奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第二百九十九話 護送中

「よい、しょぉ!」

 

 気合の籠もった声と共に姫子ちゃんが振りかぶった釘付き金属バットは、オーガの頭を一撃でかち割った。カキィン、という擬音が聞こえてきそうな見事なフルスイングに思わず拍手を贈ると、姫子ちゃんは照れたように頭を掻きながら「へっへっへっ」と笑う。

 

 育ちはすごく良い子のはずなんだけど、行動の節々からコミカルさが溢れ出てくるのはなんなんだろうな。根っからの気質と言うべきなんだろうか。

 

『素晴らしいスイングだった。MS、彼女はベースボールの経験が?』

『動きも良いし、何より華がある。お嬢さん、女優に興味はないかな?』

『それほどでもあるかもしれませんのことよ! お仕事の話であれば事務所にお願い致しますわ、あ、これ名刺となりますダンジョンプリンセス、ダンジョンプリンセスをどうぞ――』

「すみません、うちの後輩ちょっとお調子に乗りやすいのでそのへんで。姫子ちゃん、今はお仕事優先ね」

「はい……」

 

 11層まで護送中の映画関係者が前衛として無双している姫子ちゃんを褒めそやかすと、彼女は自身の配信ではお決まりらしい"高貴なる者のポーズ”とやらをキメて営業トークを始めた。仕事着に身を包んでいるからか口調もプライベートとは違って少しお嬢様っぽい。

 

 機を見るに敏とでも言うべきなんだろうが、とはいえ流石に仕事中に営業を始められても困る。真面目なトーンで止めに入ると、我に返ったのか気まずそうな表情を浮かべて姫子ちゃんは頭を下げた。

 

 まぁ、お仕事と言っても今回のPTは初めて奥多摩に潜る関係者を11層まで連れて行くだけの仕事だから、気が緩みがちになるのは仕方ないかもしれない。念のために10人一組に二人護衛をつけてはいるが、この人達は全員他のダンジョンで15層以上に至ってるから10層までの道で不覚を取るというのもほぼない。バリアも常に使ってるしね。

 

「護送の仕事よりも中継維持のために待機する仕事のほうが辛そうですわね。ネット環境に繋がるとは言え、リポップしたボスも狩らないといけませんし」

「普段は5層までなのに今回は15層までインフラ整えたんだっけ」

 

 姫子ちゃんはボス部屋の中に入りると、下の階層へ続く入口前に椅子をおいてこちらに手を振るヤマギシ社員二名を見ながらそう呟いた。彼の周囲には電力供給のために用意された魔石を燃料にした発電機とネット回線をつなぐための移動基地局が設置されており、少し離れたところには仮設トイレや休憩用の簡易ベッドなどが設けられている。

 

 これらの設備を1層から10層までの各入り口に用意し、電波が遮断される各階層の階段は有線で、それ以外の部分は無線でネットワークを構築する事により奥多摩では最小限の人員でダンジョン内に通信網を敷いているのだ。

 

 実はこれ普段から臨時冒険者が常に潜っている5層まではやっていて、今回は撮影のために15層までしている。撮影自体は11層で行われるため、そこから先の階層に関しては不測の事態に備えて用意しているものだが。

 

 国外のダンジョンだとこの5層までのネットワーク環境維持というのはやってる場所が殆どないらしく、最初の頃にスパイダースーツを来て意気揚々とダンジョンに潜った本家さんが『うっそだろ! SNSがダンジョン内で出来るじゃん!』と割と本気で喜んでたのが印象的だった。

 

 もちろん彼はその場で一緒に潜っていたスタッフさんや他の俳優と写真を撮りまくってSNSに流し、それらは結構な反響を呼んだらしいが彼自身はマネージャーさんに前回やらかした情報漏洩の件を反省してないのかとボロクソに怒られていた。

 

 まぁ反響があったのでそれ以降のダンジョン行もその場に居るメンバーが撮影して公式チャンネルから配信という形に落ち着いたので、罰金であるとかそういった処罰までは至らなかったそうだが。ここで本家さんが謹慎とかになると流石に困ったので、問題が落着して本当に良かった。

 

『ダンジョンに入れるようになるまで少し日数を使ってしまったから、流石に謹慎は無かったろうがね』

「あー。まぁ皆キツキツのスケジュールですしね」

「あら。奥多摩ダンジョンはヤマギシの許可があれば、冒険者として認定されている人物はどの国の資格でも入場できた筈では……?」

 

 ディレクターさんの言葉に返事を返すと、怪訝そうな表情を浮かべて姫子ちゃんが尋ねてくる。

 

「いや、制度的にはそうなんだけどねぇ」

「制度的に、というと他に問題が?」

「うん。刑法が問題なんだよね」

 

 姫子ちゃんの疑問にできる限り簡潔に答えるが、姫子ちゃんは目をパチクリとさせて首を傾げた。まぁ、国外のダンジョンに入ったことがなければこのあたりの感覚は分かりづらいかもしれないな。

 

 ダンジョン内外に関する制度は、冒険者協会が存在する国だとほとんど変わらない。世界冒険者協会と日本の冒険者協会は厳密には別組織だが、ダンジョン内外に関する取り決めに関しては日本をベースにどの国も自国のルールを敷いたため、この辺はどの国でもほぼ似通った内容になっている。

 

 では今回何が問題だったのかというと、ダンジョンに関する取り決め事態ではなくその取り決めに違反した場合、それこそダンジョン内外で冒険者が犯罪を犯した場合の対処が、日本と米国では大きく違っていたのだ。

 

「米国だとダンジョン内ならともかく、ダンジョン外で攻撃魔法を許可なく使用すると射殺されても文句言えなかったりするんだよね」

「しゃさ……それは、厳しいですわね」

「いや、日本以外はどこも大体これくらい厳しいよ」

 

 日本でもダンジョン外での攻撃魔法使用は原則禁止されており、違反した場合は猶予なしの禁固刑に処されることになる。が、これは世界全体を見渡すと例外と言ってもいいくらいに甘い処置で、他の国では無許可で魔法を使用した人間が警察に問答無用で制圧されるという事件も起きている。俺も一度逮捕されたことあるしね。

 

 世界冒険者協会もかなり頑張っているとは思うが、手に入れた力を使ってみたくなるのが人間なんだろう。そういった人間が箍を外さないためにも、処罰は必要だ。

 

 そういう倫理で魔法に対して向き合っている国の冒険者からすると、日本の制度はゆるすぎて違和感がすごいらしい。そのズレを修正するために、撮影陣は貴重な時間を割いて日本の刑罰に関する講習を受けた。

 

「まぁ厳しくなるわけじゃないから、2日ほどで関係者全体の認識のズレは直ったけどね。これ以上の時間ロスは流石に問題だったから」

「本家さんはギリギリ許された、と」

「許されたわけじゃなくて執行猶予中な感じはあるかな」

 

 10層から11層に抜ける階段を出ると、恭二が収納で持ち込んだコンテナハウスを持ち上げて等間隔に並べる姿が目に入る。拠点の設営は順調なようだ。これなら間を置かずに撮影に入れるだろう。これ以上スケジュールを遅らせるわけにもいかないだろうし、ミスって足を引っ張らないよう気をつけないとな。




カスタムキャストを使用してキャラデザをしてみました
一花(大学生ver)

【挿絵表示】

ダンジョンプリンセスさん

【挿絵表示】

アガーテさん

【挿絵表示】


ソフトの限界でアガーテさんは少し大きく見えてます。あと頭半個分くらい小さくてもうちょっとあどけなくしたかった……
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