奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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大変遅れて申し訳有りません。
次の話は出来るだけ早く書きます

誤字修正、灰汁人様、見習い様ありがとうございます!


第二百七十三話 缶詰

『現場を御覧ください! ○○○の上層部、30~33階部分の壁が完全に吹き飛んでいるのが見えるでしょうか! 氷漬けになった、そう、あの部分です!』

『爆発が起きた瞬間、だと思います。ええ。轟音と共に、いきなり前を走るリムジンからスパイディが……え、MS? ああ、そう。MSが飛び出るように、こう。糸を。そう、ウェブを使って飛び出したんです。ええ、飛び出した、です。私はそれを見てブレーキを踏んで、車を止めました』

『最上階のレストランにいたんです。いきなり、凄い。凄い揺れが――ああ、神様! 煙が黙々と下から上がってきて、私、怖くて……そう。でも、煙はすぐに無くなりました、少しして、店員が店内に居た人たちを誘導して、階段で下へ降りたんです。足も痛くて、でもそれ以上に生きた心地がしなくて、そう。30階の辺りが氷漬けになっていた、そう。なっていたんです』

『魔法ってのが凄いのは、ニュースで知ってたけどね。轟音が響いたあとに、上に視線を向けたんだ。そしたらアンタ、どうなってたと思う? 蜘蛛の巣だよ。しかもちょっとやそっとのものじゃない。通りを埋め尽くすような蜘蛛の巣が天井みたいに通りを覆ってるんだ。小さな穴? もちろんあったが、それも通りに居たスパイディが埋めてくれてた。ウィルも居たよ、声をかけられて、ああ。可愛らしいアジア人の女の子に手を引かれて避難したんだ』

 

 テレビを点ければ、どのチャンネルもどの番組も同じ場面を映し出していた。

 

 マンハッタン島のとある大通りで起きた真昼の悲劇。突如起きた爆発と火災、それに伴う爆風に寄って飛散したコンクリート塊やガラス片による数多の被害。世界有数の都市のど真ん中で起きたという事もあり、この事件はまたたく間に世界中に知れ渡る。

 

『三名。現場に突入した彼が救い出すことの出来た……生存者の人数です』

 

 現場の場面と関連付けられるように流れる映像。それには現在合衆国の最高責任者と呼ばれる人物が、沈痛な表情を浮かべて合衆国旗を背にして壇上に立ち――普段の荒々しさすら感じられる演説とは似ても似つかないような口調で、語りかけるようにマイクに向かって言葉を紡いでいた。

 

連邦捜査局(FBI)による捜査の結果、合衆国はこの事件を人災――人の手によって起きたものだと判断しました。火災及び爆発の発生地点で焼死体となって発見された○○氏の自宅で発見された書き置きと、専門の知識を持った捜査員による現場検証の末に』

 

 そこまで口にして、合衆国大統領と呼ばれる人物は小さく息を吐き、数秒の間瞼を閉じ……

 

『この事件は、記録上では世界初の――魔法を用いた犯罪である事が判明しました』

 

 一言一言を噛みしめるように、そう口にした。

 

 

 

「まぁ、表に出てないだけで実際はもっとありそうだけどね。特にアジアや中東とかの冒険者協会の支部がない地域だとさ!」

 

 ノートPCをカチカチと操作しながら、一花はテレビ画面に映る大統領の言葉にそう感想を述べる。

 

 件の事件の後、俺たちはほぼ丸一日を事情聴取や現場検証に費やし、それ以降は外出を制限されてホテルに缶詰状態になっている。世間の慌ただしさとはほぼ隔離された状態で、しかしテレビやネットでは俺たちがこの騒動の中心であるかのように扱われ。なんともチグハグだなぁ、と感じながら、テレビのリモコンを切り替える。

 

『合衆国政府は今回の悲劇に対して被害者とその親族に対し全面的な支援を行うと発表しました。またこの発表に合わせる形で世界冒険者協会のウィリアム・トーマス・ジャクソン氏が会見を開き――』

 

「お。ウィルも頑張ってるね! スーツ姿は珍しいけど、こうやって見るとやっぱりウィルも大企業の御曹司なんだねぇ!」

 

 テレビ画面の中では、つい先日まで共に缶詰になっていたウィルが、緊張した面持ちで世界冒険者協会のロゴを背負いながらカメラに向かう姿が映し出されている。事件の現場に立ち会った一人であり、世界冒険者協会の代表者格である彼は連日のようにカメラに囲まれながらも、疲れた様子一つ見せずに精力的に動いているらしい。

 

 俺も何かしら手伝いたいのだが、ウィルがここを出ていく時に「まだ君が出るには早い」と首を横に振ったため、テレビ越しに応援する事しか出来ない。

 

「ちゃんと頑張ってるじゃん。事情聴取だけじゃなく現場検証にだって協力して……それにお兄ちゃんがあの時飛び出さなかったら、助けられた3人だってきっと」

 

 現場検証と言っても、それは近隣に魔法の専門家と呼べる人間が俺たちしか居なかったからだ。米国警察やFBIに所属する一花の教え子たちが近くにいれば、捜査の素人である俺たちが協力できる事なんて無かっただろう。

 

 3名の生命を助けることが出来た。だが、それは裏を返せばあの現場に居た数十名の生命を助けることが出来なかった、ということになる。失ったものの責任を全て、なんて偉そうなことは、言えない。だが、魔法が関わっている事件で、その直ぐ側に居て、失ってしまったものが、手からこぼれ落ちてしまった生命がある。

 

 それが、たまらなく悔しい。

 

「……」

 

 自分が随分とネガティブになっているのは、分かっている。

 

 けれど……気持ちを切り替えようにもふつふつと胸の奥から湧き上がってくる衝動が、止められない。魔法を世に知らしめたのは恭二と俺だ。ヤマギシの皆やケイティ達の助けがあったが、恭二が大まかな魔法という枠を作り上げ、俺が様々な形でそれを広めた。

 

 大いなる力には大いなる責任が伴うという。なら、魔法という大いなる力を世にもたらしたものにも、責任があるのではないか。

 

「あー……」

 

 そんな俺の言葉を聞いて、なんとも言いづらい、と言わんばかりの表情を浮かべて、一花がポリポリと頭をかいた。まぁネガティブ全開の野郎の独白なんて聞いたらそういう表情にもなるだろう。

 

「いや、というかさ……はぁ……引っ張られすぎでしょ」

 

 頭を下げて謝罪を口にする俺に向かって深い溜め息をついたあと。

 

「バッカじゃないの? 長男くん」

 

 一花はそう言って、底冷えするような冷たい視線を俺に向けてそう言い放った。




次回 お説教
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