奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

283 / 406
第二百九十七話 新魔法タルパ

 新魔法の開発は順調に進んでいるらしい。というよりも魔法自体はすでに開発が終わってるそうだ。

 

「感覚的には変身魔法に近いからな。あれも言ってみれば自分の記憶にある誰かの再現だろ? こっちはそれにもう少し情報を足した感じだよ」

 

 というのは世界唯一の魔法開発者の言葉であるが、その"もう少し”が外見以外のほぼすべてだという点に目をつぶれば理解できる理屈かもかもしれない。恭二の感覚では元になった変身魔法と俺の変身くらいの違いなんだろうな。俺は普通の変身魔法が使えないから憶測になってしまう。

 

「まずは第一段階は終了。喜ばしいが、とはいえ問題はここからだ……一服いいかな?」

「もちろん」

「ありがたい。今はどこも禁煙だなんだで、パイプを咥える事も難しい」

 

 新魔法の開発に成功し、一頻り喜んだ後。開発協力者のアガーテさんはそう言って私物のパイプを咥えて火を入れる。中身はドライハーブに手を加えたものらしく、フルーティーな香りがあたりに広がっていく。疲労を感じた時の気分転換に口にするそうだが、タバコと違ってニコチン等は含まれていないらしい。気分転換に良いそうだ。

 

 確かに問題はここからだろう。恭二が魔法を作り出すまでは既定路線というか、関係者ほぼ全員が出来ると確信していた。俺の変身を眺めて変身魔法を生み出したのは恭二だからな。魔法を作り出すだけならば、恭二一人がいれば問題はなかった。

 

 だが今回、最も重要でおそらく最も難易度が高いのはここから先だ。開発した魔法を他の人間が使えるようにしなければいけない。

 

 現在、この新魔法を扱える冒険者は恭二とアガーテさんの二人だ。恭二の言葉は正直当てにならないが、その片割れであるアガーテさんも「習得自体は変身魔法が扱える人物なら容易」と言っているのでヤマギシに所属する冒険者なら誰でも覚えることは出来るだろう。

 

「といっても覚えられる事と使える事はまた別の問題だがね?」

「やっぱりイメージが難しい、とかですか」

「いや、それ以前の問題だよ。最初から分かっていた問題だが、燃費が悪すぎる。私の魔力量では維持できて十秒といったところだろう」

 

 おかげでエアコントロールも維持できない、とぼやくように煙を吐くアガーテさんに、まぁアレを再現するなら馬鹿みたいに魔力使うよな、と一度死にかけた経験を思い返して頷きを返す。

 

「だがまぁ、実際に魔法を使ってみて感覚は理解した。十分な魔力とイメージを補助するナニかがあれば一端の冒険者なら誰でもこの魔法を使えるだろ。イメージしやすいものなら補助具も必要なく再現できるだろうね」

「補助具ですか。例えば写真とかビデオですかね」

「私は特に補助具は必要なかったが、まぁそうだね。動画媒体があるならそれが望ましいだろう。もちろん一番望ましいのは本物だが。匂いや肌触りは本物でなければなぁ」

「匂いや肌触りまで再現できるイメージ力って凄いですね」

「それほどでもない」

 

 なにを再現したのか、と問いかけそうになる口を慌てて閉じて、ふふんと得意げにパイプと三角帽を揺らすアガーテさんから視線をそらす。世の中には知らないほうが精神的に楽な事も、まぁ、稀によくあるもんだ。アガーテさんはイメージ力が凄いんだなぁ、で終わらせてしまうのが一番だろう。俺の精神衛生的に。

 

 ところでさも当然のような顔で俺のベッドに座ってるけど、アガーテさんいつになったら仕事に戻るんだろうか。休憩がてら雑談でも、と部屋にやってきてかれこれ5時間ほど時間が経ってるんだが――布団を敷こう? 敷きません。そこが俺の寝床です。

 

 

 

 新魔法は完成したその日に日本冒険者協会に報告され、次の日には日本冒険者協会名義で公表された。新魔法の名称はタルパ。神智学なんかの概念の一つで、霊的・精神的な力によって作成された存在や物体を指す用語だ。作成者とは別の思考・感情・人格を持っているとされ、タルパを作成し交流することはタルパマンシーというらしい。アガーテさんたちが開発する技術の総称はこれにする予定だ。

 

 イマジナリーフレンドで良いんじゃない?とか、最近流行ってるみたいだし投影なら日本のオタクが喜ぶのではという意見もあったが、魔力で存在や物体を形成するならタルパがしっくりくるのでは、というシャーリーさんの意見を採用し、この名前になった。

 

「とはいえ厳密に言うと、この魔法では別の思考を持たせるまではできそうにないんですがね。投影の方が僕は良い気がするんですが」

 

 週2で秋葉原に通い続けて最近ではすっかりアキバの新名()として風格を持ち始めたベンさんが、なんかのアニメデザインのおしゃれな万年筆を手で弄りながらそう口にする。

 

 ここ1年休まず秋葉原に通い続けた結果、かつてのテンプレ外国人風のイントネーションはすっかりなりを潜めて今では彼の日本語はたまにアクセントがズレるくらいで違和感がなくなっているのだ。

 

「でもアキバでは今も外国人旅行者風の喋り方デース。そっちの方がメイド喫茶に帰ったときメイドにウケるので!」

「貴方も大概趣味人ですよね」

「仕事にも全力ですよ。今は秋葉原に冒険者をコンセプトにしたコンセプトカフェを立ち上げる計画をしていてですね」

 

 冒険者という職業は、その成り立ちから現在に至るまでオタクという人種と相性がいい。協会の内部は兎も角冒険者という言葉の中心にいる連中、少なくとも日米の冒険者で一番知名度があるのは俺とウィルだから、特撮・ヒーロー系ジャンルのオタクは冒険者に対する好感度は悪くないだろう。

 

 ベンさんとしてはそこに商機と、あわよくば冒険者人口の増加を見込めるとして日本冒険者協会にも協力してもらい、新規事業を展開していきたいそうだ。

 

「これが上手く行けばゆくゆくはヤマギシが開発した冒険者向けのグッズ、魔法を用いた製品などを販売するショップも併設。奥多摩や忍野ダンジョンまでの交通網も整備して、一区画をまるごと冒険者の街に! 秋葉原を風俗街からオタクの街に取り戻すんです!」

 

 ヤマギシに所属してからこちら、かかさず秋葉原に通っていた彼だが、現状の秋葉原は彼が夢見た街とは遠い存在になっているそうだ。秋葉原は日本で最も移り変わりの早い街と言われているが、それにしたって現状はひどいという。

 

 その現状をなんとかしたいと、ベンさんは目を輝かせながら夢見るようにそれを語る。米国で政治に関わる名家に生まれた彼の口から出てくる提案は非常に具体的で、このまま町おこしでも出来てしまいそうな内容だ。

 

「そういえば最後にアキバ行ってから結構たつな。ケバブ食べたい」

「お、良いですね! 落ち着いたら一緒にアキブラでもやりましょう。武器屋のドラゴンごろし、なんとか購入できないか交渉していまして」

「あれ振り回せる場所が少ないのでは?」

「ロマンですよ、イチローさん。ロマンは全てに優先するんです」

「その意見は、否定できない」

 

 会社の書類を決済しながらする話ではないかもしれないが、ベンさんはおしゃべりの間も片時も万年筆を止めていないし、俺の右手もミギーがしっかりと書類を片付けてくれている。つまりこれはサボりではなく気晴らし、圧倒的気晴らし。

 

 最近は奥多摩も発展してきたとは言え、ケバブが食べれるトルコ料理のお店は近隣にない。今回の魔法の発表で俺に向いていた「あの人を再現して」という圧力も弱まってくれると思う、思いたい、きっとそうなるはず……だから、時間ができれば久しぶりに外出するのも良いかもしれないな。




新魔法の名前はタルパにしました。
いい名称を教えてくれたhasuさんありがとうございます、勉強になりました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。