奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百七十六話 お寺訪問

 自分を見つめ直す。

 

 言葉にするのは簡単だが、実際にやろうとすると難しい。まずそもそも自分とはなんなのかなんて事から考えなければならないし、自分はこれこれこういう人間だ、と定義づけ出来たとしてそれが正しいという保証もない。

 

 多分、世界中を探したって自分自身を正しく理解できている人は居ないんじゃなかろうか、なんて思いながら、夏の盛りを迎えた奥多摩を歩く。

 

 家族と話し合って心が軽くなったのは確かだ。しかしどうにも問題が解決したようには思えなかった。そのまま休暇がてら奥多摩で数日のんびりとした日々を過ごしながら考えにふけり……このままではろくな成果も挙げられずに日にちだけが経ってしまうと判断を下す。

 

 時間は有限だ。目まぐるしく動く世界の中、俺だけがいつまでも休暇を過ごすわけにもいかない。できるだけ早くなにかしらの形で、自分の中にあるもやもやとケリをつけなければいけない。ヤマギシで雇用しているカウンセラーさんに話を聞いて貰ったりもしたのだが、どうにも前へ勧めた気がしない。

 

『なら、この方をお尋ねください』

 

 そう考えた俺は車を飛ばして西伊豆ダンジョンに向かった。悩んでいた時、西伊豆ダンジョンがある妙蓮寺の住職、前田さんの事が頭に思い浮かんだからだ。一時期お世話になっていた事もあり、前田さんになら自身の事を相談しても問題ないと考えたのもある。

 

『昔、私が修行時代に知己を得た禅宗の方が居りまして。かなり破天荒な方ですが、彼ならきっとお力になってくれるはずです』

 

 手書きのメモ帳に書き込まれた見覚えのない住所と、書き込まれた蜜林寺という名前。なぜか苦笑を浮かべる前田さんに礼を言い、一花を連れて隣県へと車を走らせた。

 

 

 

「運転してるの! 私だけどね!!」

「いや、俺右手これだから」

「うーん、義手!」

 

 一八歳になってすぐに免許を取ったという一花に車を出してもらい、山道を走る。グネグネとした峠道は運転に慣れたドライバーでも危ない場合があるが、一花は危なげないハンドルさばきで車を走らせる。

 

 16の頃からダンジョンでSUVを乗り回してたからな。経験が違う。

 

「ダンジョン内部ってどういう法律が適用されるんだろね。国際法?」

「私有地で良いんじゃないか。日本冒険者協会が手を入れまくってるけど、奥多摩ダンジョンは便宜上今も山岸家所有のプライベートダンジョン(個人迷宮)だぞ?」

「ああ。タイトル回収、タイトル回収」

 

 うんうんと頷きながら意味のわからない事をつぶやく一花に首をかしげスマホに視線を向ける。そろそろ到着するようだ。山奥だが、意外と電波が通っている。さすがはキノコという所か。

 

 目的地のお寺は、舗装された山中の国道から砂利道の私道に入り、10分ほど車を走らせた場所にあった。昔ながらの木造の門をくぐり境内の中へ入り、所々雑草の生えた石畳を歩く。あまり綺麗に手入れされているようには見受けられないが、荒れ放題というわけでもない。

 

「人は住んでる、みたいだね。管理が甘いっちゃ甘いけど」

「ああ。ごめんくださーい」

 

 一花の言葉に頷いて、一番大きな仏堂に向かって声を張り上げる。十秒ほど待つも返事が帰ってこないため、ぐるりと境内の中を周って生活するための建屋を探す。

 

 正面から仏堂を右回りに進むと、奥の方に一件の小さな家屋が見える。あそこがこの寺の住職さんが住む家だろうか。

 

「ごめんくださーい」

 

 網戸だけがしまった入り口に向かい、声を張り上げる。十数秒待ち、もう一度。今度はもっと大きな声で呼びかけるも返事は帰ってこない。

 

「おかしいな。今日、このくらいの時間に来るとは前田さんから連絡が言ってる筈なんだが」

「あ、私ちょっと回って見てみるね」

 

 そう口にしながら、不作法は承知の上で玄関先から中の様子を伺ってみる。明かりはついていないようだが、奥の方を目を凝らしてみると影のようなものが寝そべっているのを見つけた。

 

 なんだ、寝ているだけか。そう安堵の吐息を吐こうとした時。血相を変えた一花が、家屋の影から姿を表した。

 

「お兄ちゃん! あれ倒れてる! 床に、うつ伏せに!」

「……!?」

 

 一花の叫び声に慌てて網戸を開け中へ。人影へと近づき、義手を外して右手を出現させる。人命救助に四の五の言っている場合ではない。変身はロックマン。右手のバスターにリザレクションを込めながら倒れた人――袈裟をつけた男性を抱き起こし、仰向けに寝かせ直す。

 

 呼吸は……問題ない。上下する胸に安堵しながら右手を男性に向け、込めたリザレクションを男性に向かって放つ。俺の変身の中だと、これが一番即効性のある回復手段だから仕方ないとはいえ、普通の人にバスターを撃つのはやはりいつまでたっても慣れないな。

 

「うっ……」

 

 リザレクションを受け、小さくうめき声を上げる住職さんの姿に安堵し…………うん。

 

「お兄ちゃん、ど……う?」

「ああ……大丈夫、だと思う」

 

 玄関先から駆け込んできた一花の言葉にそう答え、俺は幸せそうな顔でいびきをかき始めた、明らかに外人だと分かる顔立ちをした男性に視線を向ける。

 

 前田さんからの紹介とは言え――胸に過ぎった不安に口元を引くつかせながら、先程まで仰向けになっていた男性の全身から臭う異臭に鼻をつまむ。酒臭いのだ、とんでもなく。

 

 これもしかして酔っ払って寝てただけでは?

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