奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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遅れて申し訳ありません

誤字修正、見習い様、まつーん様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第二百九十三話 一郎が居る意味

「世に出すとしてもヤマギシさんの名義では出さないでほしい、というのが政府側の本音です」

 

 一服を喫したあと、社長と社交辞令のやり取りをしていた総理は、場が整ったと判断したのかそう言って俺の隣に座ったアガーテさんを見た。ほぅ、と小さく息を吐くアガーテさんを後目に、社長の隣で社長のフォローに回っていた真一さんが総理に言葉を返す。

 

「それはヤマギシにこの件から手を引け、という要請ですか?」

『もしそうならそれは無体、というものだ。現状の開発計画はヘル・キョージ・ヤマギシの協力が無ければ成り立たない。前提となる新規魔法を開発する所から始めなければならないからね』

「ああ、いえ。勿論、魔法研究の最先端に居るヤマギシさんを除いて、などという事ではなくですね」

 

 真一さんとアガーテさんの言葉に、総理は困ったように眉を寄せる。

 

「今回のMR、という技術ですね。これの開発に関して政府は関与するつもりはありません。勿論、政府出資で運営されている日本冒険者協会が関わる以上は、その立場に沿った意向を示す、くらいはありえますが……」

「で、あるならばなぜ」

 

 歯切れの悪い総理の言葉に真一さんが首を傾げて尋ねると、総理は言いづらそうな表情のまま口を開く。

 

「ヤマギシさん主導でこの技術を開発する、というのは問題ありません。問題は、ヤマギシさんの名前でこの技術を発表したあとの諸問題を我々は恐れています。私の予定を全てあとにしてヘリを回させるほどに」

「……それは」

「政府内でも魔法技術についての研究会は存在します。MRという技術についての情報が二時間ほど前に来た際、その会に在籍する専門家たちはこぞって絶賛していました。革新的という言葉すら陳腐化するほどと表する人物も居たほどです。その際の報告書には竿がどう、という単語が混ざっており……それについては、よく分かりませんでしたが」

「分からなくてもいいと思います」

 

 政府内の研究会とは一体。一瞬尋ねて見たくなるもやぶ蛇になりそうだと思い直し、開きかけた口を閉じる。というかこれアレだな、俺なんで呼ばれたんだろう。さっきから総理と真一さん、それにアガーテさんとの間でしかやり取りが起きてないんだが。

 

 社長は……空気を吸う作業で忙しそうだな、ヨシ。

 

 視線を向ける先に困って周囲を見渡すと、この場の亭主でありお茶を点ててくれていた姫子ちゃんが石のように硬そうな表情を浮かべたまま、手慣れた手付きで茶器を片付けている姿が目に入った。

 

 これアレだ。一切この場の会話を耳にしていないって感じの表情だ。もしかしたらこれがこの場での一番正しい処世術なのか……?

 

「政府が不味い、とする理由はいくつかありますが、端的に言えばヤマギシさんの名前が強すぎるのです。ここ数年、ヤマギシというブランドが世に送り出した技術は世界の常識を塗り替え続けてきた。『あそこが出すならば』という無形の――信仰にすら近い信頼がヤマギシという名前にはある。その名前の元に安易に送り出すには、この技術は劇薬にすぎる。役に立つ、立たないではありません。概要を聞いただけの私ですら分かる、この技術は効果が強すぎる」

『一国のトップにそう評されるとはね。技術者として鼻が高いと言えば良いのか、まだ開発もされていないものに大げさな、と言えば良いのか』

「作れる。だからこそ貴女はこの国に来て山岸恭二と接触した。そうではありませんか?」

 

 であるならば俺もなにか気を紛らわせれば何も聞いていないと断言できるのではないだろうか。いや、きっとそうに違いない。よし、と思い立ってみたもののいきなり思考を横道に、となるとなかなかに難しいものがある。

 

 こういう時は最近あった事を思い返そう。つい最近、先程、呼び出しを察して逃げる妹、鳴り止まない上司からのコール。

 

 ――うん、もっと前の事を思い浮かべよう。

 

 となると週刊飛翔の話題だが……そういえば表紙になってた漫画の炎上に何故か巻き込まれてたな。あの漫画好きなんだが、なんで漫画の内容とは関係ない原作者の行動で炎上してるんだろう。

 

「技術の内容も不味い。ヤマギシさんの名前で出すということは、ヤマギシさんの影響力が強い地域では特別な意味を持ちます。特に、太平洋側の東北地方。かの大災害の影響が未だに色濃く残る地域で、あなた方ヤマギシの名前は下手をしなくても政府以上の信頼を勝ち得ている。エアコントロールという画期的な魔法によって原発や放射線は除去され、やっと故郷に帰る事ができた彼らは。原発跡地に新しくヤマギシの名前で建設されている魔力式発電所によって仕事まで得た彼らは、この技術を見てどう思うでしょうか。かつての光景を再び見るためにヤマギシが"作ってくれた”と、そう思わないと誰が言えるでしょうか」

「それは流石に考えすぎ……ではない、ですね。実際に、この技術の元になった一郎の件で今もビルの外が騒がしいんだから」

「ヤマギシ側に誰しもがこの技術を使えるように改良を望む、ならまだ良いでしょう。この技術について詳細を聞いた担当者は、最悪の想定で一つの地域の住民全てが狂ったようにダンジョンに挑む可能性を示唆していました。老若男女を問わずに、です。そうなれば何千・何万という数になるでしょう。明らかにキャパシティを超え、そしてキャパシティを超えたからと止まってくれる保証はない。勿論最低の想定で、ここまでいってしまう可能性はかなり低いでしょう。しかし、可能性が低いからとこれを政府が座して見ているわけにはいかないのです」

 

 漫画自体は楽しく読んでるし、これが理由で連載中断>打ち切りとかは流石に面白くないな。というか続きが見れなくなるのは困る。シャーリーさんが何も言ってこない以上ヤマギシとしては特に関与するつもりもないんだろうけど、何かしら言葉にしたほうが良いのだろうか。

 

 しかしSNSなんて飯テげふんげふん。今日のご飯を上げるくらいしかツブヤイターを使ってないしそれっぽい事を言葉にして、というのもいい言葉が思いつく気がしない。

 

 こういう時はアレだな、初心に戻ってみよう。俺が出来る世に発信するという事柄は動画くらいなんだし、なにかいい案は。ああ、炎上の元になったシーンを演じてみる、そう。 鏡の前で表情を確認する体で変身を繰り返したら面白いのではないだろうか。

 

「……お話はわかりました。リスクマネジメントとしてヤマギシの名義を使わない方がいい、という助言を頂いたと、解釈させて頂きます」

「このような提案をして申し訳ない。ヤマギシさんには、我が国としても本当に感謝しているのです。ただ、今回は……」

「ああ、いえ。事情はよくわかりました。アガーテさん、一郎もそれでいいな」

『私はどうとでも。元々、独力で出来る開発ではないし、看板が変わるだけだろうしね』

 

 逃げ出した一花を捕まえてカメラマンでもやらせようと考えていると、話がまとまったのか全員の視線が俺とアガーテさんに向けられてくる。というか俺が居る意味この確認の為だけだったんだろうか。だったんだろうな。姫子ちゃんからの視線が可愛そうなものを見る視線になってて辛い。

 

 とりあえずおかのしたって言っとけばいいだろか。駄目かな。駄目か。

 

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