奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。見習い様、名無しの通りすがり様、kuzuchi様、Black マン様ありがとうございます!


第二百六十九話 例の映画で漫画にも影響が出てるってよ

『――――以上を持ちまして第34回異種族意思疎通実験を終了します。この実験がより良い未来に繋がることを信じて』

 

 大画面のディスプレイに映るケイティの言葉と共に、画面は黒く変わる。静かだった室内にざわめきの声。ケイティとシャーロットさん、それに追随するように話す御神苗さんやベンさんというヤマギシでも屈指の頭脳派たちが。

 

 そして普段はこういう場合俺と同じくのほほんと口を開けて馬鹿面を晒している恭二が、先程画面に映っていた動画についてあーだこーだと言葉をかわす。

 

「ああいうの見ると、勝てないなぁって思うんだよね」

「うん?」

「ケイティ。あの娘、恭二兄ちゃんとは別ベクトルでダンジョンに狂ってるもん。あの情熱にはちょっと勝てる気しないんだよね」

 

 ヤマギシビルの冒険者部門専用居住スペースには、十数人が入れる食堂兼任の休憩室がある。

 

 キッチンも併設されたそこは団欒の場としてよく活用されており、料理が趣味の者が非番の際その腕を奮ったり、遊び好きな者が目新しいパーティーゲームを覚えてきてはそこで披露したり、あるいは隅の方で積み本を大量に読んだりと毎日誰かがなにかしらを行っている場所だ。

 

「積み本消化してるのは私とお兄ちゃんくらいじゃないかなぁ?」

「昨日……いやもう今日になってたか。夜中にふと目が覚めた時に見たんだが、シャーリーさんが真夜中にチクチク針仕事してたぞ。新しいコスチュームのアイデアが出たんだと」

「あの人、睡眠時間って概念知って……知ってなくない?」

 

 視界の先で元気に会議しているシャーロット・オガワ氏の姿に若干ほほを引きつらせながら一花はそう感想を述べる。

 

 こないだついに認定してはいけない特性ナンバーワンと言われていたあの人の特性が冒険者協会に認定された。【超回復】と言う名称のそれは、これまでとは全く別方面に世間を騒がせることになった。

 

「案の中にさ、【睡眠不要】とかいうのもあったらしいよ」

「それ広報で出しちゃいけないだろ、色々な意味で」

 

 ペラペラと週刊飛翔をめくる一花の言葉に、MSの新刊に目を通しながら答える。最近素の状態でも英語が読めるようになってきたのはやはりコミックを読みまくっているからだろうか。読みまくっているからだな、多分きっとメイビー。

 

「24時間本当に戦えちゃうからねぇ。CMの話もあったみたいだよ。赤牛から」

「さすがは赤牛」

 

 シャーリーさんは日系とは言え見た目がほぼ白人の上に超が頭につく美人だからな。白人圏の企業から結構イメージキャラに、とかいう話が来てるらしい。忙しいからって全部断ってるそうだが。

 

 最近は裏方に回ってばかりだが、初期のヤマギシチームメンバーの知名度の高さは今も変わっていないということだろう。

 

「……おお、そうなるかぁ」

「どったの?」

「いやね。今年始まった週刊飛翔の漫画で役者をテーマにした漫画があるの」

「役者? ガラスのマスクみたいな?」

「うん、そんな……うぅん、同じジャンルにしていいのか……?」

 

 悩むように首を傾げる一花の手元を覗き込み、読んでいる最中の週刊飛翔のページを見る。最近はバトル物や異能物、とくに右手に関わりそうなもの以外はスルーしているから、週刊飛翔も特定の作品以外は読んでいない。

 

 一花は満遍なく読むタイプで手広く新連載などもチェックしてくれているから、なにか良さげな作品があったらこうして教えてくれたりするのだ。

 

 ほー、タイトルは演者の刻か。絵柄は綺麗な……少女漫画でも通じそうな……

 

 …………

 

「どういうこと?」

「ねー」

 

 目に映るページではなんかどっかで見たような顔立ちのイケメンが主人公らしい女の子に「役になりきれないなら――役が出来る自分になればいい」とかそれっぽい台詞を吐きながら目の前で殺陣を演じていた。

 

「この主人公ちゃんが役柄の内面や感情を追体験するって技法を武器に演者として成長していくって話なんだけどさ」

「はい」

「なんかその技法の発展先の技術、真メソッド演技法の持ち主としてつい最近出てきたんだよね、特撮俳優山田太郎ってキャラなんだけど! ダンジョンに潜る冒険者でありながら特撮俳優の大御所に見いだされたった数年でスターダムに伸し上がった才能マンだよ!」

「山田太郎って」

「いやぁ、意外と皆同じ印象があるらしいね! あ、こら! 髪がぐしゃぐしゃになる!!」

 

 ケラケラと笑う一花の頭をグシャグシャとかき混ぜる。冒険者学校に通っていた頃の偽名をドンピシャで当てられてこっちは笑う余裕も出てこんぞ。

 

 というかこれ俺だけじゃなくて昭夫くんも混ざってる? むしろキャラとしては昭夫くんをベースにしてるのだろうか。

 

「昭夫くんが初代様の弟子ってのは有名だしね! 年1くらいで映画に出るだけのお兄ちゃんメインよりはキャラを膨らませやすかったんじゃない?」

「そもそも俺は冒険者なんだが」

「…………あ、そうだね」

 

 そういえばそうだった、と白けたような表情を浮かべる妹の姿に心を抉られる。失望しました、デップーのファン辞めます。

 

「そういえば最近、MSのコミックだとデップー良く出てくるよね!」

「魔法糸を使えば整形っぽいことが出来るんだっけ」

「魔法糸が消えるまでって時間制限あるけどね。侵食されないから少しの間だけ元の顔に戻せるみたい」

 

 MSのコミックは現在3シリーズまで出ている。1シリーズは突如開いたゲートにより現れたオークたちから妹を守るため、魔法に目覚めたハジメがMSになり戦いを繰り広げる話で、2シーズンは逆に異世界に趣き、争いの元である異世界の創造神・魔法蜘蛛の後継争いに参加する話。

 

 オークの王、エルフの大魔法使いと見覚えの有るキャラデザの方々を相手取ってなぎ倒し最終的に魔法蜘蛛の力を手にし、後継者としてそのまま異世界に留まるのかと思いきや妹が居るからとその地位を投げ捨てて地球に帰還。ちょっと違うがここまでは映画に近い流れだ。

 

 そして3つめのシリーズでは妹であるハナがとある魔法使いの元で修行を始めた為手持ち無沙汰になった為、各地に出来たというダンジョンを見回る生活を送っており――その過程で他のヒーローやヴィランとの関わりが増えていっている。

 

「行動範囲が広いのと、明確な役職がないからどこに居てもおかしくないってキャラ付けと、あと萌キャラだからって理由で便利に使われてるよね」

「萌キャラ」

「萌キャラでしょ。1・2シリーズの時はすっごい険しい顔で戦ってたのに妹がもう危なくないって確信した瞬間から『チミチャンガって美味しいのかな?』『美ン味いぞー!』『じゃあ食べる!』だよ?」

 

 一花は俺の手元にあるMSの新刊に視線を向けながらそう口にすると、丁度読み終えたのかパタンと週刊飛翔の新刊を閉じ、同じく大手漫画雑誌の週刊雑誌に手を伸ばした。

 

 視線を手元にあるMSの新刊に戻す。開いたページでは今まさに一花が言ったやり取りをするデップーとハジメが満面の笑みを浮かべてチミチャンガを食べ、そして何故か突っ込んできたサイを模したアーマーを着たヴィランとそれを捕まえようとする本家スパイディに料理を台無しにされ、ブチギレてバトルに発展するという展開だった。確かに萌キャラだわ。

 

 あの映画の後にこのコミックを発表する辺りマーブルさんの度胸は凄いと思う。見習いたいとは思わないけどな!

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