奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百十五話 36層伐採基地

 奥多摩ダンジョンの36層にはヤマギシの伐採基地がある。森を切り開いた場所に恭二が持ち込んだコンテナハウスに材木置き場を併設させた簡易な建物だが、毎日20名前後のヤマギシ社員が詰めている。

 

「まぁ、伐採と聞いて丸太小屋を期待している人たちには悪いけどね!」

「丸太小屋を期待してる人たちってのはどこにいるんだ???」

 

 引き締まった臀部! 徐々に汗ばむ上半身! と材木置き場前でバカ騒ぎする妹を尻目に建物の中に入る。時たま訳のわからないネタを持ち出してくるが、妹の奇行を見て向ぬふりするくらいの優しさは俺にだってある。

 

 建物内部では数名の男女が持ち込まれたノートPCに向かってカタカタと指を動かしたり、ちょうど休憩中だったのかカップ麺を啜っているのが目に入る。ドアを開けた俺たちに全員の視線が集まり、次の瞬間にはガタリと音を立てて室内にいた人々が立ち上がり、声を上げた。

 

「部長、お疲れ様です!」

「お疲れ様です!」

 

 声の先にいた恭二がバツが悪そうにしながら、手近に居た女性社員に声をかける。

 

「あー、お疲れ様です。すみません、今日の警備当番は誰ですか?」

「はい! ええと、今日は御神苗主任のチームですね」

「御神苗さんがいるのか。なら大丈夫かな」

 

 カップ麺を食べていた男性社員がハキハキとした様子で恭二にそう答える。

 

 魔樹の伐採作業は16時間交代制になっており、休憩と仮眠を交互に取り合う形になっている。そのため、現場には常に御神苗さんやマニーさん達ヤマギシBチームのようなレベル36以上の一線級の冒険者が1パーティ詰めている。彼らは現場の作業をほかのヤマギシ社員に任せて、紛れ込んでくる魔樹が出てくるたびに焼き払う仕事に従事しているのだ。

 

 

 

「あれ、部長にイチローくん? 38層の攻略はもう終わったんですか」

 

 それから凡そ20分ほどで基地に戻ってきた御神苗さんは、俺たちの顔を見て開口一番にそう尋ねてきた。まぁ朝方38層に出発してからまだ2時間も経ってないからな。これまで38層へのチャレンジでは毎回半日以上かけてたし、首を傾げられても当然だろう。

 

 彼の後ろで2名の彼のパーティメンバーが、恭二の顔を見た瞬間に気を付けの体勢をとった。お偉いさんがいきなり現場に来たような感覚だろうか。

 

「ええ、38層の攻略というか、目途は立ちました。後は何回か条件を変えて、情報を集めようと思います」

「なるほど……ようやく新層への道が開かれたんですね。部長、おめでとうございます!」

 

 御神苗さんの言葉に、彼の後ろにいた社員と室内にいた社員が口々に『おめでとうございます!』と声を上げる。その声に恭二は顔をひきつらせながら笑顔で礼を言った。

 

 うん。相変わらず、なんというか。

 

 変人ぞろいのうちの会社(ヤマギシ)でもぶっちぎりで真面目な人だけどさ。東大卒で在学中に日本冒険者協会初の教官免許授与者になって、ヤマギシ入社後は若い会社とはいえ入社一年目でコネとかなんもないのに主任としてパーティーを率いている凄く優秀な人だけどさ。率いている人からも、それどころか冒険者部門の人間ほぼ全部に恭二の代わりに冒険者部統率してるの彼だよね、とか言われるくらい慕われてる人だけどさ。

 

 にじみ出る陽キャオーラが眩しいんだよなぁ! こう、なんというか。ハリウッドスターみたいな視線を惹きつけるみたいな感覚じゃなくて、この人になら安心してついていける、みたいな感覚があるんだ。この人は。殿上人なハリウッドスターと違って一般人にも理解しやすい魅力がある人だから、余計に眩しく感じるんだよね。

 

 うお、眩しっと思いながら恭二と御神苗さんの会話を聞き流していると、御神苗さんは部下の一人に声をかけて申し送りを始めた。どうやら話がついたらしい。

 

「じゃあゲストの方々はただお待たせするのもなんですし、木こりの方を体験してもらう形で」

「それでお願いします。香苗さんはもう少し鍛えればいけるかな、と思うけど。流石に今の力量で新層挑戦はね」

「冒険者協会の規約でもそうなってますからね。新層挑戦には同レベルのパーティーで前層まで到達する必要があるって。あ、なら自分が伐採した分の魔樹はお土産に渡したらどうですか?」

「せっかく来てもらったのにヤマギシ(こちら)の都合で待たせてしまいますからね。それが良いかもしれません」

 

 御神苗さんの部下が足早に建物から出ていく。外で待っているアガーテさんたちを木こり現場に案内してくれるのだろう。35層のトレントは致死性の罠がある相手じゃないが擬態を使うモンスターであいつと戦うのは冒険者としても貴重な経験になる。それに落とす素材は現在青天井で値段が吊り上げられている魔樹だ。これなら多少お待たせしても、許してもらえるかもしれない。

 

「よし! じゃあ現場に連絡が行き次第出発しよう」

 

 パン、と拳と掌をぶつけ合わせて、やる気満々といった様子で恭二が立ち上がる。

 

「メンバーはフロントが俺、一郎、御神苗さん。バックに沙織、ケイティ、そして一花。基本方針はまず全員での制圧射撃後、フロントが突撃。バックは突撃したフロントの援護で。オーソドックスな戦法だが相手がどういう特性を持ってるか分からんからな。単純すぎるがうちのいつもの戦法でまずは試して、少しずつ情報を集めながら攻略していこう」

「急にハキハキしゃべりだしたな」

「ダンジョンが呼んでるんだよ。俺を……!」

「はははは」

 

 右手を握りしめ、ぶるぶると震わせる恭二に御神苗さんが渇いた笑い声をあげる。まぁこの人も大学時代からヤマギシ(うち)で、ひいては奥多摩ダンジョンに通ってた人だから、ヤマギシ(うち)の社員の奇行には慣れているだろう。

 

「しかし、ついに新層ですか……」

 

 それに確かにこの人はヤマギシでも有数の真面目で優秀なコミュ力抜群の社員なんだが。

 

「腕がなりますね、ついにこのA・M(アーマードマッスル)スーツの出番が来たか」

「パチモンですけどね」

 

 この人もこの人でよく訓練された変人だからな。いや、まだ海のものとも山のものとも知れない頃の冒険者協会に前のめりで参加した人だからさ。変な所があるのは、まぁ。うん。

 

 メキョリと音を立ててパンプアップされた腕を摩りながら、恍惚とした表情でそう口にする御神苗さんを冷めた目で眺めながらお茶をすする。お、茶柱が立った。




スプリガンのアニメ楽しみですね!
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