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ドゴン、とデカい音を立ててゴーレムが吹き飛んだ。
「周辺警戒!」
『周辺警戒!』
弾頭を失ったロケットランチャーを片手に御神苗さんが叫ぶと、彼とチームを組んでいる米軍上がりのヤマギシ社員が声を張り上げて答える。
撮影現場に選ばれた11層各地には護衛役の冒険者たちが散らばっており、リポップしたゴーレムは彼らによって出現したその瞬間にロケランを打ち込まれるか、手隙の撮影スタッフが小遣い稼ぎにロケランを打ち込んで処理されている。
ゴーレムの魔石はその魔力量から魔力式発電の燃料として最もポピュラーなもので、冒険者協会に卸したとしても一つで数百万の値がつく。
震災の影響で原子力発電が全面休止となった日本では、その代替として各地に魔力式発電所が建設されている。協会が買い取ったゴーレムの魔石はそこで燃料として使われており、需要は右肩上がりで増え続けている。
「10層を超えた冒険者のメインの獲物なのに、いつも供給不足だよな」
「リスポーン地点も割り出されるくらいに延々狩られてるのになぁ」
復讐者本編の撮影は順調だ。忙しい人も多いため最も人数が必要なヒーローと敵が一堂に会してのぶつかり合いを最初に撮影し、それ以降は細かい戦闘シーンを状況に合わせて数パターン撮影する。スケジュールを調整しながらの撮影のため、俺みたいに時間の都合がつけやすい奴は結構空き時間が出来る。
というわけでヤマギシが用意した護衛の代表者(神輿)である恭二を捕まえて、練習がてらキャッチボールで暇をつぶしながらの雑談である。
「何がというわけなのかは知らんが、暇なら外に出りゃ良いだろ」
そう言って恭二がボールを投げる。胸元をえぐるストレート! バシン、とミットに収まった直球に良いコントロールだ、と力を込めて返答する。
「そうなんだけどなぁ。仕事の途中で現場を離れるって不思議な罪悪感が」
ヤーマザキいーちーばーん
「今までの撮影はどうしてたんだよ」
「俺が出演するシーンを連続で撮るって感じで、今まではこんなに撮影期間に空きができるってのが無かったんだよ」
ヤーマザキいーちーばーん
数回のキャッチボール。少しずつ距離を伸ばして、大体マウンドからホームくらいの距離。十分肩はあったまっただろうと判断し、その場に腰を下ろす。
片膝を付き、ミットを構える。試合でもないしサインはない。ストレートならミットに飛び込んでくるし、それ以外ならどこに構えていても意味はない。
振りかぶった恭二の姿が目に入り、流れるように腕が振るわれる。直後にズバン、というミットの悲鳴。ビリビリと手のひらを襲う衝撃に、ミットで受けていなければ受けられなかっただろうな、と感想を懐きながらボールを手に取る。
ボールは衝撃に耐えきれなかったのか、縫い目の部分が千切れて解けてしまっていた。
ヤーマザキいーちーばーん
「うげ。ミットもボールも破けてやんの」
「なんだ中古か?」
「新品だよ。どっちも」
「マジ? メーカーどこよ」
「天下のMi○uno」
云万したんだけどなぁと嘆く俺に、恭二は「ドンマイ!」とケラケラ笑いながら口にする。部活やってた頃に欲しかったキャッチャーミット、大人になってようやく手に入れたばかりだったのに。
どんよりとした内心を押し隠しながらミットを外す。悪いことばかりではない。通常のボールやミットでは冒険者の力を受け止めきれないということが早いうちに分かったのは確かな収穫だった。
ヤーマザキいーちーばーん
本番で大失態なんてやらかした日には目も当てられないからな。年末の本番に向けて準備を進めなければ。
「ところで撮影中なのにそれ大音量で流して大丈夫なんですか?」
「許可は貰っておりますし、撮影中の場所には近づかないようにしていますので」
「ふたりともお疲れ様。恭二くん、悪いんだけど新品の補充と使用済みの回収をお願い」
「了解です。未使用の残数はそろそろ二桁ですね」
近づいてきたやたらとデカい鉄の塊を屋根上に乗せた改造ハイエースに声をかけると、運転手の発明王ヤマザキがそう答えを返す。助手席に座っていた痩せぎす太郎はこちらに視線を向けて軽く手を上げたあと、グローブを外していた恭二に声をかけた。景気よくぶっ放してたからなぁ、ロケランが切れたんだろう。
「これで今日は二度目ですっけ。何体くらい倒してるんですか?」
「我々が交代したあとから数えると、36体ですかな。魔石も回収してあるので、それも収納して貰わなければ」
収納を使って使用済みのロケランと未使用品を交換する二人を眺めながら、発明王ヤマザキと言葉を交わす。
二人が何をやっているのかと言うと、冒険者協会からの依頼を受けて冒険者協会の臨時職員となり、改造ハイエースを出張所に見立てた臨時窓口を開いているのだ。
彼らが託されている業務は2つ。11層に出没するゴーレムを退治する際の必需品と言えるロケットランチャーの供給と回収、そして魔石の買い取り業務だ。
長期間11層に留まる以上、たとえ最初に一掃したとしてもゴーレムがリスポーンするのは避けられない。11層はエレベーターを使用すればすぐに来れる階層ではあるが、弾薬が切れる度に外へと戻るのは手間が掛かるし、なによりロケットランチャーのような武装を持ち込む際は結構な手続きが必要になる。そしてそれだけ面倒な手続きを踏んでも一度に持ち運べる量なんてたがが知れてるのだから、あっという間にまた弾薬補給に戻る羽目になるのは目に見えている。
そこで冒険者協会のお偉いさんとヤマギシの首脳陣、それにマーブルの偉いお爺さんは話し合いを持ち、一つの結論に達した。だったら最初からまとまった数を持ち込んで現地で補給してしまえば良いじゃん、と。
「これで紛失とか出たらどうするんだろうな」
「恭二くん、怖いことを言うなよ……ああ、早く今日の交代にならないかな」
「俺のほうが怖いですよ。持ち運ぶの俺だけなんですからね?」
使用済みと新品の交換を行っている恭二と痩せぎす太郎が非常に恐ろしい会話を行っている。使用した分と同じ数の新品を交換して恭二が収納魔法で収めているから、紛失が出るはずはない。ないんだが、扱っているものがものだけに不安は感じてしまう。
「そこらへんヤマザキさんはどうなんです? 太郎先輩見てると臨時職員って面倒そうなイメージですが」
「私は発明品を海外セレブに紹介するつもりで志願しました故、それほど負担には感じませんな。3交代の8時間勤務、内容も多少の危険はあれど基本的に弾薬を届けるだけです。届ける物資は、流石にプレッシャーのかかる物品ですが」
現在はこの二人が回っているが、あと数時間もしない内に別の冒険者か協会職員が彼らの交代にやってきて、彼らと同じようにロケランを車に乗せて撮影地付近を回ることになる。本来なら全ての人員を協会職員が担うべきなのだろうが、11層以降に潜れる人間は協会でも数少ないらしく、顔を合わせたことのある出張所の職員は大体が冒険者だった。
世知辛い話だが11層に潜れるなら、協会の職員をやるより冒険者をやった方が圧倒的に実入りが良い。有力な冒険者と顔を合わせやすいという恩恵がある受付嬢などの例外を除けば、冒険者協会の職員という立場は高レベルの冒険者にとって魅力のない代物なのだという。
「まぁ今回の仕事に関しては応募が殺到したようですが。誰しもスクリーンで見たことのある人物を間近で見たいと思うものなんでしょうな」
「あー……太郎先輩、やけにオドオドしてるのは」
「地元ダンジョンの協会から頼まれたそうです。彼なら自分から撮影陣に絡んでいく系統のトラブルを起こさないと踏まれたのでしょう。所でイッチ、こちらの屋根の上に設置してあるものを見てください。どう思いますかな」
「すごく……大きいです」
「ありがとう。私の最新の発明品、対ゴーレム用魔法式杭打機通称パイルバンカーです。こいつなら一撃でゴーレムを粉砕できるのですが少し重量が嵩みましてな……1tに。イッチなら問題なく扱えるかと思うのですがどうでしょうか」
「あ、すみません間に合ってます」
1t近いゲテモノを薦められても困る。そう伝えると発明王ヤマザキは残念そうな表情を浮かべてシルクハットを深々と被った。