誤字修正。見習い様、244様ありがとうございます!
「お控ぇなすって! お控ぇなすって! 手前、生国と発しますは江戸――」
「おっしお前ちょっと来い!」
仁義を切り始めた姫子ちゃんの首筋をぐいっと掴み、一花は部屋の隅まで彼女を引っ張っていく。そのまま壁際に姫子ちゃんを追いやり。
ドンッ!
壁に穴が開くんじゃないかという強さで壁に手をついた。
「壁ドンだ……」
「壁ドンだな」
「わー、壁ドンだぁ!」
『壁ドン……なるほど、アレが……』
思わず口から出た言葉に恭二と沙織ちゃん、そしてアガーテさんが感心したような声音でそう返す。一花と姫子ちゃんだと壁ドンしてる側が大分見上げてる構図になってて違和感があるな。姫子ちゃんたしか170くらい身長あった筈だから、20cm近く身長差があるのか。
ガミガミと小声で捲し立てる一花に顔を引くつかせて何事か言葉を返している姫子ちゃん。稀によく見る光景だ。
『確かダンジョンプリンセス……だったか、動画配信を生業としている』
「ええ。一花の友人で俺たちの後輩です。ご存知で?」
『ダンジョン関連の動画配信者で20層を突破できる人間はほぼいないからね。一路やヤマギシ関係者を除けば――思い当たるのは四国ダンジョンのマスターくらいじゃないか? 当然チェックしてるさ』
次あたりの教官試験に出すんだろう? と上目遣いに尋ねてくるアガーテさんに、軽く首を横に振って答える。例年三顧の礼で参加を要請される一花なら兎も角、俺はここ数回教官試験には関わっていない。誰がいつ参加するかなんて情報も当然耳には入ってこない。
まぁ、姫子ちゃんは毎回
「そこんとこどうなの、姫子?」
「確かに協会からは教官免許を取らないかって誘われてる。でも、教官免許持っちゃうと色々面倒が増えるんだよねぇ……あ、ご挨拶遅れて申し訳ありません一郎先輩。山岸先輩と下原先輩もお久しぶりです。それと……」
「ああ、気にしないで気にしないで」
「お久しぶり。元気そうだな」
「姫子ちゃん久しぶり! 相変わらずおっきいねぇ!」
『初めまして、ダンジョンプリンセス殿。私はアガーテ・バッハシュタイン。名前だけだが、ドイツ冒険者協会を預かっている者だ』
どうやら話し合いは終わったらしい。不測の事態により中断した挨拶を交わして、一花と姫子ちゃんが席に戻る。所で沙織ちゃん、そのおっきいってのは身長の事だよね? 視線がちょっと下な気がするんだけいや止そう俺の勝手な考えで(ry
「……所で私、なんで呼び出されたの? 講義抜けるのかなり面倒だったんだけど」
「そのたわわに実ったメロンであそこの合法ロリからお兄ちゃんを奪い取って」
「お前ガチで殴るぞ?」
一花と姫子による心温まる親友同士の会話から目を背ける。俺は何も聞いてない。
『……もしかして、一路はああいうデカい女が好み、なのか? わ、私もCはあるぞ? 脱げば凄いんだよ、ほ、本当だ』
「(脱がないで)いいです」
「お兄ちゃんが初めて拾ってきたエロ本から初めてアキバ遠征して買ってきた同人誌にエロゲまで網羅してる私が言うんだから間違いない。姫子、今のアンタは間違いなげべ」
余裕が無いのか調子に乗ったのか、物凄いことを口走り始めた実妹の口をげんこつで黙らせる。
暴力? これはどう考えても教育的指導だろ常識的に考えて。身内だけの場なら兎も角アガーテさんも居るこの場で口にするような内容じゃないし、なにより。
「自分の友だちを、そんな風に扱うんじゃない」
一花と姫子ちゃんの友達付き合いがどういう物かは知らないが、今の一花の言葉はどう考えても友人――いや、人に向かって言って良い言葉じゃない。たとえ冗談だろうと、余裕がなかったのだろうと関係ない。
俺の言葉を聞いた一花は少しの沈黙の後。グルグルと回っていた瞳をパチクリと瞬かせて深く息をすって吐き出した。
「……そう、だね。ちょっとテンパってたわ。ごめんね、姫子。私今、最低だった」
「ん、んん……まぁ、なんとかなったから良いよ。アンタがああいう事やるくらい焦ってたんでしょ。なら、許すわ。んなどうでも良い事よりあの小さい魔女っ子はあれ何? なんで一郎先輩の膝の上でメス顔晒してるの? 処す? 処すの? そのために呼んだんだよな? 呼んだと言え」
「どうでもいいってアンタね……ドイツ製厄介夢女子だよ。行動力だけはやたらとあるからフリーハンド与えるのは不味いと思って」
姫子ちゃんに頭を下げる一花とそれを受け入れる姫子ちゃん。その姿にうんうんと頷いているとやたらと性能の良い耳がパワーワードを拾ってきた。ドイツ製厄介夢女子とは一体。
『おや。マスターイチカは私が一路と恋仲になるのはお望みではないようだね? 残念だ。私は貴方の事もとても好ましく思っているんだが』
「アガーテさんは嫌いじゃないけどさ。アガーテさんが好きなのはお兄ちゃんじゃなくて”結城一路”でしょ?」
「……え。何。この人本気で一郎先輩狙いなの? え? ドイツの人だよねこの泥棒猫」
俺の膝の上でクスクスと笑うアガーテさんとブータレた一花がにらみ合い、話の流れについていけない姫子ちゃんがキョロキョロと周辺に視線を向ける。
俺に視線を向けられても困るし恭二と沙織ちゃんはこういう話だと役に立たないというか恭二は絶賛沙織ちゃんとケイティとで恋の鞘当て中だからな。ほら、居心地悪そうにしてるしお前こそとっとと決めれば良いのに。
まぁ、こういう場合は余計な事をしないほうがいいもんだ。スルーで安定――
「ああ! そういやお前デカい子好みだもんな。ケイティの妹のジェイとか好みのタイプだよな。あっちとはその後どうなってんだ?」
――安定だと思ったら率先して場を引っ掻き回しにくる奴が居るらしい(震え声)
「恭二お前……お前さぁ!」
「このタイミングでそういう話題を振ってくる辺りさ! 恭二兄、性格悪いよね!!」
「いや気になっちゃって。興味本位だよ、ホント」
ニヤニヤとした表情を浮かべる恭二に震える指で首を掻っ切るジェスチャーを送ると、恭二はゲラゲラと笑って親指を立てた。
その露骨な挑発にヒクりと頬を引きつらせる。こいつ……まさか席を立つためだけにその話題をチョイスしたのか? チョイスしたな! ちょっと会話の内容が自分に飛び火しそうだから逃げるためにガソリンぶちまけやがったな!?
「――よしわかった。表に出ろ」
「オッケー。いい運動しようぜ」
とまれ誘われた以上はそれに答えなければ無作法というもの。というより普通にムカついたのでちょっとこいつボコる(半ギレ)
周囲の女性陣を置き去りに俺と恭二が連れ立って席を立つ。そのニヤケヅラに
なお表に出た結果は痛み分けでした