奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百六話 死して屍拾う者なし

 死して屍拾う者なし 死して屍拾う者なし

 

 某時代劇のナレーションが頭を過る光景に思わず二の足を踏み、体育館のドア前で立ちすくむ。

 

 冒険者の訓練用に使われていた体育館は酷い有様だった。中央部分の床に空いた大きな穴、壁一面に刻まれた切り傷に、散乱する照明のガラス片。合戦がこの中で起きましたと言われても信じてしまいそうな惨状と、それらを為したであろう仰向けになって転がる二名の死体。

 

「言いたくなるのは分かるけど二人とも生きてるからね?」

「お、おう」

 

 声のする方に目を向けると、ドアを潜って左手、傷だらけの壁に一花が背中を預けて佇んでいる。手にはハンディサイズのビデオカメラがある。

 

 何してるの? と尋ねると「撮影」とだけ簡潔に答えてビデオカメラを片付け、一花は懐から携帯端末を取り出した。

 

「あ、もしもし美佐さん? うん、終わったよ」

 

 連絡先は坂口さん、となるとヤマギシ救護班の出番か。まぁ、そうだろうなぁと破壊跡に視線を向ける。切り裂かれた壁の向こう側から夜空が見えるぞ。ここ一応訓練用に頑丈に作ってる場所のはずなんだがな。

 

「その一応じゃダメって事がわかったね!」

「改修してからそんなに月日が経ってないはずなんだがな」

「魔法抜きでもこれだもんね。これで魔法ありだったらちょっと笑えなかったかも!」

 

 改修前の武道場では剣術を教えてもらったり初代様に空手を仕込んでもらったのだが。思い出の場所の惨状に嘆いていると、白いつなぎのような服に身を包んだヤマギシ救護班がやってきた。彼らは体育館の惨状に息を飲んだ後、恐る恐るといった様子で中に入り、ぶっ倒れた二人――水無瀬の香苗さんと御神苗さんの元へと進んでいく。

 

各迷宮管理人(ダンジョンマスター)レベルの戦闘に想定した建物なんて建てられるわけないんじゃないか? 個人サイズの戦車が暴れてるようなもんだろ。むしろなんであの二人ダンジョン外で試合ってるの?」

 

 俺や恭二のようにダンジョン内部なら他人に迷惑をかけない場所で幾らでも手合わせすればいいのだ。どうせ誰も見てないところでダンジョン内部は修復されるのだから。

 

 その辺りは理解しているだろうにと視線を向けると、一花はポンポンと袋に仕舞ったビデオカメラを軽く叩く。この惨状を撮影することに意味があったということだろうか。

 

 頭を悩ませている間に救護班の処置は終わったらしい。リザレクションの光が体育館内部を包んだ後、意識を取り戻した香苗さんと御神苗さんはフラフラとした足取りではあるが、救護班の手を借りることなく歩き出した。

 

 その際、香苗さんが獲物を目にした爬虫類のような視線を向けてきたのだがさすがにこの後すぐもう一戦とかは言われないよな。ダブルノックアウトなんてやらかした後だし。

 

「香苗さん、会う度に雰囲気が凄くなってるよね!」

「あの人の変なスイッチ入れた上杉さんは責任もって引き取るべきじゃないか???」

「小虎さんアレよりもっと振り切れてるからなぁ……」

 

 こちらを見ながらぼそぼそと何かを呟き、香苗さんは三日月のように口元を動かして笑みを浮かべた。怖い。

 

 どちらが強い強くない関係なく気圧されてしまうと言うべきか。限界状態のシャーリーさんやアガーテさんを前にする時に近い恐怖を感じてすすっと一花の背後に身を隠す。

 

 蹴られた。

 

 

 

「ダンジョン内部でしか全力で行動できない。ある一定以上の冒険者は全員、この問題を抱えています」

「そうですね」

 

 シャーリーさんの言葉に頷きを返す。教官免許を持つレベルの冒険者なら皆経験していることだ。

 

 冒険者として経験を積んでいくと、素の身体能力が人間を超える。その上で魔法には筋力を上昇させるストレングスなど補助魔法もあり、そこそこの冒険者なら突っ込んできたトラックを逆に跳ね飛ばしたり全力疾走で新幹線を追い抜いたりといったアニメの主人公みたいな暴れ方も平然とできてしまう。

 

 突っ込んできた新幹線を投げ飛ばすとかは流石に無理だ。正義超人はちょっと身体能力的にバグが多過ぎてまだ再現できる気はしないな。ゆで理論とか魔法にからめると面白そうなんだが。

 

「ハルクの完全再現が出来れば似たような事は可能だと思いませんか? 彼のパワーの源は怒り。強く深く思い感情をもとにすれば設定上無限大のパワーが」

「暴走したら奥多摩壊滅しそうなんで……」

 

 やんわりと限界化しそうなシャーリーさんを諫めると、シャーリーさんは不服そうな表情で唇を尖らせた後にコホン、と咳ばらいをする。話を戻そうという合図だろう。

 

「改修した体育館については初代様や安藤さんからも脆弱だと言われていました。本気で踏み込めば穴が開きかねないので改善してほしいと」

「あの二人だったらそうなるでしょうね」

「はい。そして、あの二方にそう言われてしまうと、急いで改善しないといけないので……」

 

 空手や柔道といった体術全般の講師を務める初代様と刀剣術の講師を務めている安藤さん。奥多摩で活動する冒険者ほぼ全部の師匠のような二人が口にするんならつまりそれは奥多摩で活動する冒険者ほぼ全員の意見みたいなものだ。

 

 香苗さんと御神苗さんの一戦はいい機会だというわけだな。実際に思い切り冒険者が体を動かすと一回で建物が半壊してしまうんじゃ色々問題がある。

 

「それにダンジョン内部で模擬戦をするのは、やはりあまり認めたくはないんですよね。安全を考えて」

「シュミマセン」

 

 まっすぐに向けられたシャーリーさんの視線を受けきれず、つぅっと視線を滑らせる。大規模破壊になるのは全部恭二が悪いので、あいつを叱ってください。

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