奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百十四話 やめろイチロー! ぶっ飛ばすぞぉ!!

 やめろイチロー! ぶっ飛ばすぞぉ!!

 

 ショ〇カーに改造される初代様のようなセリフを吐いてマンドレイクさんの緑色の触手(枝)に飲まれていく横島を見送りながら、用意した最新式の魔力測定器に左手を置く。右手だと測定器が過剰反応してしまうから基本魔力測定の際は左手だ。

 

 この測定器もどういう仕組みなのかは知らんが、結構細かい単位まで測れるんだよな。持ち運びできるサイズにまで改良されてるし、やっぱりアメリカの変人はなかなか優秀な変人なんだろう。

 

 この測定器、基本単位はBと呼ばれていて、オオコウモリの魔石一個分が1Bとして扱われている。俺の今の魔力量が800万と少しだから、おおよそオオコウモリ800万匹を討伐したら俺と同じ魔力量の魔石が手に入る計算だ。

 

 ちなみに冒険者協会の調べでは日本国内で毎日討伐されるオオコウモリは14000匹らしい。臨時冒険者のお姉さま方が魔力を吸った後の魔石の数が大体それくらいなんだそうな。

 

「まぁ全部が全部回収できているわけではないだろうね。魔力を吸い終わった魔石も色々用途があるから、出来ればすべて回収したいところだが」

「魔石の粉ぁ混ぜた金属は魔力を通しやすくなる。言われるまで気付かしまへんどした」

 

 ヤマギシはんが買い取ってるのはそういう理由なんどすなぁ、と静流さんに視線で責められたような気がしたので目をそらして口笛を吹く。そういう商売事は真一さんに聞いてほしい。もしくは創業者一族の次男坊に。

 

 横島の野太い悲鳴を聞きながら会話を交わしていると、右腕から力が抜けていく感覚が全身に伝わってくる。おお、初回よりは大分楽だが結構なダルさだ。ある程度その感覚を放置していると、ゲートが出現する大樹がスクスクと大きく育っていくのが見える。その中心にある木の洞も大樹の成長に合わせて大きくなり、少しすると黒いゲートが出現する。

 

「測定量は……600万まで減少していますな。イッチ、体調に問題は?」

「怠さがありますが問題ありません。初回よりは大分楽ですね」

「魔法の使い過ぎで疲れる、という事例もあります。200万Bも魔力が抜かれているのですから、体調には十分注意を払わなければいけませんよ」

 

 医療についての知識もあるというので補助についてもらったヤマザキさんの言葉にそう返事を返すと、ヤマザキさんは真剣な表情を浮かべて首を横に振り、そして胸元にあるスイッチに手を伸ばした。

 

 ヤーマザキいー

 

「……失礼しました」

「あ、はい」

 

 慌てたようにスピーカーのスイッチを切るヤマザキさんに努めてそう返答する。もしかしてこれは禁断症状とかその類なのかもしれん。

 

 雑談を交わしているうちに魔力を吸われた横島が解放されたのか、右腕から力が抜けていく感覚がなくなりドシャっと何か重いものが地面に落ちた音がする。視線を向けると白目を向いた横島がピクピクと痙攣して地面に横たわっている姿が目に映る。

 

 横島は美琴を怒らせたから二日連続で盾役をやらされているのだが、さすがに哀れだな。

 

 憐憫の情を覚えて左手で十字を切ると、横島は右手だけを持ち上げて中指を天に突き立てた。意外と元気だ。

 

 さて、横島をぐちゃぐちゃにして吸い切ったマンドレイクさんはというと、吸収した相手の横島に止めを――刺そうとはせずこちらに向かって全身を筋肉全開マッシブな感じに漲らせたポージングを決めている最中だった。吸収する前の細マッチョ状態からフルマッチョ状態に移行した彼はキレている。最高にキレている姿を俺たちの前に晒している。

 

 あれ、これもしかして戦わなくても進めるのでは。

 

 ひとりボディビル選手権会場を眺めながらそう考えていると、俺と同じ思考に至ったのか恭二がテクテクと歩いてゲートに向かっていく。マンドレイクさんはダブルバイセップス・フロントをしている。

 

 あと数歩でゲートにたどり着く場所まで来て、恭二がそっとマンドレイクさんを振り返るとそこにはサイドチェストに移行したマンドレイクさんの姿があった。恭二とマンドレイクのやり取りにゲラゲラと笑い声をあげていると、音を立てるような勢いで木の洞がその口を閉じていく。

 

 目当ての店に入ろうとしたら目の前でいきなりシャッターが閉められたかのような表情を浮かべた恭二に、満面の笑みを浮かべてマンドレイクさんはモスト・マスキュラーに移行した。力を見せつけるかのようなポージングだ。キレてる、キレてるぅ!

 

「一郎、やかましい」

「いや笑うだろ。ギャグかよ」

 

 恭二は両手からカイザーフェニックスを出して、大樹とマンドレイクさん両方に火の鳥を飛ばす。マンドレイクさんは自信満々な表情を浮かべたままダブルバイセップス・バックでカイザーフェニックスを迎え撃ち、大樹と共に満面の笑顔のまま炎の中に消えていった。

 

「いや受け止めきれへんのかい」

「普通に燃えて消えたね!」

 

 呆然とした香苗さんの言葉に、俺と一緒にげらげらと笑っていた一花が答える。多分このダンジョンに入って一番笑ったんじゃなかろうか。まさか38層でこんな面白い敵と出会えるとは思わなかった。

 

 まぁ、ああなるまでの過程はどう考えても過去一で凶悪なんだが。

 

「200万かぁ。今のケイティくらい?」

「魔力量が200万超えてるのなんてヤマギシチームとブラス嬢しか居ないな。ドイツで最も魔力量の多い妹でもようやく100万を突破したくらいだ」

「イチローは初回よりも楽と言ってました。つまり、初回はさらに多く吸われる可能性がありますね」

 

 20秒ほどですべてが燃え尽きたのか、残ったのは大樹の残骸とゲート、それにマンドレイクさんが股間につけていた葉っぱだけになった。いや前回のニンジンはどうした。なんだこのドロップ品は。

 

 至極いやそうな表情でそれを恭二が収納にいれるのを確認し、全員が地面に座り込む。魔力を抜かれたのもそうだが、笑いすぎて疲れたのもあるだろう。なんだよあのボディビルダー。

 

「まぁ、近接戦だと手こずりそうとは感じたけどね」

「普通に炎が弱点なんだろうな、あれ」

 

 一回あの状態のマンドレイクさんとも近接戦をやった方がいいかもな、と会話を交わし、全力で嫌がる横島を宥めすかしながら小休止を取る。今回の結果を踏まえながらそれぞれの考察を語り始める学者組やケイティたちの言葉に耳を傾けながら恭二に視線を向ける。

 

 恭二は時折話を振られた時に相槌を打ちながら。沙織ちゃんに甲斐甲斐しく世話を焼かれながら。ケイティに抱き着かれてそれに反応した沙織ちゃんに反対側から抱き着かれながらも、その視線はずっと消えることなく空に浮かぶゲートに向けられていた。

 

 羨ましいとか妬ましいとか感じる光景のはず何だが、そこまで行くとすげぇとしか思えない。まぁ、気持ちは少し分かるかもしれない。

 

 行くか、39層。

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