奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百八話 祭りのあと

 クランクアップの掛け声と共に、大量のビールが宙を舞う。

 

 別にビールかけというわけではない。勢いよくジョッキを振り上げたせいで各々自分の頭の上にビールをばらまいてしまったからだ。

 

 その様子に苦笑する面々、テンションを上げる面々、少し引いている一部などなど、パーティ会場として用意されたヤマギシビルの大会議室は混とんとした様子を見せていた。

 

『なーんて一人で壁の花になってなにぶつくさ言ってるの? こいよMS! お前にビールをぶちまけてやる』

「キャプテンさん、キャプテンさんキャラ。キャラ変わってますよ!」

 

 なんだこのパリピ共は、などと思ったわけではないが。普段はいい大人として節度ある態度をとっていた人たちが豹変する姿に恐れ戦いて壁際に避難していると、全身ビール臭いキャプテンさんが両手に水鉄砲を持ってこちらににじり寄ってくる。

 

 おいまて、それ中身水じゃないな? なんでそんな日本のプロ野球優勝決定の時に用意される特殊装備を持ってるんだこの酔っ払い。

 

『カメラはもう止まってるんだよ! そら、いまだ鉄男!』

『オウケイキャップ、行くぜMS!』

「グエェッ!」

 

 なんとか退避しようとするも背後からの強襲に対処できず、せっかくあつらえた背広がビールまみれにされてしまった。殺気とか危険があればビビーンと感知出来るんだが、いいやそんな事は後だ。やられたならやり返さなければ無作法というもの。武器だ、ひとまずは武器を調達しなければ!

 

『HEY! こっちだMS、ビッグ3に引導を渡してやろうぜ!』

『ちょっとまて本家、俺もあっちカウントなのか?』

『バカばっかりね、男って』

『それは僕も含まれてるのかなぁ』

 

 復讐者たちと関わりのある人間のほぼすべてが参加したパーティーはビールと笑顔とざわめきに包まれていた。

 

 このメンバーで集まることはもうないだろう。

 

 去る者もいるし新しく始める者もいる。もう顔を合わせない人もいるかもしれない。物事の終わり(エンドゲーム)とはそういうもので、彼らはそれを良く知っていた。

 

 だから、最後の一人が騒ぎつかれてダウンするまでパーティーは続けられた。

 

 最後の一瞬まで、復讐者たちを楽しみ切るために。

 

 

 

「お兄ちゃん凄くお酒臭い」

「全然酔ってないんだけどな?」

 

 兵どもが夢のあと、と言葉が浮かび上がりそうな惨状を社員の義務として清掃させられる事しばし。様子を見に来た妹の一言にショックを受ける。加齢臭ならぬビール臭、か。俺も大人になったもんだ。

 

「服から匂うんだけど。なんか凄いビール臭い」

「途中で本家さんまで裏切ったから……」

 

 ビッグ3相手に三次元戦法で蹂躙してたら後ろから凄い笑顔の本家さんに撃たれたんだ。勿論やり返したが最終的に1対他みたいな情勢になったからな。さすがに捌ききれなかった。途中で監督やら大人勢引き連れて抜けてった初代様はこの大混乱を見越していたのか。YSS(やはり初代様は凄い)!

 

「着替えよう? 掃除しても余計に汚れちゃうじゃん」

「いや。なんかウィドゥさんとかが酔っ払いの面倒見てるの見ちゃってつい手伝わないとと」

 

 あとそんな事してたらいつの間にか服も乾いてたし周りも酒臭いままぶっ潰れてるしでまぁこのままで良いかってなったんだ。

 

 そうしながら潰れた連中をタクシーに放り込んだりどうしようもないやつをヤマギシビルの仮眠室や社員寮の空き部屋にぶち込んだりで気づけば夜も明け、じゃあもう今更かとパーティー会場の清掃を始めて今に至る、と。

 

「まさかの不眠不休だった。業者さんがやるからお兄ちゃんも寝ちゃっていいのに」

「いやー、なんかなー。寝るのが惜しくて」

 

 唇を尖らせる一花の言葉に頭をかいてそう答える。

 

「祭りの後ってさ。終わるのが惜しくてつい佇んじゃうことあるだろ。あんな感じだよ」

「……あんな感じ、ねぇ」

 

 ジト目の一花にごまかす様にそう言って、祭りが終わったパーティー会場に視線を送る。

 

 楽しかった。

 

 なんだかんだ無理やり参加させられた映画だ。スタンさんの勢いに負けて一度、それから気づけばズルズルと引っ張られて、今に至り。

 

 最初に浮かんだ言葉は、それだった。苦労した、だとか。恥ずかしい、だとかはあった。そりゃもう沢山あった。

 

 どれだけテレビや映画に出ても未だに違和感しかないのに、ハリウッドの一大コンテンツに自分も参加しているなんてなんど聞いても見ても信じられない経験だったが。いざ振り返ってみると、楽しかったという思い出ばかりが胸を過る。

 

「終わっちゃったな……」

「お兄ちゃんはむしろこれからじゃない? MSのコミック人気考えたら今度はドラマとかでもやるかもね」

「それ……は本当に嫌だが。そっちじゃなくてな」

 

 この感情をなんと口にすればいいのだろうか。空虚? それとも欠落感?

 

 答えの出ない問答に溜息を吐いて一花の頭に手をやり、がしがしと撫でる。

 

 「わ、ちょっ」と慌てふためく妹にごまかす様に笑いを浮かべて、俺たちは会場を後にした。

 

「あ、まって一花さん。その脛蹴りは反則」

「どやかましい! くの、このっ!」

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