説明しよう!
精神感応金属オリハルコンの繊維で造られた人工筋肉を内蔵し、通常の30倍以上の力が出せるスーツ。スイッチである襟元を閉めると人工筋肉がパンプアップし、パワー増幅を開始する。防弾・耐熱の機能も併せ持つ。
つまり現実には存在しない!
「ハアアアアアァァァ!」
『…………ッ!?』
では目の前で繰り広げられている【ガチムチ筋肉バトル! 黒と緑のコントラスト~深い森の衝撃~】は。
ヤマギシ冒険者部が誇る中間管理職、御神苗優治さんの身を包んでいる黒くて何だかパンプアップされたパワードスーツっぽい特注のスーツ。明らかなパワーファイターである38層のボス、ムキムキパンイチマンドレイクさんと互角に殴り合っているようなその姿はなんなのかというと、まぁぶっちゃけ全部魔法の応用である。
「ハァァァ!」
御神苗さんが気合を込めて右腕を引き絞ると、その動作に反応したように右腕がまるでボディビルダーの二の腕のように膨れ上がり、次の瞬間には高速でマンドレイクさんの左頬に突き刺さる。たまらず仰け反ったマンドレイクさんに、今度は同じように膨れ上がった御神苗さんの左腕が突き刺さる。
あの膨れ上がった筋肉のようなものは、魔鉄と魔樹を用いて作られた人工筋肉によるものだ。
流石に原作のオリハルコン繊維みたいな超技術は使えなかったが、俺達には魔法という科学とはまた別アプローチが存在する。御神苗さんが着ている
まぁ筋肉が盛り上がってるのはそこに
とはいえ膨らむ部分は完全にお遊びだが、その他の性能はガチもガチ。現状ヤマギシが開発した付与技術やダンジョン産物資を全力投入して開発したこの
扱う人間によって増強倍率が変わるストレングスだが、御神苗さんの強化倍率は3.5倍。ヤマギシでも両手の指に入る実力者であり素の身体能力で車を持ち上げられる御神苗さんがストレングスを使い、更に重ね掛けまでされているその一撃はダイナマイトの炸裂並みの威力を持っていると言ってもいいだろう。
「!? ぐっ!」
だが、そんな御神苗さんの一発でもマンドレイクさんは『効いたぜ、少しな!』とでも言わんばかりに笑顔を浮かべて右拳を御神苗さんに振るう。多重掛けされたバリアごしにぶん殴られた御神苗さんは驚きの声を上げながら仰け反る様に後ずさり、数歩下がった部分で踏みとどまった。
そして空いたスペースに恭二のカイザーフェニックスが飛び込み、マンドレイクさんは業火に包まれる。
ハッ? と言わんばかりに呆けた顔をした御神苗さんの目の前で、人型の火柱となったマンドレイクさんがゆったりとした動きでサイドチェストのポージングを行い、そして崩れ落ちる、
「…………ええぇ………」
気が抜けたような声を発した御神苗さんに、恭二が左手の手首を指でトントントンと叩く。巻いて、じゃねーよ。なんでジェスチャーなんだよ。
「いや、普通に千日手になりそうだったから」
「あー、まぁ」
一秒に一回ゲートの穴に視線を向ける恭二に周囲の視線が優しくなる中、言い訳するように口にした恭二の言葉に一花が納得の声をあげた。
マンドレイクさん相手の時は初手魔法で焼き切るがベター、それが分かったのは大きいだろう。
「いえ、助かりました。あいつ普通にバリア貫通してきたんで。多分続けてたら僕が殴り負けてましたね」
「えぇ…………」
「殴られた拍子に衝撃が届いたんで。これ、この
扱う冒険者の実力にもよるが、そこそこ経験積んだ冒険者のバリアは対物ライフルで狙撃されるくらいの衝撃じゃないと貫通できない、と米軍が試した事があるらしい。そこそこ所のレベルじゃない御神苗さんのバリアはもちろんそれ以上で、そこに更に
「俺の右手はバズーカだぜぇ! とかいうレベルって事?」
「戦車砲かもしれませんねぇ」
ドロップされたニンジン?を拾いながら、御神苗さんが一花の言葉にそう答える。流石にただの殴り合いで出していい火力じゃないだろう。マンドレイクさんこえぇ。
洞窟を抜けると、そこは森でした。
「ついに、39層か……!」
「もはや見慣れた光景だね!」
「魔樹の量産体制が確立されてからほぼ毎日見てる光景ですね」
「あ、(察し)」
感慨深そうに呟いた恭二の言葉に一花と御神苗さんの一言が水を差した。いや、水というよりもジェット水流かな。お手当は凄いんですがね、と呟くように口にした中間管理職の言葉に部門トップの責任者は明後日の方向に視線を逸らす。
「別にブラック勤務ってわけじゃないですよ? 余暇も十分取ってますし。基本給+成果給+各種手当まで貰えて福利厚生までばっちりなんですよ、ヤマギシって」
「あ、はい。親父もその辺はめちゃめちゃ気を使ってて。俺の目が黒いうちはブラック企業なんて呼ばせないって」
「素晴らしい方針だと思います。大学の同期の話とかも聞いてますが、他所はやっぱり超大手って所以外は――」
出鼻を挫かれた感のある恭二が社長の言葉を口にすると、食いつくように御神苗さんが別企業に入った同級生の話を例にして社長を持ち上げる。父親に対する賛美を耳にして少し気恥ずかしそうな恭二が少し新鮮だった。いや、社長は凄い人だと思うぞ。シャーリーさんや真一さんっていう補助輪が居たのもあるだろうが、自分の唯一の商売台無しにされても折れずに息子に全賭けしてヤマギシを立ち上げて、数年でこんな大企業の社長やってるんだから。普通の人はどっかで躓いてる。
顔を若干赤くした恭二を一花と沙織ちゃんとケイティが楽しそうにからかっているのを尻目に、39層へと向き直る。べ、別に女の子に囲まれてちやほやされてるのが羨ましくなんかないんだからね! 誰も警戒をしていないから、仕方なくなんだから!
いや本当に羨ましいとかそういうのではなく、あそこに絡んでったら絶対に碌な目に遭わないってわかってるんだ。だから横島、内部から血の出るような叫びを聴かせてくるのはやめてください。
一人内心で問答しながら、39層へ一歩足を踏み進める。この39層の第一歩目は山岸恭二ではない! この鈴木一郎だァ! という訳ではないが新階層の一歩目を刻むというのは、やっぱりすこし嬉しいような誇らしいような気持ちが湧き上がってくる。もしかしたら昨日ヤマザキさんがやってるかもしれない、という突っ込みは無しである。
軽く周辺を見回るくらいはやってもいいだろう。変身はスパイダーマンにチェンジだ、これなら何か危機が迫っていても回避でき――
そこまで思考を回し、第一歩目を踏み出した瞬間に頭を過る直感。あ、こらヤバいと認識する前に足場が無くなる感覚と浮遊感。ほとんど無意識のうちに発射したスパイダーウェブ。
第一歩目で落とし穴、か。
目の前に迫る木の杭を眺めながら、どこか他人事のように俺はそう独り言ちた。
あ、これ返しまでついてる。殺意ありすぎじゃね?