「……きょうじぃ」
「なんだぁ……」
「しんだぁ……?」
「……ああ……いや……」
地面にうつ伏せになり、砂の味を噛み締めながら絞り出すように言葉を発する。近くで同じようにぶっ倒れているだろう恭二は俺の言葉に相槌を返し。
「いきてるさ……俺も、お前も」
「だなぁ……」
そう息も絶え絶えに軽口を叩いて、そして力尽き、荒野はまた静けさを取り戻した。体をピクリとも動かせない、文字通り死力を振り絞った状態。ここまで消耗したのは初見のバンシー以来じゃなかろうか。
いや、あの時も戦闘後に動く余力はあったから、それ以上か。
右手は……イケるな。ミギ―に変身を変えてリザレクションを撃ってもらうのが……いや。その前にダイイングメッセージを書いとくほうが先か。犯人は、ヤスっと。
「この状態でボケる余裕があるのは凄いね!」
「す……しゅご……しゅごい動画を撮ってしまった……っ」
うつ伏せになっているから顔までは見えないが、面白がっている気配はしっかり感じてるんだぞお兄ちゃんは。早めに助けてくれんかね、マイシスター&マイ後輩。
「言いたかないですが馬鹿じゃないですか?」
「「すんませんっした!」」
ヤマギシビルにある冒険者部の事務室で、腰に手を当ててやれやれといった顔を見せる御神苗さんに男二人で頭を下げる。模擬戦の影響でゴーレムの狩り場を荒らしちゃったからな。事前に申告してはいたんだが、ちょっと熱中しすぎたか。
「熱中しすぎた、で周辺にクレーターを量産しないでください。拠点用のキャンピングカーに一発でも当たってたら洒落になってなかったですからね? 反省してます?」
「「はい」」
「はいじゃないが」
呆れたような御神苗さん(冒険者部係長待遇)の言葉に項垂れる部長と副部長が居るらしい。いや、流石に反省はしてるしある程度気は使ったんですよ。実際に一発も当ててないし。
『一発当たればオシャカだからな! 戦車でゲリラが潜む街中を走破するよりスリリングなドライブだった!』
そのキャンピングカーを運転していた白人の兄ちゃんが、サムズアップと共にそう豪快に笑い声をあげる。マニーさん米軍移籍組の後輩に当たる彼は、昨年まで戦車兵として中東で軍務についていた事があるらしい。
ガチの紛争地帯よりもスリリングだったのか。スリリングだったんだろうな。俺も恭二の弾幕を車で避けろって言われたら躊躇するわ。
バイクならまぁ……雨あられと降り注ぐ魔法をライダーマンマシン2号で、ならちょっとやりたいかもしれん。
「飛んでくるのが対戦車ロケット弾じゃなくて連射のきく魔法だからな。そりゃ怖いわ」
「とは不死鳥を連射していた山岸恭二氏のお言葉です」
『いや、一番怖かったのはライダーマンのガトリングだったぜ?』
……よし! この話は終了だな。
「本当に反省してます?」
「「はい」」
抑揚のない御神苗さんの言葉に両膝を地につけて頭を下げる。DOGEZAで……DOGEZAで許してもらえるだろうか……
「それで許してもらえたの?」
「DOGEZA5発目でなんとか」
気付けに初代様ブレンドのコーヒーを楽しみながらマイシスターの言葉にそう返答を返すと、一花はああ、と小さく呟いて苦笑いを浮かべた。許してもらえたというより向こうが根負けして折れてくれた、のが言葉としては正しい気がするけれどね!
まぁ実際の所、キャンピングカーに当たらないように俺も恭二も気を使ってたし、それは運転手の兄ちゃんも証言してくれた。なんも考えずに俺たちが戦ってたら間違いなく周辺が砂漠から更地になってただろう、くらいのものだが。
「所でそっちのお話し合いはげふん。ええと、どういう感じで終わったのかな。俺聞いても良い感じの結論に達した?」
「うん、まぁ……随分及び腰だけどどったの?」
「あの流れの話し合いに及び腰にならない野郎がいるのか……?」
居るとしたらとんでもない恋愛経験値を積んだリア充かサイコパスくらいなんじゃないだろうか。
というか、今更気づいたのだが一番の当事者であるアガーテさんの姿が先程から見られない。もう一方の当事者?である姫子ちゃんは先程からスマホに向かって奇声を発してるからおそらく配信中なんだろう。
「奇声というかアレは罵り合ってるだけ……ごほん。アガーテさんは日本冒険者協会に挨拶に行かなきゃいけないんだって」
「罵り合う配信とは。ええと、そうか。アガーテさんもドイツ冒険者協会の代表だからな」
「そそ。で、話し合いの結果だけど……お兄ちゃんってさ。今好きな人。ライクじゃなくてラブな人って居る?」
「居ない」
「あー。そっか」
呟くような声音の質問に、正直に答えを返すと一花は困ったような顔で天を仰ぐ。一花を困らせるつもりは全くないんだが、ここで嘘をついたり変な見栄を張ってもろくなことになりそうにないしな。
今回、一花が想定して話題にしただろう人たちに魅力がないって意味じゃない。ただ、俺の中で現在、彼女たちはそういう対象じゃないというだけだ。
あと、これは流石に口に出すつもりはないんだが、正直な話最近、というかここ一年、異性に対しての衝動みたいなのが薄くなってたりする。薄くなっているというよりは、なんというか。気分が盛り上がりそうなタイミングで冷水がかけられる感覚、というのだろうか。
多分これ、今まで気づいてなかっただけで内部の面々の視線みたいなものを感じてたんだろうな。河川敷に捨てられてるエロ本を拾おうとしたら知り合いが通りかかってきたレベルで一気に冷え込むんだ。気分が。
「恭二兄とガチバトル出来たってことは、もう完全復活って事だよね」
「ああ……まぁ、そぅだな」
俺の回答に一花はうん、と頷きを一つ返し「じゃあジェイとイヴにも連絡しとくね!」いつもの調子で声を上げて未だにスマホに叫び続ける姫子ちゃんの方へと歩いていく。
その背中を見送って、すっかりぬるくなったコーヒーに口をつけ。ふぅ、と小さく息を吐いて天を仰ぐ。
最低でもあと1回、こういう話し合いがあるのか。あるんだろうなぁ(震え声)