奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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本編執筆がちょっと止まってるので番外編になります。

誤字修正、見習い様、244様、晴読雨読様ありがとうございます!


番外編 鈴木一郎さんの頭の中

「これより裁判を始める」

 

 カーン、と音を立ててガベルが打ち鳴らされる。打ち鳴らした人物は額の部分に妬と書かれた黒覆面を身に着け、抑揚のない声で言葉をつづけた。

 

「被告、鈴木一郎はつい先ほど。28歳合法ロリ魔法少女コスの美女に膝枕をされ、更に下乳に頭をぶつけてバルンバルンを間近で見るという羨まけしからんラッキースケベを起こした。大変非常に結構なご飯が三杯はいけそうな光景であったがそれはそれとして同被告内部の哀れな子羊達を嫉妬の炎で火傷させ大変な責め苦を味合わせた。故に極刑。氏ね」

『こいつぁ許せねぇなぁ!』

「吊るそうぜ裁判長!」

 

 裁判長役であろう男、横島忠夫の言葉に同じように黒覆面を身に着けた男たちの言葉が続く。彼らの視線の先で、被告席に座らされた一郎がげんなりとした様子で口を開く。

 

「横島は馬鹿だから仕方ないとして隼人と新一はどうした?」

『ノリだよノリ』

 

 カラカラと笑って答えるARMS『騎士ナイト』の持ち主、新宮隼人との言葉にそういえばこいつも結構な馬鹿だったなと思い返して一郎は脱兎のごとく踵を返した。馬鹿には勝てん。付き合いは浅いがこの空間に馴染んできた経験から、一郎はそれを知っていた。

 

「すまんイチロー」

 

 その右足に泉新一の右手に寄生した寄生獣ミギーが巻き付けられ、飛ぼうとした瞬間にそれを妨害された一郎が「へぶっ!」と悲鳴を上げて顔面から地面?に叩きつけられた。

 

 顔面からもろに落ちた一郎の姿に、バツが悪そうな表情を新一が浮かべる。横島や隼人と同じく高校生の人格を持つ新一だが彼自身はそこそこ常識的な人物だ。暇つぶしに行った麻雀の負債がなければ、横島を手伝うことはなかっただろう。

 

「うおおおおおおお……っ」

「死に晒せ! 天誅じゃあ!」

 

 顔面を抑え、痛みにのたうち回る一郎に向かって横島が自身の霊能力で作り上げたハンズオブグローリー(栄光の手)を剣の形状に変えて振りかぶる。殺ったッ!奥多摩個人迷宮+完!

 

 

 

「へぇ。で、一郎をボコボコにして行動不能にした隙に自分が表に出て女性に声をかける、と。あんたら馬鹿じゃないの?」

「おっしゃる通り」

『だってここ暇なんだよ』

 

 物理的に地面?に頭をめり込ませた横島忠夫の頭をグリグリと踏みしめながら、御坂美琴は正座させた男ども二人を冷たい視線で見下ろしてため息をついた。

 

 ここ、鈴木一郎の頭の中(魔力の根幹)には彼が変身魔法を用いる際に元となるキャラクターが無数に存在している。彼らは元になった作品のキャラクターではなくあくまでも鈴木一郎が思い描くキャラクター達であり、根っこの部分では誰も彼もが鈴木一郎の一部なのだが、魔力を用いて各々の人格の積み重ねが行われていった結果それぞれが個性と呼べるものを有している。

 

 こいつらのような個性を持った連中が、数百名単位で存在しているのだ。そして一部を除き誰も彼もが暇を持て余している。

 

 そら騒動も起きるだろ、というもんだろう。

 

「暇だから、で毎回騒動起こされてたら堪ったもんじゃないんだけど」

『その都度美琴も暴れられるからいい暇つぶしだギャンッ!』

 

 分かってんだよ、へっへっへっとでも言いたげな隼人の言葉に美琴の掌から電撃が走る。隼人の言葉の通りこの空間は基本暇だ。騒動が起きるたびに美琴は鎮圧側に居るが、それがちょうどいい暇つぶしになっている事は間違いない。美琴自身は絶対に認めないだろうが。

 

 もちろんバカ騒ぎだけが彼らにとっての暇つぶしではない。騒動を起こしている騒がしい連中を尻目に趣味に全力で邁進するものもいる。

 

『日曜大工ってやつかな。面白いね、何かを作るのも』

『日曜って単語がいらない出来だと思うけどなぁ。俺としては』

 

 流石に殺風景すぎると言い出し建物を作り始めたスマートハルクとエドワード・エルリック(豆粒ドちびニーサン)を筆頭に、白い風景しかないこの空間に風景を作り始めた者たちも居れば

 

「うまっ! やっぱラーメンはトンコツだよなぁ!」

『わかってませんね。塩こそが全てのラーメンの元。基礎となる味付けですよ』

 

 エドたちが作った家具に身を預け、並んでラーメンをすする反逆者(トリーズナー)カズマと弥勒。彼らのように一郎が食べた記憶のある食物を食べて食道楽を趣味とする者もいる。

 

 彼ら以外にも原典では戦うことのない相手との手合わせを楽しむバトルジャンキーや、有り余る時間をつかって一郎が記憶していく数多の映像・書籍作品を楽しむもの。元になったキャラクターに倣ってなにがしかの研究を行う者。この空間に存在する彼らはそれぞれなりの時間の使い方でこの空間を楽しんでいる。

 

 もちろん、自分の事以外に時間を使うものだっている、

 

「チミチャンガでも食べない? 勧められて食べたんだけど、ちょっとハマっちゃってさ」

「軽食を取るのも良いな。やるべきことを済ませたら付き合うよ」

「OK、ならぱっぱと確認しちゃおうか」

 

 ピーター・パーカーの軽い口調の誘いに、結城丈二もまた軽口で返す。誘いをうまく躱された形になったピーターは首をすくめて遺憾の意を示し、ギシッとエドが作った背もたれ付きの椅子に身を預けた。

 

 彼ら二人の視線の先には大型のスクリーンのようなものが設置されている。映し出されている映像は現在、自室で就寝中の一郎の右手が触れたケーブルから美琴の能力を使って情報を集めているものだ。

 

「規制はされていても意外と漏れてくるものだね」

「美琴様様だな――中華の三つ巴は政府側が不利、か。あの国の国体を考えると確かにこれは外部に漏らせないな」

 

 彼らの大本である鈴木一郎の脇の甘さを補うため、彼らは明らかに脅威となりえる存在に目を光らせている。ハニートラップを仕掛けてきたり、非正規部隊を奥多摩に送り込もうとしていた中華も彼らにとっては監視対象で、それゆえにこういった非合法な手段を使って情報収集も行っている。

 

 その集めた情報のうちの一部、中華政府中枢のサーバーから抜き出した1人が乗れるくらいの雲に乗った道袍を纏った若者たちが数倍から数十倍の正規軍を蹴散らしている映像を眺めながら、結城丈二は膝を組み、ピーター・パーカーは顎に手を当てて思案にふける。脅威となりうる存在への対処法を、その優れた頭脳を持って考え続ける。

 

 それが思考し、自我のようなものが芽生えた自分たちが果たすべき役割だと信じて。より良い選択を選ぶために、彼らは今日も鈴木一郎の頭の中(魔力の根幹)での日々を過ごしていた。




登場人物

全部:鈴木一郎
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