「いや」と一つ前置きを置いて。
「君等仲違いしてたのに、随分仲良くなってない?」
ポリポリと頬をかきながらそう尋ねる俺に、一花と
「今も絶許って感情はあるよ? でもそれはそれで関係ぶった切るかってなるとねぇ。色々困るじゃん? 色々」
「ワタシは、元々イチカ好キ、デスよ?」
「んー! 言いたい事多いけど! んー!」
なんとも言いづらそうな表情でうんうん唸る一花の頭をワシワシと撫でる。色々葛藤する所はあるだろうに、それを何とか整理して前に進もうとしているんだろう。
撫でられた事に気を良くしたのか、えへへーと笑う一花に俺の妹がこんなに可愛いなんて、と最近見たアニメのタイトルを思い出しながらケイティに視線を送る。
「で、どうだったケイティ。うちの大工場は」
「スバラしい、デス」
俺の問いに満足げな表情を浮かべてケイティが何度も頷いた。本当なら完成式典にも参加したかったそうなんだが、世界冒険者組合本部は例の映画の後が本当に大変だったらしい。結局日程が大幅にズレてしまい式典に間に合わず、完成から1週間たった今日、ようやく彼女は来日する事が出来た、というわけだ。
「でも米国にも似たような工場はあるんでしょ?」
「ヤマギシブラスコ、開発より生産、メインにしてマス」
「あー、なるなる。ここはヤマギシの開発設備全部入ってるからねー! 向こうとは空気も違うか」
ヤマギシブラスコというのは米国でブラス家と出資しあって誕生した、魔法を用いた製品の生産・販売を行っている会社だ。現在の主力商品は魔力電池に日本で生産した魔剣などの冒険者装備、それに研究機関向けにダンジョンで採取された素材等だ。
米国内で商売をする上で外国籍の企業のままじゃ色々不都合だからと設立された会社だが、米国の経済規模の影響下ヤマギシのグループ内では頭二つくらい抜けた売上を誇る企業でも有る。それに今現在、魔樹を少量とはいえ販売しているのはこのヤマギシブラスコだけだったりもする。
「大統領夫人の椅子、ヤマギシブラスコの魔樹で、作りマシタ」
「一個で豪邸が立つ丸椅子だっけ」
「ハイ、話聞いたトキ、安すぎる思いマシタ」
豪邸の値段がする丸椅子に対して安すぎる、と真顔で言い切るケイティに相変わらずの金銭感覚だなぁ、と苦笑を返す。不思議そうな表情を浮かべるケイティには、多分俺のこの感覚は一生分からんだろうなぁ。
「それで。日にちがズレちゃったせいで恭二は木こりにいっちゃってるけどさ」
誤魔化すようにそう口にして一花を見る。特に反応がない、という事はそのまま好きにしても良いという事だろうか。なら、まぁこのメンツだし。ケイティも多分、こっちがメインだろうしな。
「新層、見に行きたい?」
「――モチロン」
尋ねるようにそう口にすると、ケイティはにんまりと笑って首を縦に振った。オッケー、じゃあ特急で奥多摩に戻らないとな。ついでに途中で恭二も拾っていくか。ケイティと沙織ちゃんに挟まれた恭二も久しぶりに見たいしね。