奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百十話 女の敵

『ヒィィィッ! 堪忍やぁ! 仕方なかったんやぁ!』

「絶対に逃がさへん! 女の敵っ!!!」

「イケーッ! そこだ香苗さん! 薙ぎ払えー!」

 

ヤーマザキいーちばーん

 

「このダンジョンアタックに誘われた時には迷いました。現在世界中でも100名にも満たないレベル38の一人に自分がなる、というのが想像できなかったので」

 

 ガチャガチャと音を立ててバーベキュー用のコンロを組み立てながら、発明王ヤマザキはそう話しかけてきた。

 

 随分と手慣れた手つきだ。実家の手伝いでキャンプ場の作業は一通りこなせる俺を除けば、現在作業を手伝ってくれている面々では一番場慣れした印象を受ける。

 

 まぁ他の作業員がスポーツはやるがアウトドアにあまり興味がない恭二と純粋培養お嬢様だったケイティ、趣味全般が女の子らしい沙織ちゃんなんで仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。

 

『掠った! 薙刀がひゅんッて! 鼻先をひゅんッって!!?』

「ゴキブリよりしつっこいわぁ!」

「袋小路に追いつめて! 逃げ場をなくして袋叩きにするよ!!」

 

ヤーマザキいーちばーん

 

「今も不思議な気持ちです。私の自力到達回数は25階。それも師である根津先生の引率での話です。本当の意味の自力となると――」

「あの。真剣な表情と会話と背景とBGMがミスマッチしすぎてるんで、せめてBGM止めて貰えませんか?」

 

 全然集中して話が聞けないので、と素直に伝えると発明王ヤマザキさんは非常に葛藤した様子を見せた後に懐に入れていた端末を取り出して音楽を止めた。そこまで悩むことだったのか、あの音楽を止めることが。

 

「当然です。私のアイデンティティですので」

「ヤマザキ一番が!!?」

「……そこまで驚かれると少し、その。ショックでありますが」

 

 俺たちの会話を聞いていた恭二が思わずと言った様子でそう叫ぶと、発明王ヤマザキさんは少し傷ついたような表情を見せる。

 

「人生で一番落ち込んでいた時期にこの歌のお陰で色々吹っ切れましたので。この歌のような唯我独尊さを身に着けられればと。発明家なんてやってるのも、まぁ。過去の自分を振り切りたくて、自分なりに傾いた結果なんですよ」

「その目論見は成功してると思いますよ。俺、ダンジョンと関わってから色んな人と出会いましたが貴方を超える自由な人は2,3人しか知りませんし」

「割と心当たりが多いんですね。そういう点で私の中でのナンバーワンはイッチなんですが」

「オンリーワンヒーローさんには誰も勝てないからなぁ」

「訴訟も辞さない」

 

 茶々を入れてくる馬鹿に中指を立てて返事を返すとm9(^Д^)プギャーとばかりに俺を指さして恭二が笑う。

 

 その背後でドガンと大きな爆発音があがる。あちらはあちらで元気だな。アルラウネ達に攻撃を当てると彼女たちとも戦うことになるのでその辺は気を付けてほしいんだが。

 

「では、私たちはこの歌に感謝をしなければいけません。貴方という発明家がダンジョンから世界に齎した成果は、非常に大きなものです」

「ブラス嬢にそういわれると少しこそばゆいですね。ヤマギシとブラスコが魔法という概念を世に広めてくれたからこそ、私のようなものが活動する余地があるのですから」

 

 ケイティが作業を進めながらヤマザキさんにそう伝えると、彼は照れたようにトレードマークのシルクハットの縁に手をかけて会釈を返した。

 

「貴方のような創造性を持った人材が活躍できているなら、私たちが行ってきた活動は間違っていなかったという事ですね。魔導エンジンの開発及びそれらを用いた車両の開発、フロートを用いた魔導ヘリの改良並びに新規設計。一個人が行った事例としては破格と言ってもいいでしょう」

「どちらも企業の手を借りておりますよ」

「ええ、その通りですね。そしてどちらの企業も貴方の発案がなければそれらの成功を掴むことは出来なかったのも存じております。是非一度お話をお伺いしたかったので、今日は本当に――」

 

 ケイティ、日本語上手くなったなぁ。と思いながらキャンプ地のセッティングを確認する。途中でテントが崩れたり、バーベキュー中にコンロがぶっ倒れても困るからな。経験者が居るなら最終チェックはそいつがするべき仕事だ。

 

 ――よし、特に問題はないか。テントを固定する杭も地面にぶっ刺すだけでしっかりと固定されてる。まぁダンジョンに潜る前と今じゃ身体能力が違いすぎるからな。今だとエアコントロールもあるから、アウトドアの際に必要な道具が本当に少なくなったのはありがたい。

 

 チュドーンッ!

 

「ところでイチローくん。アレ、出しっぱなしだけど大丈夫なの?」

 

 それまで会話に参加せず恭二が出した食材をワーキャー言いながら眺めていた沙織ちゃんが、モクモクとたつキノコ雲を指さしてそう尋ねてくる。すごく大きいな。きのこ食べたくなってきた。

 

 やっぱりバーベキューで食べるキノコはシイタケだろう。異論は認める。

 

「10層辺りだと維持が大変なんだけどね。この辺りだとなんか、誰を出してもそんなに消耗しないんだよね」

「興味深いですな。イッチの技能とMR技術には大きな関係があるのは理解しております。MR技術に関しては触りしか存じませんが、あれは魔法という概念が引き起こした新たなブレイクスルーの一つでしょう。その使用制限が緩和されるとなれば」

「下層にくれば維持が楽になる。素直に考えれば魔力の関係だと思いますが」

「ああ、うん。多分そんな感じです」

 

 俺の言葉に興味深そうに持論を語り始めるヤマザキさんとケイティに適当に相槌を返す。これ感覚だからうまく言葉に出来ないんだが、下に潜れば潜るほど魔力を肌で感じられるというかなんというか。

 

「下に潜ると右目が疼くんだよな。鎮まれ、俺の鑑定眼……」

「右目真っ赤になってますよダンジョン大先生」

「わ、ほんとに真っ赤だ! きょーちゃん、キレーな眼だね!」

 

 高度な会話に入った有識者二人を尻目に幼馴染二人と馬鹿話を交わしていると、ひゅーんと何かが飛翔する音と共に人間大の物体がキノコ雲の方角から飛んでくる。何が飛んできたのかは理解している。なにせ俺の一部(変身元)なんだから。

 

 危ねーぞー、と声をかけると全員がその言葉に反応し、すっとその場から飛びのいた。流石は一流の冒険者だ、反応が早い。

 

 数瞬後、俺たちが飛びのいて開けた空き地にその物体はズドンと大きな音を立てて地面に激突し、そのまま突き刺さる。

 

 すげぇな。人って地面に刺さるんだ。

 

「所でなんでこいつ出したんだ? というかお前こいつ変身レパートリーに入れてたんだ」

「いや、香苗さんが剣を使える奴と対戦したいっていうから……」

「なんでそれでこの選択だったの???」

「最近熟練度上がってきたからもうちょっと使いたくて」

 

 スケキヨみたいな体勢で足をピクピクと動かす俺の一部(変身元)を、そこらへんで拾った木の棒でつんつん突きながら恭二が尋ねてくるので、そう返事を返す。

 

 本当は最近マジで性欲的なサムシングが感じられなくなってきたから、煩悩全快みたいな奴をもっと習熟したら影響貰えるかなと思ったんだが。

 

『あ~死ぬかと思ったっっ!!』

「よく生きてるなお前」

 

 ズボっと地面から頭を抜き出してそう叫ぶ俺の一部(横島忠夫)にそう答えを返す。まぁこちらに走り寄ってくる女性陣の表情を見るにその命もそう長くはなさそうだが、一回か二回斬られても多分こいつ生きてるだろうし問題ないだろう。

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