奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、decoy様、BD3rd様、ゴールドアーム様、見習い様、244様ありがとうございました!


第二百七十話 ウィルとのおしゃべり 木こりを終えて

 本日分の木こりを終え、集積所にしている入口付近の広場に今日切り倒した分の魔樹を積み上げる。ダンジョン内の木々は、潜るものが居なければ気づいたときには元の姿に戻るという環境破壊とは無縁の代物だが、逆に言えば誰かが居る限りは伐採した木々も元の姿には戻らない。

 

 いや、もしかしたら戻るのかも知れないが、少なくとも伐採開始から1月。恭二が持ち込んだ簡易拠点を使い、常に誰かしらが常駐している現状だと戻る気配は感じられない。

 

「ダンジョンの植生って謎すぎる」

『今更?』

 

 俺の言葉に木材の枝を切り落としていたウィルがプッと吹き出し、こちらに視線を向ける。しばらく暇だというウィルに作業を手伝ってもらっているのだが、思った以上に手慣れた手付きだ。

 

『そりゃあウチ、観光業で財を成す前は木材の生産・加工が家業だったからね。作業を知らなきゃって理由で製材所の雑用やらされた事もあるよ』

「あ。じゃあウチもしかして競合してる?」

『逆。米国の窓口、ウチなんだ。お陰でもう儲かって儲かって』

「ああ……落とした枝が取り分で本当に良いの? バイト代とか」

『同じサイズの金よりも価値があるからねこれ?』

 

 ウィルと掛け合いをしながら拠点に戻る。まだ恭二達は戻ってきていないらしく、拠点には事務作業を行っている冒険者部所属の社員と、仮眠を取る社員の姿だけがあった。恭二達は今日も例の実験のために38層に向かっており、帰りにこっちによって材木を回収する手はずとなっている。

 

「今日も熱心だねぇ」

『今はドローンを使って生態を調査してるらしいけど、彼女たちも不思議な生き物だね。食事を必要としていないらしいよ』

「足の根っこから養分とってるのかね」

 

 ケイティが主導して行っている実験は、第50回を超えた辺りから当初とは違ったアプローチを試し始めたらしい。

 

 らしいという曖昧な表現なのは、基本的にその実験に俺が参加していない為現状を知るには恭二や参加者に聞かなければいけないのと、どうにも実験内容への興味が余り沸かないのだ。

 

 あからさまに知性の有る相手だから相手を知ろうとするのはまぁ考えとしては分かるんだが。

 

「結局階段を突破できなかったのか」

『大ガラスやゴブリンでの実験と同じ結果だね。生きたまま他層へ続く階段やゲートに入り込んだモンスターは、煙のように消えていく』

「そんな実験してるのか、米国」

『明らかに僕らの知る生き物と違ったルーツの存在だよ? 学者じゃなくても知りたいと思うのは当然だと思うんだけど』

 

 学者さんの中には直接入って研究してる人も居るけどね、というウィルの言葉にロシアの赤パンを思い出しああ、と頷きを返す。セルゲイさん、ツブヤイターを見る感じ今も元気にあの格好でコロシアムに立ってるらしい。第二のレッドサイクロンと日本で呼ばれてるとか呼ばれていないとか。

 

「まぁ流石にあの人もダンジョンに入る時はちゃんと装備着てるしなぁ」

『誰の話かは分からないけど、どこの協会も装備品に関してだけはキッチリしてるからね。ケイティが今着けてるドレスアーマーみたいなのはあるかもしれないけど』

「あれもよく考えたらおかしいよな?」

『防刃・防弾繊維で編み込んであるから言うほど変な代物じゃないんだけどね。でも、付与魔法があればこそ成り立つ装備ではあるよ。お陰で付与の触媒になるメイジ系のドロップ品はいつだって品薄さ。欲を言えば魔樹を使いたいんだけどね……あ、そういえば』

 

 ふと思い出したようにウィルはポンと手を叩き、ノートPCに向かってカタカタと作業を行う社員を指差した。

 

『アレ、便利だよね。さすがはヤマギシ』

「うん? ノーパソの良し悪しはわからんけど」

『違う違う、ほら、テーブルの上にあるあのペンダントみたいなの』

 

 そう口にしてちょいちょいと指を動かし、ウィルがノートパソコンの脇に置かれている四角い箱を紐で吊るしたような形状のものを指し示す。

 

「ああ、虫よけだっけ。ぶら下げてるだけで効果があるとかいう」

『いや、あれエアコントロール付与された魔法具だよ。魔力持ちが身につければ自動的にエアコントロールが発動するんだ』

「マジで?」

『うん。というかヤマギシが開発した商品だよ……え?』

 

 俺の疑問の声に反応するように、ウィルがこちらを向いた。

 

「しょ、商品開発からは距離を置いていたので(震え声)」

『あ、うん』

 

 全てを察した、という様子でウィルは表情を消し、魔法具を指していた手を下ろす。

 

『あー。その、ヤマギシ開発部も頑張ってるからさ。たまには君のチャンネルで宣伝とかしてあげたら良いんじゃない? 他の動画配信者みたいにさ』

「気遣いありがとう、心が痛い」

 

 少しだけ優しい声音のウィルから視線をそらし、そっと胸を抑える。冒険用の道具なんかだと結構意見を聞かれるんだが、エアコントロール……いや、エアコントロールは冒険にも必要だしそれを知らなかったのは、うん。

 

「一度、シャーリーさんと相談してみて、かなぁ」

『それが良いね。ああ、そういえばこんな商品も……』

 

 俺の言葉に一つ頷いて、ウィルは指折り数えるように最近気になったという魔法具について話し始めた。フロートを使った浮遊するキックボード、ウォールランを使った壁にも登れる安全靴、ヤマギシが作ったもの、そうでないものも含めて結構な数の魔法具と呼ばれるものが世に出回り始めているそうだ。

 

 その中でも特にエアコントロールが売れ筋であるらしい。便利だからな、あの魔法。エアコンの名の通り猛暑だろうが厳冬だろうが周囲は適温になるし、虫だって寄ってこない。その上インフルエンザなんかも防げるのだ。

 

 自前でエアコントロールが使えれば必要ない魔法具だが、臨時冒険者などでとりあえず魔力を持ったという人も多いし。うん、会社の売上に貢献するという意味でも、一度調べてみようかな。

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