奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、見習い様、ゴールドアーム様、ハインツ・ベルゲ様、名無しの通りすがり様、見習い様ありがとうございました!


第二百七十二話 式典への参加

【スパイダーマンの日にニューヨーク市で執り行われたセレモニーでは本家とMSの両スパイディが参加し市民を喜ばせた。両名は式典会場であるマディソンスクエアに赤を基調とした蜘蛛柄のタキシードに身を包んで登場。ニューヨーク州知事の演説中に空中散歩からのスーパーヒーローランディングを決めて観衆を沸かせ、10分以上に渡る州知事の演説を切り上げさせる快挙を成し遂げた】

 

【写真:左右にスーパーヒーローが現れ両目を飛び上がらせるほどに驚く州知事の姿】

 

 

 

『会場に居た人たちは別の意味で拍手を送ってたかもね』

「炎天下で10分は死ねるよね!」

「一番暑い場所に居た州知事は元気だったんだけどね」

 

 護送車に囲まれた黒塗りの高級車の中、数人の道連れと共に車内に設置された冷蔵庫から取り出した良く分からない銘柄の缶ジュースをプシュッと開ける。うぅん、派手なお味。ここ数年で米国には何度も滞在してるがこの主張の激しいジュースの色と味にはまだ慣れない。あと匂い。

 

「ルートビアとか凄い匂いだよね!」

『米国だと庶民的な飲料なんだけどね。地域ごとに味も違うし、なんなら自家製とかもある』

「薬品の匂いがするからなぁ。好きなんだけどね」

 

 数人の道連れ――大学も長期休みになり暇を持て余していた一花と、同じく暇を持て余していたウィルがそう口にして缶のプルタブを開ける。日本で手に入る奴は飲むサロンシップなんて呼ばれてるくらいだからな。あの匂いが駄目で完全に受け付けないって人も多いんだ。

 

 まぁ俺も一花も問題ないタイプだからゴクゴクいっちゃうけどな! この炭酸と甘ったるい味のコラボが堪らん。

 

「出来ればチキンとか脂っこいファストフードが欲しい所だが」

『例の店でタコスでも食べればいいじゃないか。列に並んでる人たちも喜んで道を開けてくれるでしょ』

「…………あ、いや。その。俺としてはそんな知名度を笠にきたような真似は」

「揺れてるのがよく分かるなぁ!」

『良いんじゃない? あそこは君のパフォーマンスでNYの新名所として紹介されてるし、店舗側もお客さんもむしろ喜ぶと思うよ』

 

 ウィルの悪魔の誘いに心揺られていると、それまで黙ってスマホをいじっていた道連れの一人――というよりも今回のイベントを考えれば主役と言っても過言ではない人物、スパイディ本家さんがスマホから顔を上げてそう口にする。

 

 撮影現場では取り上げられてたから、と鬼のような勢いでSNSを弄ってた筈なんだが。あ、色々完了したと。お疲れさまです。

 

『この後は夜のミスター・リード主催のパーティーまで時間もあるんだろ? 折角だし軽く観光でもしていけば良いんじゃないかな。あ、写真良い?』

『それどうするんですか?』

『今MSとドライブ中って呟いたら嘘乙って煽られてさ……』

「携帯没収されるの残当じゃないかな!」

 

 これを撮影現場でやらかしたのが本家さんの凄い所だな。撮影自体は特に問題ないので三人並んで座って一花に写真を撮ってもらう。一枚目は私服の姿で、二枚目は変身を使ってそれぞれのキャラクターのコスチュームに切り替えて。

 

『ビフォー・アフター的な感じで良い! 映画のパンフレットとかに乗ってそう』

『ありがとうイチカ! さっそくアップっと』

『このメンバーなら次の復讐者本編ですかねぇ』

『僕パッチンされてるけどね!』

 

 HAHAHA!とアメリカナイズな笑い声を上げてウィルと本家さんがハイタッチを交わす。数ヶ月撮影を共にしているのと年齢が近いのもあり、この二人は友人と呼べる関係になっているそうだ。

 

 元々ギークだったウィルと本家さんだと意外と共通点が少ない気がするんだが。人の相性ってのは分からないものだなぁ。

 

 さてさて。本家さんの言葉ではないがマディソン・スクエア・ガーデンがあるマンハッタン島は観光名所の宝庫だ。タイムズスクエアにメトロポリタン美術館、ニューヨークのど真ん中にある広大なセントラルパーク。そして自由の女神像。

 

「後は変わり種としては日本の誇る女ロックミュージシャンが社長を務めるエキサイトプロは」

「……うん?」

 

 急に良く分からない事を喋り始めた一花の頭を撫でながら窓の外を眺めていると、頭の脳天をムズムズとなにかが動くような感覚が襲ってくる。

 

 あ、やべっと走行中の車のドアを開けて頭上を見ると――

 

 

ドゴォォン!

 

 

 通りに面した高層ビルの一つから爆発音が響き渡り、猛烈な勢いで炎が吹き上がる。ほぼ無意識のうちに近くにあった街灯にウェブを巻きつけ、車外に飛び出る。

 

 背後から響く妹と友人の声に大丈夫とだけ叫び返し、ウェブを巻きつけた街灯に飛び乗って頭上を見上げる。爆発したビルは炎上しながら何度か小さな爆発を起こし、周辺に火の粉と破片をばら撒いている。

 

「……やべぇ!」

 

 降り注ぐコンクリートの破片を目にした瞬間、ウェブを使って爆発したビルの真下へと移動し、ビルとビルの間にウェブを使って蜘蛛の巣を張り巡らせ、通りを覆うように蜘蛛の巣の屋根を構築する。

 

 だが。

 

「全部は……!」

 

 出来得る限り広くカバーできるように張り巡らせたが、そうすると今度は糸の密度が荒く、若干の隙間が出来てくる。こぶし大ほどの大きさの破片は、勢いこそ落ちるだろうが隙間から下へ落ちていく可能性がある。

 

 下に――

 

「お兄ちゃん!」

 

 一瞬の逡巡。それを断ち切るように響く妹の声。下には一花が居る。おそらくウィルも。

 

 なら、大丈夫だ。

 

 ウェブを使って爆発したビルに取り付き、壁を走って上階へと向かう。途中落ちてくる瓦礫にウェブを巻きつけて勢いを殺しながら、炎を吹き出すビルの中へと駆け込んでいく。

 

 常時展開しているエアコントロールによって炎と煙は避けることが出来る。問題はそれらによって視界を完全に遮られている事だが、それに関しては焦る気持ちはない。なにせこういう時のために存在すると言っても過言ではない変身が存在するからな。

 

「変身――スーパー1! 冷熱ハンド!」

 

 巨大戦艦すら一瞬で氷漬けにする冷凍ガスを左腕から照射し、燃え盛る炎を瞬時に鎮火していく。本来の設定なら惑星開発に用いられる、マグマすら凍らせかねない威力の冷凍ガスだ。流石に俺ではそこまでの威力を再現できないが、可燃物の少ないコンクリート製のビルの中ならばこれで十分だろう。

 

 通りに面した部分の消火を終わり、少しずつ内部の消火を行っていく。何が原因かは分からないが、昼間のビルの中での火災だ。逃げ遅れた人――生き残っている人が居るかもしれない。

 

 そういった人々を間違っても凍らせてしまわないよう慎重に冷凍ガスを用いて、俺はビルの内部へと足を踏み入れた。

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