奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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四話統合

誤字修正。アンセルム様、244様、仔犬様、ハクオロ様、久遠 篝様、kuzuchi様ありがとうございました!


第一話〜第四話

「何してんだお前」

「いや、マジすまん」

 

 

ニュースを見てすぐに駆けつけた俺を出迎えたのは、先ほどまでボコボコにされていた容疑者Y氏であった。顔を見ると治っていたので尋ねたら、魔法で治ったらしい。

取り敢えず無事だったのを喜んですぐに締め上げると、ダンジョンの中が気になったから、等と意味不明な言い訳を供述してきた。無論一発殴っとく。

 

 

「あ。すげぇな」

「・・・ん?」

「全然痛みがない。身体能力が上がってるんだなって」

 

 

どういう事か確認すると、ダンジョン内でコウモリやらなにやらを倒した時に光の粒のような何かが恭二の体の中に入ってきたらしい。

それは恐らく魔物の魔力で、それを吸収した結果身体能力が上がったのだろう、と。

 

 

「つまり、経験値を貯めてレベルが上がった的な奴か?」

「恐らく。ただ、レベルみたいに一気に上がるって感じじゃなくてちょっとずつ上がっていってる気がする」

「それって、ゲームみたいな感じって事か?」

 

 

真一さんが、そう言って話に入ってきた。真一さんも中が気になるらしい。恭二が身に付けた魔法といいあの穴が原因だろう現象で山岸さん家は大変な目にあってるしな。少しでも情報が欲しいんだろう。

 

 

「うん、そんな感じ。ウィザードリィって知ってる?」

「分からいでかぁ!」

 

 

ゲームの話で例えようと恭二が某名作ゲームの名を出すと、唐突に山岸さんが叫んだ。何でも初代の頃から大ファンらしい。初代ってあの超難易度の・・・すげぇな山岸さん。

恭二も真一さんもゲーム好きだし、山岸家は一家揃って結構なゲーマーなんだな。うちだと妹しかゲームをしないから少し羨ましい。

 

 

「中は正にダンジョンって感じだ。1階や2階のモンスターもそんなに大した事はなかった」

「ふぅん。明日は俺も行ってみようかな。この腕も何かありそうだし」

 

 

恭二の話を聞きながら、真っ白くなってしまった右腕を見る。

感触も何もかも今まで付いていた腕と何も変わらないのだが・・・

 

 

「とりあえず今日はもう遅いし、一郎くんも泊まって行きなさい。外の連中に捕まっても事だろう」

「すみません・・・あの報道を見て、いてもたってもいられなくて」

「うちのバカが心配をかけて申し訳ない。ご家族にはこっちから連絡しておくから」

「よろしくお願いします」

 

 

窓から外の警官やら取材陣やらがピリピリしている様子を見て、山岸さんがそう提案してきた。

正直来る途中は無我夢中だったので気にしてなかったが、厳戒態勢状態の中突っ込んできたんだよな。やばいことしてたわ。

お言葉に甘えて、今日は早めに寝ることにする。明日のダンジョンアタックが少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

ダンジョンアタックは延期になりました。

あ、別に問題が起きたわけではないですよ。何か昨日恭二を助けてくれたって海外の記者さんが取材に来たらしい。

てか、昨日爺ちゃんに突貫してきた記者のお姉さんだ。やっぱ海外の報道関係は気合の入り方違うな(偏見)

 

 

「初めまして、シャーロット・オガワです」

「ど、どうも。山岸です。これが恭二です。あと、こっちが鈴木一郎くん」

 

 

名前を呼ばれたのでペコリと頭を下げる。コンビニで起きた事件の被害者が二人とも揃っていると知った記者のお姉さんが、一緒に取材をしたいと申し込んできたので俺も恭二の隣で取材を受けることになった。

てか山岸さんがしどろもどろ過ぎて・・・非常時にはあんなに頼りになるのに。

途中で山岸さんから真一さんが質問に答えるようになった。やっぱ美人には弱いよね。男やもめだしね(精一杯の弁護)

 

オガワって苗字から察するに恐らく日系アメリカ人なんだろう。ちょっと日本人っぽい赤毛の似合うお姉さんだ。

若干訛りを感じるけど親御さんに教わったのかペラペラの日本語で真一さんに質問をし、カメラに向かって早口の英語でそれらを翻訳するという記者と翻訳の仕事を同時にこなしている。やっぱ海外の報道関係は違うな(偏見)

何て言ってんだろ。英語の成績はそれほど悪くないし単語から読み取れないだろうか。

アクシデああ、事故か。事故の被害者が二人? もうちょっとゆっくり喋ってくれるとわかるんだが。ネイティブ早すぎる。

 

 

『They are victims of the accident事件はevening、山岸氏の経営するコンビニエンスストアで起こりました。突如冷蔵庫内に発生した黒い穴は発生時に周囲の冷蔵庫やガラスを破損させ、彼らは破裂したガラスによって命にかかわる重傷を負ったのです。それはたった4日前のことでした。直前まで冷蔵庫の中にジュースを補充していた山岸恭二さんは全身にガラスの破片を浴び、恭二さんを助けようとした鈴木一郎さんは右腕を切断されてしまったのです』

 

 

耳に意識を集中して単語を拾おうとすると、唐突にチャンネルが変わる様に意味が理解できるようになった。

何だこれ。俺こんなに英語力あったのか。

 

 

「山岸さん。全身にガラスの破片を浴びた恭二くんと右腕を失った一郎くんはその後どのようにして回復したのですか?」

「順番的には一郎くんが先になります。黒い穴から溢れてきたもやを、こう、一郎くんは右手でかき消そうとしてたんですね。その時に右手が光って。恭二は救急車で搬送される時に、全身が光りだして。体から逆再生みたいにガラスを押し出していったんです」

「なるほど」

 

 

恭一さんの答えに相槌を返して、オガワさんがカメラに目線を向ける。

 

 

『彼らに訪れた悲劇は、しかしそれ以上の奇跡によって救われることになりました。恭二くんの体を襲ったガラス片は、彼自身の体から発せられた光と共に押し出されて彼は命の危機から脱し、一郎くんの右腕は再び体に戻り・・・』

『あ、そこ違います。切り離された腕はそのまんまですけど、新しく生えてきたんです。ほら』

「ふぇ?」

 

 

きょとんとするオガワさんに真っ白になった腕を見せる。

 

 

『ほら、ここだけ色が全然違うでしょう?』

『あ、はい。本当ですね・・・生えた、んですか!?』

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 

真っ白になった腕を触りながら、驚きの声を上げるオガワさん。まあ普通トカゲでもあるまいし切り離された部分が生えるなんてないわなぁ。

美人さんとのふれあいにちょっと心をトキめかせていると、恭二が声を上げた。

 

 

「一郎、お前いつの間に英語なんか出来るようになったんだ?」

「いや、出来んよ? 聞く方ならさっきから何となくいけるんだけど」

『えっ!?』

 

 

今度はオガワさんが驚きの声を上げた。

 

 

『先ほどから、私と綺麗な英語で話しているではないですか!?』

『いや、聞き取りは英語でやってるけど会話は日本語ですよね?』

「ああ、言う方は確かに日本語で言ってるな」

『・・・え、えっと。今の会話は日本語で行われているんですか?』

 

 

唐突に英語の才能でも目覚めたのか? と思い真一さんに確認するも、真一さんも俺が日本語を話していると証言してくれた。

困惑した表情を浮かべたオガワさんは、カメラクルーに振り返り『ジャン! ちょっと来て頂戴!』と言うと、再び俺に向き直る。

 

 

「今呼んだジャンは、英語とフランス語が出来る人物です。日本語は出来ません。彼を交えてもう一度会話してもらっても良いでしょうか?」

「あ、はい。あの・・・?」

「山岸さん、もしかしたら、私達は再び歴史が変わる瞬間を目撃しているかもしれません。一度目は4日前。そして、二度目は今・・・」

 

 

ここまできたら、オガワさんが何を言いたいのか頭の鈍い俺でも理解できた。

カメラクルーの一員は抱えていた機材を床に降ろし、こちらに駆け寄ってくる。

 

 

『OKだ、シャーリー。僕は何をすれば良い?』

『ジャン、彼と会話して欲しいの。もしかしたら』

『ああ。奇跡は癒しだけではなかったかもしれないって事だね。勿論OKさ。こんにちは、鈴木さん。僕はジャン・ブルックだ。ジャンと呼んでくれ』

 

 

そう言って、ジャンさんは俺に右手を差し出した。右手を握り返して、俺は彼に答える。

 

 

『こんにちは、ジャンさん。あの、意味は通じます、よね?』

『・・・・・・ああ。ああ、勿論だよ。綺麗に通じている』

 

 

そう言って、信じられないといった表情を浮かべながら、彼は言った。

 

 

『翻訳されている・・・神よ。この奇跡に巡り合えた事に感謝します』

 

 

その一言は回り続けていたカメラにバッチリと捉えられ。

その後、恭二が話したダンジョン内部の詳細と共に世界を駆け巡る大ニュースとなるのだった。

 

 

 

 

第二話

 

 

ダンジョンである。

 

いや、いきなりで申し訳ないが俺も心の興奮が抑えられないらしい。

先日の放送以来もはやほぼ毎日会ってるシャーロットさんやジャンさん達CCNスタッフが機材の準備を進める中、俺は手に持ったバットの感触を確かめる。

1階はコウモリ、2階にゴブリンか。うむ、ド定番RPGだな。燃えるぜ!

 

 

「おいイチロー。現実逃避してるところ悪いんだがな」

「すまん恭二。見逃してくれ」

「いや駄目だろ」

 

 

呆れたようにそう言う恭二と、項垂れる俺。

全ての原因は向こうで沙織ちゃんと談笑するジャージ姿の少女にある。

俺たちが通っていた学校の指定ジャージを着たおかっぱの少女は親指を立てながら沙織ちゃんに意地の悪い笑顔を向けている。

 

 

「さお姉、恭二兄ちゃんが帰ってきてからちゃんとアタックした?」

「えっ!? ええっと、そのぉ」

「駄目だよあんなニブチンに自分から押し倒す甲斐性なんて無いんだからさ。もっとグイグイいかないと」

「そ。そうかなぁ・・・?」

 

 

純情な沙織ちゃんを悪の道に引きずり込もうとするジャージ娘の襟首を掴んで引っ張る。

ジャージ娘は「ぐぇっ」と可愛らしさの欠片も無い悲鳴を上げると、非難するように俺を見た。

 

 

「何すんだよ兄ちゃん!」

「何すんだ、じゃねぇよ。邪魔するんなら置いてくって言ったよな。沙織が全然準備できてないだろうが」

 

 

ジト目で妹を見ると口笛を吹いてそっぽを向いた。

こいつの名は鈴木一花。お恥ずかしい事ながら俺の妹だ。

 

 

「一郎くん、私は気にしてないから」

「さっすがさお姉! 素敵!」

「沙織ちゃん、甘やかすな。こいつすぐ調子に乗るから」

 

 

パッと俺の手から逃れた一花が沙織ちゃんの後ろに隠れる。

この二人、年齢が近いというのもあるんだろうが妙に仲が良い。というか沙織ちゃんが実の妹のように一花を可愛がっている。

近所の同年代で一番下が一花だからというのもあるが、沙織ちゃんは同級生とかが相手の場合可愛がられる側に居ることが多いからな。

お姉ちゃんぶりたいんだろうな、と勝手に推測している。

 

 

「あ~、一郎くん。流石に一花ちゃんは」

「真一さん! お久しぶりです!」

「あ、ああ。お久しぶり、元気だった?」

 

 

それと、狙っている男が被ってないのも仲が良い理由だろうな。

一花の姿を見咎めた真一さんが俺に注意をしようとしたが、インターセプトしてきた一花がグイグイ押していく様は妹ながら恐ろしい。

真一さん、結構遊んでる筈なんだが身内認定した人には甘いから・・・

一花の勢いにタジタジになりながらこちらに視線を向けて助けを求めてくるが、馬に蹴られる趣味は無いので気づかなかった振りをする。

 

さて、再度になるがダンジョンである。

事前に恭二から内部はかなり広いと言われていたので、動きやすい服が良いと思い学校のジャージと、念のために中学の時に使っていた野球のキャッチャー用プロテクターを着けてきた。

気分は日曜日の草野球って所か。ジャージだけでも良いかなと思ったがゴブリンが武器を持っていると言われたからな。気休めだが無いよりは大分ましだろう。

俺のキャッチャー姿を懐かしそうに眺めながら恭二が話しかけてくる。

 

 

「一階の吸血コウモリも二階のゴブリンも結構素早いぞ。ブランク長いけど大丈夫か?」

「バントは得意だぜ」

「せめて振れよ!」

 

 

二人してゲラゲラと笑っていると、一花が大きなリュックサックを引きずってこちらに来た。

 

 

「ちょっとお兄ちゃん! 手伝ってよー」

「お前、これ何入ってんだ?」

「色々~」

 

 

明らかにパンパンに膨れた登山用のリュックサックをドサリ、と置いて一花がふぅ、と息を吐く。

先ほどまで纏わり付かれていた真一さんは・・・助かったって顔でシャーロットさんと話してる。

成るほど、シャーロットさんが見かねて助け舟を入れたのか。

邪魔をされたからかムスっとした顔で一花はリュックサックを開き、中から物を取り出し始める。

 

 

「まずこれ、ロープ。10m分あるから。あとサバイバルナイフね。武器にしても良いけどリーチが短いからお勧めできないかな。こっちはガスバーナーとバーナー用のスタンド。あと小さいステンレスの鍋ね。あと物干し竿」

「お前は一体何と戦うつもりなんだ?」

「いや、むしろ全然足りないんだけど。ダンジョンに行くのにバットと防具だけとか死にに行くだけじゃない」

「お、おう。すまん」

 

 

至極真面目な顔でそう言い切る妹に、思わず頭を下げる。隣の恭二も何故か一緒になって頭を下げている。

そういえばこいつも着の身着のままでダンジョンに潜ったんだよな。今思うと明らかに超危険行為だ。

 

 

「まあ、現実世界にダンジョンなんて今まで無かったしね。私のこれも先人の知恵(TRPG)によるものだから正しいとは言えないけど、備えはあって損は無いでしょ?」

 

 

至極尤もな意見である。

実際、恭二の話を聞いて楽観視していた所はある。未知数の場所なのだ。警戒をしすぎるという事はないだろう。

 

 

「ま、防具で固めたお兄ちゃんに大荷物持たせるのは問題あるから、分担して持っていかないとね」

「いや、これ位なら問題ないぞ?」

「へ?」

 

 

そう言って恭二は前回のダンジョン探索で身に着けたという『収納』の魔法を使い。リュックサックを片付けた。

バットの出し入れ位は見せてもらっていたが、子供位の大きさのカバンが一瞬で消えるのは本当にファンタジーだ。

 

 

「・・・・・・魔法!?」

「いやそうだよ知ってるだろうが」

「知ってたけど初見だよ! うわ、すげー!」

「ハハハ、凄かろう」

「恭二兄ちゃんかっけー!」

 

 

感激の声を上げる一花に気を良くしたのか、恭二が胸を張って笑う。

おい恭二、別に出し惜しみする事じゃないだろうがさ。今の状況を思い出せよ。

 

CCNのスタッフさん、凄い勢いでカメラ向けてこっちに来てるぞ。シャーロットさんめっちゃ早口で意味が分かるのに意味分からんくなってる。

これはまた潜るのが遅れそうだな(傍観)

 

 

 

 

 

 

約1時間ほど予定を押しましたが無事ダンジョンに入れました。入る前から若干疲れた。

先導する恭二と盾役の俺がヘッドライトをつけて先頭を歩き、その後ろにシャーロットさんと一花、沙織ちゃん、スタッフの皆さんと続き,最後尾に真一さんが陣取って背後をカバー。

 

後、何故か妹から渡された物干し竿を手に持ち、小まめに地面を突けと言われた。罠が無いか確認するそうだが、これ意味あるのか?

後ろのほうでジャンさんが『10フィート棒だ!』ってスタッフの人と楽しげに話してるけど何か有名なやり方なのかね。良く分からん。

 

出てくる吸血コウモリをバットでなぎ倒し進むことしばし。

恭二が足を止めたので何事かと思ったらどうやらボス部屋らしい。

 

 

「うおりゃ!」

『ギィ!』

 

 

飛び降りてきたジャイアントバットを恭二が叩き落す。

一撃で終わった。やっぱり一階だとボスでもこんなものか。

ジャイアントバットから出てきた石ころを恭二が収納し、全員分のペットボトルを出してくれたので一息吐く。

なるほど、確かに結構歩いたはずなのに疲れを余り感じない。

実感は無いがこの僅かな間だけでも身体能力が上がっているのかもしれない。

 

「すごいわ。本当にウィザードリーなのね」

「ええ、まあこんな感じです。次の階層だとゴブリンが出てきます」

 

 

シャーロットさんの質問に恭二が答える。

確か次の階層のゴブリンは武器を持っていたはずだ。人数が多い以上、カバーしきれるかわからん。

その懸念はCCNスタッフも持っていたみたいで、何事かスタッフ同士で集まって話し始めた。

恐らく引き返すかどうかだろう。

 

 

「で、実際どうよ。次行きたいって言われたら」

「ちょっと難しいかもしれん。手が足りんからな」

「流石に3人で倍以上の人数をカバーは仕切れんぞ。どちらにせよそろそろ戻るべきだ」

 

 

こっちもこっちで相談だ。出来るだけ危険は避けたいというのは皆思っている。後はどこまで行くか、もしくはもう引き返すかなのだが。

どうするべきかね。俺としては体力が有り余ってる状態なんだが。

ゴブリンを見たことがある恭二の判断次第だが、出来れば進みたい所だ。

 

 

「ねえ、恭ちゃん。魔法とかって使わないの?」

「魔法?」

「ほら。ファイアボールとか、ばぁーっと敵をやっつける的な」

「ファイアボール!」

 

 

沙織ちゃんと恭二の会話を聞きつけて一花が素っ頓狂な声を上げた。

 

 

「そうだよ恭二兄ちゃん、魔法って結構イメージで出来るんでしょ? やってみようよファイアボール!」

「ふーん。そうだな、じゃあ、ファイアボール!」

 

恭二がそう叫んで右手を掲げると、右掌に赤い炎の玉が出来上がる。

それをふん、っとばかりに打ち出すと、結構な速度の火の玉が壁に飛んで、壁を焦がして消えた。

 

 

「おおー!」

「ファイアボール!」

 

 

驚きの声を上げてパチパチと手を叩く沙織ちゃんと、自分も、と言わんばかりに右手を上げて魔法を唱える一花。

結果、見事に右手に出現した火の玉を同じように飛ばすことに成功。

 

ただ、速度は恭二の物に比べて大分劣るように感じた。これもイメージの差だろうか。

さて、こんな面白そうな事に参加しない手は無い。俺もやってみようと右手に炎を集めるイメージする。

 

 

「ファイアボー・・・なんじゃこりゃあ」

 

 

右手に炎を集めるイメージをしたのが悪かったのか。

右手は確かに炎を集めていたが、手の先から形を変えて筒型になってしまった。

 

銃口のような形に窪んだ手の先から漏れ出る炎はどんどん明るく熱く燃えていくのがわかり、あ、これ放置したら暴発しそうだな、と判断した俺はとりあえず何度もファイアボールを叩きつけられた壁に向かって右腕を向けて、ファイアボール(?)を放つ。

 

収束したファイアボールは勢い良く壁にぶつかり、爆発。大きな焦げ後を残して消えていった。

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

 

 

一同、沈黙。そらそうだわ俺だって何言えば良いかわからんもの。

震える指先で俺の右腕を指差した妹が、尋ねてくる。

 

 

「・・・お兄ちゃん、いつの間にライト博士に改造されたの?」

「あの人は正義の博士だろうが」

 

 

そもそも改造されてねえよ。されてないよな? されて、ないよね・・・?

俺の問いに答えてくれる人は誰も居ない。

 

 

 

 

第三話

 

 

「ロックマンだな」

「ロックマンだねー」

「MEGAMANですね」

「いやむしろ空気砲じゃないかな?」

 

 

ダンジョンから脱出した俺達は、山岸家の居間に集まり休息がてら先ほどの『ロックバスター事件』について話し合っていた。

いや、事件って程でもない・・・いやいや人間の体がいきなり変形するのは事件だろ。

 

因みに右手は元に戻りました。色も元の肌色です。

というか変形脱色が自由自在になりました。

あ、今もカメラは回しっぱなしです。CCNのメンバーのテンションの上がり方がヤバいんですがそんなにロックマンが好きなのかね。

 

少しサービスでもするか、と右腕をぐにょぐにょ曲げてXメンのウルヴァリンのように爪を生やしてみると歓声を上げて喜んでくれた。ノリの良い人達だ。

 

左手でも出来ないか試してみるがこっちは形が変わらず、代わりに光の爪のような物が出来た。

魔力の感覚も何となくだが掴めて来たんだが、変形までさせられるのは右腕だけみたいだ。

 

 

「多分、それ新しい腕が生えてるんじゃなくて、魔力でそういうふうに形を保ってるんだろうな」

「何それ怖い」

「お兄ちゃんがアルター能力者になったけど何か質問ある?・・・と」

 

 

普通に病院で検査された時は色以外におかしい所も無かったみたいなんだがな。

後、妹よ。隙を見て変なスレを立てるんじゃない。CCNの人達が慌ててるじゃないか。

 

 

「鈴木さん、そういうのは困ります」

「すみません、シャーロットさん」

 

 

もちろんシャーロットさんに苦言を言われ頭を下げる。

昨日のニュースは大反響だったらしく、シャーロットさん達はかなりのお偉いさんから直々に称賛と激励を受けたらしく凄く張り切ってる。

 

『特ダネがあったらください!』と真っ直ぐ頼んでくるのは流石にどうかと思ったが、そんだけのやる気と図々しさがないと海外の報道機関で働けないんだろう(偏見)

シャーロットさんのお叱りに、意外な事に一花は素直に頭を下げる。

 

 

「ごめんなさい、本気でスレ立てする気はないですよー。ただ、今の時代いつでも情報を拡散できるってのを念頭に、ちょっとお願いがあるんですよね」

「お願い、ですか?」

「そそ。ちょっとした兄孝行って奴でして。ゴニョゴニョ」

 

 

ニヤニヤと笑いながらおかっぱ娘はシャーロットさんの耳元で何やらぼそぼそと喋り始める。

最初は眉を顰めていたシャーロットさんも途中から思案顔になり、最終的には『OK!』と笑いながら許可を出していた。

シャーロットさんの許可を得た妹は満面の笑みを浮かべて俺を見る。

あ、これアカンやつだ。

 

 

 

 

 

「なあ妹よ」

「なんだい兄ちゃん」

「これから実の兄に人生最大の屈辱を与える気分はどうだい」

「ほぼイキかけましたたたた」

「下ネタは使うなっつってるだろ?」

 

 

妹の頬を捻り制裁を加える。

「ひどい・・・」と頬を押さえて蹲る一花にため息をついて、俺は鏡に映る自身の姿を見た。

 

青いヘルメットに薄い青色のタイツ。ヘルメットと同色のグローブとブーツ。

どっからどう見てもロックマンのコスプレイヤーです。しかも割かしリアリティがあって痛い奴。右腕はグローブ状に変形させてあるんだぜ!

・・・死にたい。

爆笑してる恭二の奴は後で締める。

 

 

「はい、じゃあカメラ回してー! 良い感じの画期待してるよお兄ちゃん!」

『OK,ボス!』

 

 

一花の号令に従ってCCNのカメラクルーもカメラを動かし始める。

カメラ回してるジャンさんがめっちゃ笑ってる。やっぱりロックマン好きなんだなあの人。

 

さて、現在地はダンジョンの地下2階。俺達は再びダンジョンに入った後、一気に地下2階まで降りた。

目的はゴブリン討伐。午前中はゴブリンを数体倒した程度で帰ってきたので実際戦ってみるとどうなるのかと、もう一つ。

 

 

「さぁお兄ちゃん、その自慢の右手でバシバシやっちゃって!」

「あいよ。ファイアボール!」

 

 

右手を変形させて銃口の形にし、ファイアボールをゴブリンに向かってバシバシと飛ばしていく。

このロックバスター式ファイアボールは普通のファイアボールと違い、一度唱えたら連発出来るようだ。

その分一発一発の威力はかなり弱いが、チャージして打ち出せば本来のファイアボールよりも威力が高くなる。

 

魔法を見るだけで大体の仕組みが分かると言うチート野郎の恭二曰く、右腕の中にファイアボールを発生させるためのエネルギーが常に発生していて、微量の魔力をそこに追加することで弱い威力のファイアボールを連続で出している、らしい。

 

チャージの際はその足している魔力をドンドン圧縮して打ち出すから凄い威力になるんだとか。

燃費が良さそうで羨ましいと嘯く本人は、指5本にそれぞれファイアボールを発生させて打ち出してゴブリンを木っ端微塵にしたり新魔法をドンドン開発していて、正直何が羨ましいのか良く分からない。なんか別の手段で同じ事してきそうだなあいつ。

 

 

「よぉし、今日はこんな所で良いかな! 皆お疲れ様!」

『お疲れ! 一花も良い指揮だったぜ!』

「テンキューテンキュー! これ、翻訳だっけ。面白いね!」

 

 

このアタック中に翻訳を覚えたのか、スタッフと談笑しながら一花が終了の合図を出す。

ようやくこの地獄から開放されるのか・・・体力的にはまだまだ余裕があるが、変な汗をかいたせいかタイツがジットリと濡れている様に感じる。早く着替えたい・・・

 

 

「じゃあ兄ちゃん、明日の午後は今度は赤白のタイツでやろうか。ヘルメットとグラサンは用意しとくね!」

「勘弁してください」

「まだまだ全然足りないよ? 今のうちにたっぷり用意しとかないといけないんだから!」

「・・・お前。俺をどうしたいんだ?」

 

 

怒る気も失せて尋ねた俺に、一花は至極真面目な顔でこう答えた。

 

 

「とりあえず世界一有名なダンジョン探索者になろうか?」

 

 

 

 

第四話

 

 

ダンジョンの探索した次の日。

 

 

『初めまして、お会いできて光栄です』

 

 

山岸さんの家の前で僕と握手!

尚相手は駐日アメリカ大使。チビッ子相手ならどれだけ気が楽だったか・・・

取り敢えず当たり障りのないように翻訳をかけて返答する。

 

 

『こちらこそお会いできて光栄です』

『素晴らしい、本当に英語で会話しているように感じますね。右手の変身魔法を見せて頂いても?』

『どうぞ。何かリクエストはありますか?』

『そうですね・・ならウルヴァリンをお願いします。息子がアベンジャーズの大ファンなので』

『喜んで』

 

 

シャキン、とボーンクローを出すと、アメリカの人らしく『Wow!』と歓声を上げてペタペタとボーンクローを触る。

あ、刃の部分は流石に危ないですよ。写真? どうぞ。

周囲のマスコミがフラッシュを焚く中、大使と俺はカメラ目線で笑顔を振りまいた。

 

 

 

「写真を撮り終わったらお役御免って事で帰れませんかね」

「駄目だろ」

 

 

式典(?)で見せ物になった後、抵抗する俺も引き摺られて中に入る。

さて、ここからは世知辛い話となる。

 

アメリカ大使なんてVIPがこんな民家を訪問なんて普通はありえない。では、何故こんな状況になっているのか。

勿論、理由はダンジョンゲートだ。

 

 

『アメリカ軍でも通路の画像までしか持ち合わせて居ない中、CCNが放送した内容は世界中に衝撃を与えました。貴方方は間違いなく、現在最も進んでいるダンジョンの第一人者です』

 

 

というのが、昨日放送されたCCNのニュースを見た各国首脳陣の認識らしい。

らしい、というのはアメリカ以外の国がどう思っているか分からないのと、母国であるはずの日本の辛い対応が原因だ。

 

今回の山岸さん家を襲った『浸食の口(ゲート)発生事件』、何と災害認定されない可能性があるそうだ。

保険屋がそこをついて保険金を出し渋っており、山岸さんの家は借金塗れの危機に瀕しているらしい。

 

その件を昨日のゴブリン画像で世界中を沸かせていると評判の敏腕ニュースキャスター、シャーロットさんに相談した結果がこれだ。

 

 

『本日お伺いしたのは、浸食の口(ゲート)についてを詳しく聞きたかったのです』

『わかりました、良いですよ』

 

 

そう大使は英語で話し、それに翻訳の魔法を使って恭二が答える。

ダンジョンに関しての最先任は恭二だ、というのをしっかり認識しているらしい。

 

 

『あと、可能でしたらミスタ・キョージとミスタ・イチローに私共の人間を随行させて欲しいのです』

『構いませんよ。但し人員は少人数でお願いします。こちらの人員は兄の真一と俺とイチロー、出来れば3人の内1人はフリーで動けるようにしたいので2名までと・・・あ、オガワさんなら大丈夫だと思うのでオガワさん含みなら3人でも大丈夫です』

『分かりました』

 

 

昨日のダンジョン探索の際、真一さんもファイアボールとヒールはマスターしている。十分戦力に入れる事が出来るはずだ。

大使は恭二の言葉に頷いて、背後に居たSPの内2名を指名して何事か指示を出している。恐らくこの二人が随行の人員だろう。

 

ガタイの良い強面の人たちだが、不思議とあんまり強そうに感じない。修羅場を経験したせいで感覚が麻痺しているのだろうか?

 

 

「恭二さん、ありがとうございます!」

「いえ。お世話になってますし、実際戦力として見てますからね?」

 

 

ハンディカムのビデオを手に恭二にお礼を言ってくるシャーロットさんに、恭二は頬をかいて答える。

実際、シャーロットさんはすでにダンジョンを経験していて、しかも昨日のうちにファイアボールを覚えている。

ぶっちゃけあのSP二人よりも安心して一緒に潜れる。

 

 

「所でイチローさん、一花ちゃんから今日の分を預かってますよ」

「ジーザス」

 

 

少し前の安心感を返して欲しい。

 

 

 

さて。本日のダンジョンアタックの時間だ。

ヘッドライトを出してくれと恭二に頼むと「いや、必要ない」と断られた。

 

 

「ライトボール」

 

 

恭二がそう言うと、恭二の頭上にふよふよと光の玉が出現する。

一同、どよめく。

 

 

「何だそれ」

「兄貴も出来ると思うよ。これが欲しいって念じてみればいけるいける」

「お、おう。じゃあ・・・おお、出来た!」

「あ、私も」

『・・・駄目だ、出てこない』

『こちらもだ』

 

恭二の言葉に従って真一さん達も試しにライトボールを唱えてみると、ダンジョン経験組は全員が成功するも未経験者はうんともすんとも言わないようだ。

俺? めっちゃ光ってるよ右腕が。

 

 

「一郎の場合、体外に出す系統の魔法は右手を出入り口にしてるっぽいな」

「すげー不便なんだが何とかならんか?」

 

 

赤く光る右腕を見ながらそう言うと、恭二はお手上げ、とばかりに肩をすくめた。

 

 

『HAHAHA! 気を落とすなよProtoman!』

『チャージっぽくてカッコいいぜ!』

 

 

SPの二人が肩をポンポン、と叩いて慰めてくれる。

すまん、頼りにならなそうとか言ってしまって。君らめちゃ良い奴らだな・・・

あ、彼らが言ってるように今日はロックマンの格好ではありません。

 

赤いヘルメットにサングラス、そして背中には輝く盾。

あの妹、本当に用意してやがりました。ロックマンのお兄さん、ブルースのコスプレです。外国だとプロトマンって名前なんですね。初めて知りました。

 

ブルースバスターは常に銃口状態なので今現在も右腕は変形させていますが、やたらとSPのお二人がこのバスターに触ってきます。

 

 

『昨日の動画は俺も見たが本当に腕が変形するんだな!』

『生でMega Manに会えるとは思ってなかったよ!』

 

 

いや、本物じゃないし今日はブルースね。

因みにもう分かるとおり彼らは昨日の俺の黒歴史(ロックマンコスでのゴブリン退治)を見ていたそうです。

何でもCCNのサイト上でダンジョンについて調べると、最初のページにゴブリン退治の動画へのリンクが貼ってあるそうです。

 

というかCCNの公式アカウントで動画が発表されてました。

全世界レベルで俺の黒歴史が現在進行形でさらされているという事ですね。

死にたい・・・

 

SPの二人はその後も変身には痛みが無いのかや、変身するときの感覚などを質問すると、次は恭二に収納や魔法についての質問をし始めた。

 

もちろん、ダンジョン内を移動しながらなので所々で戦闘を挟んでいるのだが1階、2階の敵は誰か1人が警戒していれば正直余裕で倒せる程度の雑魚しか居ない。

ゴブリンを見て戻る頃にはSPの二人もライトボールを使えるようになっていた。

 

恭二はそれを見て、恐らくダンジョン内には魔力的な何かが漂っており、それを体に取り入れて人間は魔法を使っているのだと推測を立てていた。

 

 

 

 

 

 

『ミスタ・キョウジとミスタ・イチローのお陰で我々はあの浸食の口(ゲート)について一つの結論を得ることが出来ました。あの浸食の口(ゲート)は間違いなくこの世界ではなくどこか別の。そう、異世界と言うべき場所に繋がっていると』

 

 

SPの二人組から報告を受けた大使は数分ほど考え込んだ後、そう発言した。

そして恭二からドロップ品を受け取ると、お礼を言って急ぎ足で帰っていった。シャーロットさんが言うには恐らく米国首脳部に急いで連絡を取るのだろう、との事だ。

 

そして今回の仕事の報酬として、米国政府から多額の礼金を貰うことができ、山岸さんの家も一息つく事が出来たらしい。

俺の方にも幾らかの報酬が出ていたそうだが、母さんが通帳を持ってきて青い顔で「あんた、何したの・・・?」と尋ねてきたので詳しい額は怖くて聞いていない。

 

まあ、そういった終わった事はどうでもいいのだ。

俺は今、非常に困った状況に陥っていた。

 

 

「あ、ロックマンだ!」

「あの、サインお願いします!」

「バスター見せてくれよ!」

 

 

町を歩くだけで渋滞が出来た経験はありますか? 俺は今経験しています。

何でもCCNのダンジョン動画、既に十数億回再生されているらしく。リアルロックマンとして、俺は一躍時の人、らしい。

通学もまともにできません。

・・・どうしてこうなった!?

 

 




シャーロット・オガワ:CNNの記者。赤毛の美人で割りと気合入った記者さん。日本語も英語もペラペラの才女。

ジャン・ブルック:オリキャラ。CNNのスタッフで金髪の30台男性。画像編集や予備のカメラマンを担当。再登場するかはわからない

鈴木一花:オリ主妹。純度高めのオタク。乙女の擬態が上手い。おかっぱ頭がチャームポイント

ライト博士:家庭用ロボットを戦闘用に改造して悪の科学者と戦わせている正義の科学者。登場予定はなし

ロックマン:言わずと知れた名作アクションゲーム。海外だとMEGA MANという名前で発売。因みに本家ロックマンは両手を銃口に変形可能です。

アルター能力者:スクライドは良いぞ!

アメリカ大使:女性のエリート官僚。この後子供に一郎との握手の写真を見せて心底羨ましがられる。

SP二人:名前はボブとディック。再登場予定なし。

ブルース:ロックマンのお兄ちゃん。海外だとプロトマンと呼ばれている、口笛を吹きながら出てくるが一郎は口笛が上手くないため動画の方だと編集で何とかした。

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