奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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年度末お疲れさまでした(死)

誤字修正、244様ありがとうございます!


第三百十三話 命が軽い

 ダンジョンに潜り始めて随分と経っているが、改めて思う。

 

 この場所は、命が軽い。

 

「最初のモンスターがなにか武器があれば素人でも問題なく対処できるオオコウモリで、次に来るのが武装した大人なら蹴散らせるゴブリン。そしてそこから急に魔法を使うゴブリンシャーマンが出てきて、そして武装した大人でも初見では対処が難しいオーガ、職業軍人でも接近戦では危ないオークと続く。これ、潜ってくる人間を教育するためのラインナップだもんね」

 

 一花の言葉を聞いていた面々がそれぞれの仕草で頷きを返す。ダンジョンに潜ったことがあり、かつ10層まで経験した人間なら誰もが思っていたことだ。

 

 オオコウモリで武装して戦うという経験を積み、ゴブリンで人型の相手と戦う忌避感を取り除き、シャーマンで魔法という概念を知り、オーガで武器戦闘のやり取りを学びここまでの経験を元にオークと戦う。この流れは少なくとも現状調査が入っているどのダンジョンでも一致している。

 

 だから冒険者の初等教育では最初の1~5層を何度もアタックさせるし、臨時冒険者としてダンジョンに潜るお姉さま方にも5層のボス部屋前までしか開放していない。アンチマジックとバリアさえちゃんと準備していれば、オークまでの戦闘ではほぼ危険がないからだ。

 

 このダンジョンを生み出した存在は、ダンジョンに潜る人間の成長を考慮してダンジョンの各階層を創り出している。だからこそ、そこまで理解できたからこそ分かったこともある。

 

 この中では存外に人の命は軽いモノで、このダンジョンはその命の軽さを前提に作られている。

 

 例えば大鬼。オークを何とか倒したとしても、すぐにオーク以上に力があり武器の扱いに秀でてさらに俊敏な戦士のモンスター。ダンジョンに潜り始めの冒険者が真っ向から肉弾戦で戦えば、どんな目に合うかは想像に難くない。

 

 例えばゴーレム。人間サイズの相手との戦いに慣れ切った後、11層に意気揚々と挑戦したらアレが出てくる。魔法も効果が薄い、明らかに人間サイズではない巨大なモンスター。あれを相手に刀で戦うなんて普通は無理だ。

 

 例えばバンシー。ゴーレムをなんとか倒し、先に進んだ冒険者を待ち受ける初見殺し。あれも状態異常という恐怖をダンジョンに潜った冒険者に教えるための存在だったのだろう。

 

 そしてそれらの後にも動物型のモンスターが蔓延る20階層、バンシー以上の初見殺しであるバジリスク・重力サソリ、フィールド全体がトラップとさえ言える魔樹の森、誰が敵か味方かもわからない妖精たちの森と続いていく。

 

 ここから導き出される答えは、まぁ簡単な話だ。

 

「ダンジョンを創り出した存在は俺たちを育てようとしている。多大な犠牲の果てに」

 

 恭二の言葉に、沙織ちゃんがブルリと体を震わせた。ここに来るまでの冒険者としての活動で、俺たちはいつ死んでいてもおかしくなかった。そしてそれをダンジョンの創造者は想定通りの事だった。ダンジョンに潜る以上は命を懸ける覚悟はしていたし、薄々はそうじゃないかと感じていたが。改めて言葉にして耳にすると、やっぱり少しショックを受ける。

 

 俺が身じろぎしたのを察したのか、膝枕をしてくれているアガーテさんが俺の頭をなでなでと撫でまわす。止めてくれ、それは俺に効く……と主張しようと視線を上に向けるも、ご本人曰く『脱いだら凄い』らしい二つの山に視界が阻まれた。

 

 パクパクと口を閉じたり開いたりした後、気恥ずかしくなって視線を会話するケイティたちに向けなおす。

 

「ヤマギシチーム以外が新層に挑めない理由はそこにあります。仮に米国の最精鋭チーム、それこそヤマギシに所属していてもおかしくない練度とレベルの冒険者を集めたとしても、初見でバンシーやバジリスク、グラヴィティスコーピオンと遭遇した場合全滅していたでしょう。勿論その中に私やウィルが居たとしても結果は同じでしょうね」

「食らって即対抗呪文を開発する(ラーニング)恭二兄と気合で耐えきったお兄ちゃんがいるけど」

「その二人が加わってくれたら結果は逆転しますね」

 

 ケイティと一花は一時期のギスギスした関係からは想像できないくらい饒舌に会話を交わしている、元々趣味は似通っているし気質も近いから、相性はよかったのだ。

 

 これで二人の間に入って場を取り持つなんて柄じゃない事を考えることはなくなった。真面目な話の間にクソみたいな個人の感想を考えていると、男性の声が上から降りてくる。

 

「軽く見てきましたが次の階層に続いているのは間違いありませんでした」

「お疲れさまでした。ドクトルヤマザキ」

「階段は上層と同じく安全地帯のようでした。ちらっと39層を覗いてきましたが、見渡す限りはこれまでと同じ森林のようでしたよ」

 

 そう言って帽子の鍔に手をかけ、ヤマザキさんはクイッと帽子を傾ける。丸焼けになった(・・・・・・・)大樹の洞、そこにあるゲートを背景に気取った仕草を見せる彼の姿は、欧州紳士風の衣装とも相まって中々にキマッている。

 

 この姿だけを切り取ったら非常にかっこいい大人の男性なんだがな。ほとんど無意識なのか胸ポケットに着けられた音楽機器の再生ボタンに手を触れてはハッと気付いたように手を離している姿がセットになるせいで、仕事はできるけど変な人という印象を拭い去ることができない。

 

「ところでイッチ。お加減はいかがですかな?」

「……天国かもしれません」

「その場所ならさもありなん、というべきでしょうか」

 

 俺のしゃべり声に合わせてか、頭上の双丘がぶるんと震えるのが目の端に入る。やめてくれ、それは俺に効く(2度目)

 

「まぁ、魔力が抜かれすぎただけなんで。もう少し休めば問題はなくなりますよ」

「それならばよかったのですが。イッチの魔力量で倒れかけるほどに抜かれた。それはそれで、今後の問題になりますな」

「計測器を持ち込まないとはっきりした数量は分かりませんが、一路の魔力量は700万。仮にその半分が抜かれたとしても私の3倍以上の魔力になります」

「魔力を抜かれずに大樹を破壊するのは問題ないでしょうか」

「試す価値はあるでしょうが、横島さんがマンドレイクのツタに囚われて魔力が吸い上げられてからあのゲートは出現しました。それを考えればやはり可能性は低いかと」

 

 地面に腰を下ろしたヤマザキさんと、アガーテさんが会話を始める。うん、今回のゲート出現に関しても含めて、やっぱりこのダンジョンは命が軽い。犠牲を前提に作られてるとしか思えないのだ。

 

 なにせ今回のゲート出現は、恐らく通常の手順だと強力な冒険者が複数(・・・・・・・・・)犠牲になって初めて進むことのできるものとしか思えないからだ。

 

 マンドレイクのツタは、捉えた獲物の魔力を吸い上げる能力を持っていた。まぁこの辺は事前に予想していたのでそこはきっちりと人身御供(横島忠夫)を用意しておいたのだが、問題はその吸い上げる量と吸い上げた結果だった。

 

 普通の人間なら数秒で魔力どころか何もかも吸い上げられるかねない吸引力。傍から見ていれば男が緑色のツタに這い回られる悍ましい光景だったが、実際に吸われる側としては命にすら係わるより恐ろしい攻撃だった。

 

 あ、これは不味いと俺と横島の認識が一致した瞬間、横島はツタを『燃』やして難を逃れ、その炎はマンドレイクにも伝わり、そして数秒ほど後にすぐ傍にあった大樹にまで燃え広がった。

 

 大樹にまで火の粉が飛んだ、とかではない。木の根から煙が噴き出したと思ったら、瞬く間に大樹の全身が燃えていったのだ。

 

 森林火災になっては不味い、と恭二たちがすぐさまウォーターボールを連射して消火に当たったが、火が消し止められた時にはすでにほぼ全体が焼け落ちていて、そして木の洞があった辺りにはダンジョン入り口と似通った姿のゲートが出現。マンドレイクが居たところにはドロップ品のニンジンのような野菜?もあり、どうやらマンドレイクを倒すことにも成功したらしい。

 

 この結果を受けて俺たちは一度考えを整理しようとその場で話し合いを始めた。というか、それは今も続いている。

 

 単純にこの大樹がボスモンスターだったという事も考えられるが、大樹の方を注意深く観察していたアガーテさん曰く横島が吸収されているときには木の洞の中にゲートめいた存在が見えていたそうなので大樹を焼いて解決する、という単純な話でもなさそうだった。

 

 この検証を行うためにも今日は一度戻って休養を取り、明日もう一度ダンジョンアタックを行い。今度はそのまま大樹を燃やす方法を試してみることになる。

 

「まぁ、でも」

 

 多分、何か吸わせないといけないんだろうな。このダンジョンのこれまでの仕組みを考えると。

 

 ぼやくようにそう呟いて体を起こそうとし。頭上を蓋するように存在する双丘にはじき返されて再度頭を太ももの上に戻す。

 

 ――ちゃうねん、忘れてただけやねん(震え声)

 

 だからそんな呆れた目でこちらを見ないでヤマザキさん。あ、アガーテさんズボンに手を伸ばすのは、ちょ、らめー

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