時間が無かったので見返しも出来てませんが、書きたい事は突っ込めた気がします。
誤字修正。kubiwatuki様、244様、アンヘル☆様、見習い様、kuzuchi様ありがとうございます!
第五十八話 何より特別な誕生会
『もてなしたいので一晩滞在して欲しい』
ダニエル老の言葉に従って俺達はブラス家の心づくしを受けることになった。
夕食の席ではダニエル老の夫人にジュニア氏の夫人・・・つまりケイティのお母さん、そしてケイティの兄であるジョシュアさんと、妹のジェニファーさんを紹介された。
ジョシュアさんは妹の病状が変わったと聞かされ、在学しているオースティンから文字通り飛んで来たそうだ。良い方に変わったと聞かされ、怒ればいいのか笑えばいいのかという複雑な表情を浮かべながらわんわん泣いていた。恐らくいいやつなんだろうな。
そしてもう1人。やたらと恭二に鋭い視線を向けるかと思えば俺を見てキョロキョロと視線を泳がせる、見た目はそのまま大きくなったケイティのジェニファーさん。愉快な家族だ。
『明日は是非我々の保有するウルフクリークのダンジョンに来ていただけないでしょうか』
『私達は構いませんが・・・ええと、一郎と一花は確か明後日ニューヨークに行かないといけないんだよな?』
『そっすね。明日には準備があるんで自分らは申し訳ないんですが』
『そんな!』
何故かジェニファーさんから驚きの声が来たんだが。
とはいえこれはもう大分前から誘われていた件なので今更変更もできないし心情的にしたくないんだ。
今回丁度良い機会なのでとある人物に会いに行く事になっていて、ついでにその人物の誕生日が丁度28日だったので、こちらとの窓口になっている人と共謀してサプライズパーティを企画しており、そこに参加する事になっている。
言い出しっぺの俺が参加しないのは流石に不義理にすぎるだろう。
『なるほど。義理堅いのですな。ビジネスマンとしては有り難い商売相手です』
『商売相手というか、こちらが一方的に利用させてもらってるのでせめてものお礼をと思って』
『・・・・・・12月28日?もしかして』
ダニエル老に褒められた気がするがこちらとしては寧ろ恩返しの意味合いが強い。
何せ彼の生み出したキャラクターを無断で利用させてもらってるからな。後にOKは貰えたけどやっぱり何かしらでお返しはしておきたいのだ。
俺が詳しい経緯とどのような計画かを説明すると、ブラス家の面々は目を輝かせて面白いと言ってくれた。
『彼』の個人的なファンでもあるというジェニファーさん・・・ジェニファーも参加を熱望した為、ブラス家の面々も予定を変更してニューヨークへと向かう事になり、ヤマギシチームも全員が『企て』に協力してくれる事になった。
「というか、そんな面白そうな事はむしろ呼べよ」
「いや、お前そういう華やかなの嫌いだろ」
脇を小突いてくる恭二に反論するも「それはそれ」と返される。こいつ次の動画には無理やり出演させたる。
「じゃぁ話も決まったことだし連絡いれるよ!マーブルの担当さんに!」
ニューヨークの街並みはこの日、不思議なざわめきに包まれていた。
ニューヨーク市長からの突然の放送。
本日昼の12時から30分。ニューヨークの中央部で「何に遭遇しても」けして慌てず、車の運転を誤るような事はしないように。
その言葉だけが延々と朝から、ラジオやテレビのニュースで流れ続けている。
何かがある。その漠然と下した期待が街を覆っていた。
所々にスタンバイしているテレビの中継車もその期待に拍車をかける。
時刻はもうすぐ12時だ。
突然、全ての信号が点滅して赤に変わった。昼間の車道は混み合っていたが、誰もクラクションを鳴らすこともなく外に出る。
何かがどこかで始まっている。
ふと、空を見上げた男性が居た。ただ、何気なく上を向いただけの彼は次の瞬間に大きな声を上げた。
釣られて上を見た隣の女性も、その声に気付いた車から降りた男性も。
次々と皆空を見上げてこう叫ぶ。
【スパイダーマン!】
と。
ビルの間と間を右手から糸を飛ばして飛び行く彼の姿は皆が思い浮かべるタイツスーツではなく蜘蛛の糸を模した赤いラインの入ったタキシードだったが、その赤いマスクと蜘蛛の糸を使った移動方法を見誤るニューヨークの人間は居ない。
『だ、だが何故右手だけでウェブを?』
『マジックスパイディだ!だから右手だけなんだよ!彼は魔法の右腕を持っていて、そこからウェブシューターを扱うんだ!』
上を眺めていた男性に近くに佇んでいた少年がそう説明した。彼は興奮気味に大きな声で自身の持つ知識をひけらかし、それを聞いた周囲がなるほどと頷いて空を見上げる。
ドンドン遠ざかっていくスパイディはなるほど、通常のスパイディよりも大分アクロバットな飛び方をしている。
彼が通り過ぎた通りは再び信号が青になったが、余韻に浸る彼らは暫くその事実に気付くことはなかった。
『なぁ、ジェームズ。私はいつまでその、スペシャルゲストとやらを待てば良いんだ?』
『申し訳ないミスター。予想よりも時間がかかっているようでして』
『そう言ってすでに30分も経っているんだぞ!来賓の皆さんはすでに一杯目を飲み終えてしまっているじゃないか!』
パーティの主賓であるスタン・M・リードはイライラとした様子でパーティの幹事を演じているジェームズを問い詰める。
今回のパーティには自身の大ファンだという大富豪ブラス家の令嬢が飛び込みで参加してきたり、ニューヨーク市長がお祝いの言葉を送ってきたりと嬉しいサプライズが多かった為に、余計に遅刻しているスペシャルゲストとやらが気になった。
ジェームズの方は必死にスタンを宥めながら、冷静にスタッフの様子を見やる。
適度な苛立ちは最高のスパイスだ。頃合いだろうか。
スタッフの一人がマイクに向かって何事かを話しながらこちらに合図を送ってきた。よし。と頷いて、ジェームズは大きく手を振り上げる。
その動作に来賓客が席から立ち上がる。
そして吹き抜けになっている会場の二階にある窓をスタッフが開けると、そこから文字通り人が飛び出してきた。
彼はシャンデリアに糸を絡めながら会場内を飛び、目標の人物の前に両手を突いて着地すると崩れた胸元を直してスタンの前に立った。
『少し遅れましたね、申し訳ありません』
『あ、いや。き、気にしないでくれ』
呆然とするスタンに蜘蛛柄のタキシードを着けた人物。一郎が扮するスパイダーマンがそう謝罪すると、まだ動揺が鎮まらないのか震える声でスタンが答える。
ジェームズが再び手を振り上げる。
二階のギャラリーに続く扉が開き、
『シルバーサーファー、ソー、サイクロプス、ははっ!ハルクも!?』
ギャラリーには彼が手掛けた作品のヒーロー達が並んで立っていた。
『さ、スタンさん。どうかご清聴を』
いつの間にか用意された椅子にスタンを座らせて、一郎が指揮棒を手に取る。
スピーカーから流れる音楽に合わせて彼が指揮棒を振ると、歌が始まった。
【ハッピバースデートゥユー】
スタンの頬を涙が伝った。
スタン・M・リード:本物と名前は若干変わってますがこの世界ののスパイダーマンの原作者。マーブルも同じ理由です。ほとんど変化はないけど。つい数カ月前に無くなってしまったので、申し訳ない。追悼の意味も込めて今回の作品は上げました。