奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百九十八話 ヤマギシは悪の秘密結社のフロントではありません

『本日正午発表された日本冒険者協会主導によって開発された新魔法"タルパ”について首相は会見を開き、内閣府魔法対策研究会からの報告を発表。新魔法の習得に際し使用資格の制定及び関連法整備が必要であると発言し、魔法使用の自由化を推進する野党側の激しい追求により国会は――』

『魔法を使えるか否かというのは新しい差別の始まりだよね。僕ら一般人がこの酷暑を耐えるためにエアコンを使ったりしてるなか、ご存知ですか? 魔法には自分の周辺の空調を完璧に整えるなんて便利な代物があるんですよ。このタルパって魔法もね、この魔法の使い手は自分が欲しいものをパッと思い浮かべればすぐ用意できるんですよ。いつでもどこでも――』

『魔石の外販価格が高すぎるのが一番の問題ですよ。冒険者以外の国民は日本冒険者協会から販売されている魔石を購入しなければ魔力を得られないというのに、です。ダンジョンに入ってすぐに出現するオオガラスの魔石で3万円、ゴブリンの魔石で10万円。オオガラスの魔力値は基準の1で、ゴブリンは3しかないんです。10層以下に出現するゴーレムの魔石は150以上の魔力値で、300万払ってオオガラスの魔石を100個集めてもゴーレム一個にも満たない魔力しか得られない。こんなもの暴利としか――』

『倍率300倍、現代の超難関"専門学校”冒険者育成講座の真実に迫る』

『臨時冒険者登録をされている方を対象とした詐欺が横行しています。「正規冒険者への登録更新」を謳う書簡やメール等が届いたらそれは詐欺です。冒険者免許は公的資格でありこれを取得する際は講習と試験の合格が必須となります』

『嫁に会うために冒険者になりました。乗るしか無いなって、このBIG WAVEに』

 

 テレビはどこもかしこも……アニメ放送を優先したテレビ首都という例外を除いて特番で埋め尽くされている。内容は8割が新魔法についてで、2割が冒険者と魔法についてだ。

 

「凄いよねー」

「うん?」

 

 談話室でのんびりとお茶をすすっていると、テレビを眺めていた一花がぽつりと呟いた。意味合いが分からず首を傾げると、一花は視線をテレビから外さずに口を開く。

 

「これだけ色んな局が報道してるのに、ヤマギシの名前が全然出てこないんだよね。たまーにコメンテーターが開発者について言及してるけど、そこでもアガーテさんについてか「山岸恭二は過去の魔法開発について~」なんて形で恭二兄について口にするだけだし」

「……まぁ、色々あるんだろ」

 

 姫子ちゃんと二人、壁の花ならぬ畳の石になって見ざる聞かざる言わざるを徹底した茶室での出来事を思い返しながらそう返すと、一花は俺の顔を眺めながら「ふふっ、こわい」とだけ口にしてテレビのチャンネルに手を伸ばす。「ヤマギシ、実は悪の秘密結社のフロント企業」疑惑がまたぞろ出てきそうな状況だな。

 

「デジタル放送の方は流石に特番だらけって感じじゃないね。それでもニュース系の番組じゃ取り扱ってるか」

「海外のニュース番組でも話題になってるな。お、ケイティがコメントしてる」

「魔法関連のニュースだとケイティの顔よく見るよ。知名度も高いしね」

 

 米国では聖女なんてあだ名を持っている友人は、マイクを向けたキャスターの質問に笑みを浮かべて答えを返している。国外の魔法関連のニュースだと、ケイティが専門家としてインタビューを受けてる事が多いらしい。

 

 まぁ知り得る限り、魔法のセンスって意味なら恭二を除けばケイティが一番優れてるだろうからな。映像越しに見た魔法をその場で「あ、これ多分出来る」なんて感じた人は他に知らないし、今現在恭二が開発した新魔法もほとんど練習しないで身につけてるそうだから魔法について彼女に尋ねるのは間違ってない。

 

「ケイティは逆にセンスがありすぎて人に教えるのが苦手なタイプだよね。理屈も感覚も分かってるけど、それを理解できない人の感覚が分からないって感じ!」

「教官訓練の時はそうだったなー」

 

 共に日米の教官候補を教えていたときの事を思い返すと、ケイティ受け持ちの訓練生は少しでもセンスがある人はガンガン伸びてセンスがない人は伸び悩んでいた。ケイティ自身もその点には早いうちに気づいていて、仲がこじれる前だった一花に相談をしたりもしていた。

 

 その結果起きたのが伸び悩む訓練生への一花の特別トレーニングで、そしてマスター教が一気に勢力を増すきっかけでもあったんだが……この話題は駄目だ。下手に口にすると一花が泣く。

 

 なにか話題を変えなければ。ええと、たしか――

 

「……そういえばビル前でプラカード掲げてたおじいさん、冒険者になるんだってな」

「あ、そういえばプラカードの人たち、居なくなってたね!」

「新魔法の発表から数時間で全員居なくなってたな」

 

 俺が引きこもってた理由は、至極あっさりと解決した。あっさり解決しすぎて被害を受けていたはずのヤマギシ側が困惑するくらいあっさりと終わったので、今の一花のように例のデモが終わったという事を知らない関係者も多い。俺もシャーリーさんが詳細を報告してくれるまで知らなかったし、昨日までさんざんこのデモを扱っていた各ニュース番組も今は"タルパ”一色で、デモが終わった、なんてテロップにすら流されていない。

 

 このデモがたち消えるまでの話もまぁ結構酷い。朝方、元気にプラカードを掲げていたおじいさん方を後目に、常駐していたテレビ局の取材班は「本社からの呼び出しがあり」とそそくさと荷物をまとめて帰っていったそうだ。

 

 昨日まで「共に頑張りましょう!」なんて論調で励まし合っていた連中の態度にデモ隊もおかしいと感じたそうで、少し調べてみると新魔法に行き当たり――

 

 まぁ、後は言わずもがなという奴だろう。

 

「デモの参加者、半分は冒険者になるらしいぞ」

「残り半分は何しに来てたんだろうね!」

「日当が出てたんじゃないか」

「抗議デモ参加の日当とは????」

 

 沖縄かどっかの抗議デモは、参加者を日当と弁当支給で集めて人数を水増ししてたりするそうだし、特に主義も主張もなくデモに参加するのは珍しいことでもないだろう。迷惑をかけられていた手前少し思うところはあるが、終わったことをこれ以上とやかくいうつもりもない。

 

 あとはアガーテさんが"MR”機器の開発を終えれば、少なくとも"変身・第二段階”に関連するトラブルは減ってくれるだろう。減ってくれ、頼む。

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