「どういう心算でアレを?」
戦闘中に思い切り胸の中に顔を埋められたという水無瀬の香苗さんがゴゴゴゴ、という擬音が聞こえてきそうな雰囲気でそう口にしてくる。ふふっ、怖い。
美人が凄んでくると、こう。強面に詰められるよりも恐ろしく感じるよね。
「剣が使える人が良いって言われたから……」
とはいえ今回の件に関しては俺の方にも言い分がある。
そもそも割と無理な要望してきたのは香苗さんの方だからね。ほぼ安全だと判断された38層とはいえダンジョンの深部で手合わせなんて無視するから、普通。彼女とは仕事の付き合いもあるし無下にするのも悪いと思ったから受け入れたけど、それだけでもかなり例外的な対応だと言える。
しかも剣を使うってリクエストにも答えてる。これで文句を言われる謂れはない。本人も自分が無茶を言っている自覚があるのか、俺の言葉にバツが悪そうに眼をそらした。
まぁ香苗さんは俺と直接戦うのを望んでたっぽいんだけど変身こそ俺の戦闘の根幹だし、変身元と戦ってるなら実質俺と戦ってるようなものだろう。
「じゃあ目の前でセクハラ見せられた私たちは文句言っても良いよね?」
「妹に恥かかされて笑うて許せるほどうちは人間出来てまへんえ?」
「あ、そちらはちょっと考えてなかった」
右手を一花に、左手を水無瀬の静流さんに捕まれて凄まれるもそれはもう俺に言うべきことじゃないというかあっちでアルラウネ達に興味深そうに集られて「裸がーっ! 緑のーっっ!! ちち! しり! ふとももぉぉぉぉぉ!!」と木の洞に向かって叫んでいる男に言うべきじゃないだろうか。
「お兄ちゃんの一部じゃん」
「人間には幾つもの
「目の前に実物があるのにヘタレてる辺り原作よりもお兄ちゃんよりかな?」
やめてくれ、その言葉は俺に効く。
一花の言葉にアレで?と言いたげな水無瀬姉妹の視線に原作のあいつなら目の前に裸の美人のチャンネーが居たら体が勝手にルパンダイブしてると思います……とは流石に言えずにあいまいに返事を返しておく。
あ、いや。あいつ確かにスケベだがあのアルラウネ達だとキツイか? 無垢な娘相手だと尻込みしちゃうからな。だから木の洞に向かって煩悩叫んでるのかもしれん。
「ますますお兄ちゃんよりになってるね」
妹の容赦のない一言にそっと目をそらす。俺はああじゃ。その……違うから(震え声)
ジュージューと肉の焼ける音が森の中に響く。用意した肉は超高級な霜降り肉――ではなく極力脂身を落とした赤身の多い肉だ。なんでもドライエイジングだかいう技術を使った熟成させたお肉であり、非常に濃厚な味わいになるのだとか。
「体が弱かった時は、青カビを使った料理は食べられませんでした。今は以前食べられなかった食材が食べられて、毎日が楽しいです」
というのはこの肉を持ち込んだケイティの談である。今でこそ健康体だが、ケイティは魔法が世に出るまで20歳まで生きられるかもわからないと言われていた。当然、食べられるものも健常者に比べてはるかに少なくなる。
断食で死にかけたからこそ言えるが、食べられないというのは本当に苦しく辛いことだ。彼女はその食べるという行為自体に大きな制限がかかったまま成人近くまで生活してきた。その苦しみはどれほどのものだっただろうか。
「いや、お兄ちゃんの断食はまたベクトル違うでしょ。死にかけてたし」
『こらうまい! こらうまい!』
「おいこらヨコシマ! 肉ばっか取らんといて!」
「いや、でもしょうがないわ。これ、普通に焼くだけでめちゃめちゃ美味い」
「うーん、じゅーしー!」
ワイワイガヤガヤとバーベキューコンロに群がって肉を貪る。そして肉をかみ砕いて喉に押し込み、それを炭酸で胃袋まで押し流す。バーベキューの楽しみは、やっぱりこれだろう。
「炎を囲んでマイムマイムも、ですね!」
「アメリカにも炎囲んでフォークダンス踊る文化があるのか?」
「文化というには、ギーグ向けになるんですが……米国のとある大きなイベントで広まった風習です。可燃性の処分したいものや持ち帰れないイベントの売れ残りを火にくべて、その炎を囲んで皆でマイムマイムを踊るんです。イベントの準備でたまったストレスを解消するために始まったと言われてます」
「全然知らねぇ。なんだそのカルトみたいなイベント」
売れ残りの可燃物ってのはまぁ日本のイベントを考えれば薄い本とかなんだろうけど、それを持ち帰れないからってイベント後に炎に投げ込むってのは凄いな。これ考え付いたの傾奇者とかじゃないか?
「所でしれっと混ざっているヨコシマくんはどうなってるんでしょうか。その、胃や消化器官は」
「人体の神秘、ではないかな」
若者たちから少し離れた辺りでヤマザキさんとアガーテさんがそう首をかしげているが、彼を出してる俺にも良く分からない。多分魔力に変換とかできてるんじゃなかろうか。
『お前の胃袋に入ってるっつったらどうする?』
「勘弁してくれ」
こちらの内心に答えるように横島忠夫が茶々を入れてくるので返答を返す。それじゃ折角の味が楽しめないじゃないか。あ、これマジで美味い。どこで売ってるのか後でケイティに聞かないといかんな。それはとりあえず今回のダンジョン探索が無事終わってからで良いとして、だ。
「食事が終わったら試してみる、でいいのか?」
「もちろんです。このために準備、沢山してきましたから」
「ん、オーケー」
程よく肉が消化されたタイミングで恭二とケイティにそう尋ねると、彼らは特に考えることもなく首を縦に振った。まぁ今回のメインの目的はそれなんだから当然といえば当然だが。
やり取りを見ていたほかのメンバー達の視線がこちらに集中する。
「じゃぁ、まあ。美味しいものを食べてしっかり英気を養ったら」
恭二はチラッと全体を見渡した後、いつも通りの口調で話し始めた。
「第32回、38層攻略始めよっか」
※薄い本を炎にくべてマイムマイムする祭りなんて現実にはありません。オリジナル設定をちょっと持ってきただけなのでスルーしていただければありがたいです