奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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前話だけだと少し尻切れトンボに感じたのでオマケをつけてみました。
本編更新じゃなく申し訳ありません(白目)

誤字修正、244様ありがとうございます!


第二百八十三話のオマケ

 バタン、と激しくドアが開かれる音。背後から困ります、と呼び止める警備員の声も無視して、ドアの中へと飛び込む。

 

 ドアの向こうに広がる風景。幾度か、未だ若き後輩に招かれて入ったことのある談話室の中には、見知った顔と見知らぬ顔がいくらか。彼らがこちらに驚いたような表情を向けてくる中、呼吸を弾ませながら室内を見渡し。

 

 探し求めたその顔は。もう、会うことがないと思っていた彼の驚いたような表情が目に入った。

 

「……風見」

 

 つぶやかれた一言に。その懐かしい声音に。そして、彼がどうしようもないほどに“結城丈二”であった事に。

 

 呼吸を弾ませながら、口を開こうとして。何かを伝えようとして。

 

 けれど、伝える言葉が見つからなくて。

 

 ∨3を演じていた彼は、ただ黙って、“結城丈二”を見続けた。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 

 

 どれだけの時間が経ったのか。

 

 ポン、と肩を叩かれ、彼と“結城”の間で止まっていた時間が動き出す。彼が振り返ると、そこには見知った顔――彼らの始まりとも言える男が、何かを噛み締めるように口元を歪めて佇んでいた。

 

「連絡助かったよ、一郎。彼は……“結城丈二”なんだな?」

「はい」

 

 確かめるかのような男の問いかけに、談話室で佇んでいた後輩が即座に肯定を返す。

 

 ああ、そうか。

 

 そうだとは分かっていた。直接あって、確信ももった。

 

 けれど、今。先達と後輩の言葉で。その事実が、確定してしまった。

 

 彼は…………“結城丈二”なのだ。あの家族思いな先輩では、ないのだ。

 

「久しぶりだな、“結城”。また会えるなんて思っていなかった……本当に」

「――“本郷”、俺は」

「分かっている。お前が“彼”ではないのは、良く分かっている」

 

 だが。

 

 そう一つ前置きを置いて、初代と呼ばれる男は。

 

「それでも今、俺は本当に嬉しいと感じている。きっとお前も……そうだろう、“風見”」

 

 ニッと口元を歪めて、彼にそう語りかけた。

 

「……ああ。ああ、そうだな」

 

 その笑顔に、胸の奥で渦巻いていた様々な感情が吹き飛ばされて。

 

 つくづく敵わんなぁ、と頭を振って彼は。“風見志郎”と呼ばれた事のある彼は、首をふるふると振って目の前に立つ“結城丈二”を見る。

 

「今度……」

 

 口を開き。少し躊躇して。そして意を決して、彼は結城丈二に話しかけた。

 

「今度、俺の尊敬する――ある俳優の墓を参ろうと思う」

「…………」

「都合が合えば。もし、合えばでいいんだが」

「分かった。一郎くんの都合もあるが、出来る限り努力する。同行させてくれ」

 

 彼の迷いを含んだ言葉に、結城ははっきりとした口調でそう答えた。その仕草に、かつての先達の姿を思い出す姿に苦笑を浮かべていると、初代と呼ばれた男がヨシ!と声を張り上げる。

 

「久しぶりに飲みに行こうか。連絡が着く奴には声をかけて――ああ、一郎。もちろん来てくれるな?」

「ハイヨロコンデー」

「それ以外の回答がない質問来たね! まぁお兄ちゃん近くに居ないといけないしどっちにしろ」

「一花ちゃんも来るかい。ああ、ウィル、久しぶりだね。そうだ、仲間に紹介するから君もどうだい」

「ハイヨロコンデー」

『師匠のお誘いは断れないなぁ。ケイティはどうする?』

「では、ご一緒に。あ、キョーちゃん、呼んできマス。ノミニケーション、デスよね?」

 

 俄にざわつき始めた室内。場の空気を自分色に塗り替えた男は、手近に居た後輩を捕まえた後に携帯電話を取り出しどこかへと電話をかけ始めた。

 

 これは、予定が空いている連中は全員連れてこられるな。確信に近い予想を懐きながら、彼は携帯を取り出す。

 

 家族に、今日は帰らないと伝えることと。そして。

 

「墓参りに伺わせて頂く旨を、伝えて置かなければな」

 

 彼が亡くなってからは一度も使われなかった連絡先。電話帳に、念の為として登録していたその番号を選択して、携帯電話を耳に当てる。

 

 驚かせてしまうだろうか。いや、もし繋がらなければどうしようか。

 

 様々な事柄を頭に思い浮かべながら、彼はコール音に耳を傾けた。

 

 

 

「新しい特性を公表する? 大丈夫なのか、それは」

「大丈夫じゃないですが、仕方ないんですよね」

 

 意外そうな声で俺の言葉に反応した初代様に、そう返事を返してパクパクと握り寿司を口に放り込む。1店舗目に焼肉、2店舗目が中華と来ての寿司。油分多めの所にSUSHIでさっぱりと。完璧なチョイスだ流石初代様。さす初

 

「お前さんが1店舗目と2店舗目の食材を食いつぶさなきゃ焼肉で終わってたんだがなぁ」

「いやぁ、食べ盛りなんで」

「ここまで食える人類が他に居るとは思えないが」

 

 くつくつと笑う初代様にそうですかねぇ、と相づちを返し、パクパクと皿を空けていく。流石に他の人達はもう限界なのか、軽く寿司をつまんだ後は飲酒にシフトしているらしく。俺の前にはどんどんと他の面々が頼んだ寿司が回されてきて、そして空き皿になってうず高く積み上がっていく。

 

「す、すみませんイチロー先輩、もうギブです」

「ああ、もらいますよ」

 

 申し訳無さそうにするゲームくんから皿を受け取り、ヒョイヒョイっと残った寿司を口に放り込む。うん、美味しい。

 

 食べ終わった皿を返すと、ゲームくんは唖然とした表情を浮かべたまま思わず、という風に口を開いた。

 

「……先輩ってプププランドに親戚がいたりします?」

「(居るわけ)ないです」

 

 丸い悪魔とは縁もゆかりも無いんだ。あっちがコピー能力持ちだからたまに比べられる事はあるけど。

 

 大体、今の食欲もアレだ。結城さんの維持に全力傾けてるからであって、普通はこんなに食べられないからね。誰か出してる間は文字通り満腹感とは無縁になるくらい腹が減るけど。

 

「そうか。すまんな、面倒をかける」

「あ、いえ」

 

 なにか思うところがあったのか。軽く頭を下げる初代様の言葉に首を横に振って答え。

 

「まぁ、こういうのもたまには良いんじゃないでしょうか」

「……そうだな」

 

 座敷の片隅。二人きりで、サシで飲み交わす二人の姿に視線を送りながら、初代様と頷きあう。

 

 あの光景のためなら、一晩くらい食べ続けても良い。心の底から、そう思える。

 

「……で、事情ってのはなんだ。聞いても良いたぐいの話なら、力になるが」

「ああ、いえ。まぁ聞いてもらっても問題ありませんよ」

 

 少し声を落とした初代様の問いかけに首を振る。そう、これに関しては別に聞いてもらっても構わないものだ。というか、できれば初代様には知っていてほしい類の事でもある。本当ならば隠し通していたい事柄ではあるのだが、人の口に戸は立てられないものだし、何かの拍子に事実が露見する事もありえる。

 

 ニューヨークで起きたテロ。あの時のような状況がまた起きた時。その時、力を隠すなんて真似が自分にできるのか。それが、自分でも分からない。

 

「まぁ平たく言うとですね、知らしめたいんですよ」

「うむ」

 

 そうつらつらと考えながら、初代様に合わせるように少し声を落として。

 

「俺の能力はあくまでも演じる事であって――死者蘇生じゃないって」

 

 V3さんと飲み交わす結城さんへと視線を向けながらそう言って、俺は残った寿司を口に放り込んだ。

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