奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正。244様、kubiwatuki様ありがとうございます!


第五十七話 テキサスへ

第五十七話 テキサスへ

 

 

「じゃあ親父、飲み過ぎるなよ!」

 

「母ちゃん、やらかしたら頼むわ」

 

「やらねぇよ!お前ら俺を何だと思ってやがる!」

 

 

昨日パーティーで酔い潰れた人が何だって?

まぁ、母さんも居るし下原のおばさんと二人で目を光らせてたら親父ーズが悪さすることも無いだろう。

俺達はケイティのプライベートジェットに乗り込みテキサスへと向かった。

 

何でも彼女の家族が是非会いたいと言ってきたらしい。ケイティにとっても急な話だったようで、朝方に申し訳なさそうに俺達の部屋に来た彼女に俺達は苦笑しながら了承を伝える。

急な予定変更や移動はもう慣れた。それに、前々から米国には正式に訪問する予定だったから俺としては丁度良い機会だ。

 

テキサス州コンローにある空港でジェットからヘリに乗り換えてヒューストンのブラス家へ。

そしてヒューストンで俺達は本物の大豪邸という物を目にする事になった。

リバーオークスと呼ばれる東京で言ったら田園調布的な街なんだが、家の中を公道が走り、公園があるなんて建物は今までに見たことがない。

この周辺は高級住宅街で、他の家々も間違いなく富豪が住む豪邸なんだろうが、そのでかい家々がブラス家の邸宅にある庭にまず10個以上は入りそうな感じだ。

 

庭にあるヘリポートに降ろされた俺達はそのまま豪邸の中に招待される。

そして俺達を出迎えてくれたのは、その豪邸の主だった。

 

 

『ようこそみなさん。孫がお世話になりました』

 

 

ケイティの祖父というこの人、ダニエル・クリストファー・ブラスはブラス家の当主にして世界に名だたるエネルギー産業の雄、ブラスコのオーナーだそうだ。

彼の隣に立つ秘書らしき女性が俺達の側に立ち、年齢の順にシャーロットさん、真一さん、俺、沙織ちゃん、一花とパーティーのメンバーを紹介していく。

その都度ダニエル老は握手をして歓迎の意を述べてくれるのだが、明らかに約1名を意識してて少し同情を覚える。

 

 

『そして、最後に。キョウジ・ヤマギシさんです』

 

『ありがとう!本当にありがとう!君は孫の恩人だ!私、ブラス家は生涯この恩を忘れないだろう!』

 

『ぐええええぇ!』

 

『お、おじい様!キョウジが苦しがってます』

 

 

満を持して紹介された恭二をダニエル老が全力で抱きしめる。

悲鳴を上げる恭二にケイティが助け舟を出したが、一旦は落ち着いたかに見えたダニエル老はまた感極まったのか恭二の肩をぽんぽんと叩いて再び抱きしめる。

恭二の肩を抱きながらダニエル老は屋敷の中に案内してくれた。反対側にはケイティがふくれっ面で恭二の右手を確保しており、その後ろを更にふくれっ面で沙織ちゃんが歩くと言うカオスな事態に。

残りの面子は勿論その様子をニヤニヤ見ながらついていく。

屋敷の中の応接間では明らかにダニエル老の子供・・・恐らくケイティの父親だろう人物が待っていて、恭二をダニエル老が紹介すると全く同じリアクションで恭二を抱きしめる。

この辺りでつい笑ってしまった。まぁ、周囲の使用人とかも笑顔だから許してもらえるだろう。

 

 

『キャサリンの脳の腫瘍が見つかったのは12歳の時です』

 

 

キャサリン・・・ケイティの父親・・・ダニエル・ジュニア氏によると、生まれつき心疾患を患っていたケイティは12歳の時に脳腫瘍が発覚。

健康的とは言えなかった体はそこで致命的なバランス崩壊を迎え、最先端の治療を施して尚、恐らく来年か再来年まで生きることは難しいと言われていた。

そんな時に恭二の動画に出会い、キュアを覚えて心疾患を抑えて生活をしていたのだ。

そして、ウィルの誘いに乗って日本に渡り、恭二と直接対面し、リザレクションを受けた。

 

 

『長年求めてやまなかった健康な体になれたんです。どんなにお金を積んでも手に入れることが出来なかった事を、キョウジが与えてくれました』

 

 

涙を浮かべながら話すケイティを、ダニエル老とジュニア氏は労わる様に優しく抱きしめる。

 

 

『このご恩は生涯忘れません。私達に出来る事があればなんなりとお礼をさせていただきたい』

 

『・・・・・・恭二。お前が決めろ』

 

 

ダニエル老の言葉に無言で俯く恭二に、真一さんが促すように声をかける。

 

 

『・・・・・・それなら、お願いがあるんですが。この件は、家族と関係者以外には決して広めて欲しくないんです』

 

 

顔を上げた恭二は青くなった表情で口を開いた。

驚いた顔を浮かべたブラス家の面々に恭二はそのまま言葉を続ける。

 

 

『俺は冒険者であると自負しています。現在殆どの魔法を俺が作ってるので、今現在既存の魔法は恐らく全て使えると思いますが。だからと言って、医者をするつもりはないんです。多分この話が広まれば、世界中の難病に苦しむ人たちが奥多摩に押し寄せてくる。それは、流石に不味い』

 

『しかもリザレクションは、今使える人間が非常に限られた魔法だ、な』

 

 

恭二の足りなかった言葉を真一さんが補う。

この話が広まれば恐らく恭二はリザレクションをひたすら使わされ続ける事になる。それを恐れているのだろう。

不安そうな表情を浮かべる恭二の説明に得心したのか、ダニエル老が力強く頷いた。

 

 

『もちろん、ブラス家は決して恩を仇で返すような真似はしない。そうすると、どうすべきか』

 

『キャサリンさんは非常に魔法のセンスが良い。自分の魔法で治したと、そう宣伝することは出来ないでしょうか?』

 

『・・・キャサリン、どうしたい?』

 

『私は、それで良いと思います。キョウジの負担になるのは嫌ですし、何よりこれは後発の感を否めないアメリカ冒険者協会の箔付けにも役に立つでしょう。感情面でも。実利の面でも大きい』

 

『うむ。では、そのように取り計らおう』

 

 

ダニエル老とジュニア氏は頷き合って控えていた秘書の女性に何事かを話す。

恐らく明日にはケイティのニュースが全米を流れるんだろうなぁと思いながら、俺達は応接間を後にした。

 

 




キャサリン・C・ブラス:次の日には全米中に奇跡の少女として報道される予定。本人としては特に何も思っておらず、これを機に冒険者協会のイメージを上昇させるつもり。

ダニエル・クリストファー・ブラス:ケイティちゃんの祖父。政財界に名を轟かす豪腕の持ち主として知られているが可愛い女孫には勝てない模様。

ダニエル・ジュニア:ケイティちゃんの父親。病弱に生まれた我が子が元気に暮らせることになり実は一番喜んでいる人。

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