奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、げんまいちゃーはん様、244様ありがとうございました!


第三百十七話 影

 ダンジョンに入り始めてからこっち、何度か死ぬんじゃないか、と思ったことがある。

 

 オークを初めてみた時は「こいつと殴り合う? 御冗談でしょう?」と思ったしバンシーに状態異常食らった時は比喩抜きで死を覚悟したしドラゴンゾンビを見た時は「oh...」と天を仰ぎそうになった。一歩間違えれば、と感じた場面はそれこそ無数にあったりする。

 

 そして、今はソレだ。

 

 間一髪間に合ったスパイダーウェブを飛来した風魔法が切り裂き、再び自由落下する前に目の前にある木の杭の上に着地。片足で木の棒の上に立つ中国拳法の修行シーンみたいな状況になってしまったが、一先ず命の危機は――去ってないな。一秒後に死ぬ未来から逃れたけど期限が見えないだけでいつ死神の鎌が振り下ろされるかわからない状況になっただけだ。

 

「お兄ちゃん!?」

「来るな!」

 

 頭上から聞こえてくる一花の悲鳴にそう返事を返して、頭上に数射ウェブを発射する。釣られたようにその内の一つを風魔法が切り裂いたのを確認して、地上へと飛び上がる。

 

 風魔法が飛んでくる方面を視認するも、森に阻まれて相手の姿は見えない。一度目と二度目共に魔法が飛んできた方面は同じだったから、よほど手の込んだ釣りでもない限り相手が居るのはこちら側だけになるはず。

 

 あ、というか頭が。情報がガンガン入り込んでくる。ここら辺罠だらけじゃねーか。植物魔法の罠やら落とし穴やらのオンパレードだ。森に入るまでなんも仕掛けられてない地面の方が少ないぞ。地面に向かってウェブを乱射して罠の真上に蜘蛛の巣を張り巡らせる。罠を探知できる俺は兎も角、ほかの面々じゃこの中を突っ切るのは難しいだろう。

 

「フレイムインフェルノ!」

 

 地面に向かって蜘蛛の巣を張り巡らせる俺に向かってまた飛んできた風魔法を、恭二の火柱が迎え撃つ。カイザーフェニックスではなく俺と敵との間を遮るように出現した炎の壁は風魔法を受けた際にひときわ強く燃え上がり、風を飲み込み消えていった。

 

「パーフェクトだキョウジィ!」

「感謝の極み」

 

 恭二が稼いだ数秒で周辺に蜘蛛の巣を張り巡らせた後、張り巡らせた蜘蛛の巣の上を駆けながら敵が居るだろう方面に向かってウェブを乱射。風魔法は実態がないせいか非常に見えにくいが、これならどこから飛んでくるかを確認することが出来る。俺だけじゃなく、背後にいるほかのパーティーメンバーたちも。

 

 相手側もそれが分かっているのか、駆け出した俺に対しての攻撃はなかった。ザザッと揺れる木の枝を見るに、どうやら相手さんは撤退を選んだらしい。判断が早いな、と感心しながら相手の姿を探して森の中へと飛び込む。

 

「……影?」

 

 その姿を見た時、思わず口から出た言葉に反応したのかどうなのか。ヒュンッと風切り音を立てて飛来した風魔法を近場の木に飛び移る事で避け、もう一度相手へと視線を向ける。

 

 真っ黒な人型に服を着せたようなソレは、人間の影が服を着て立体的に動いているとしか表現できない、そんな風な存在だった。緑色を主にした動きやすそうな服装と、黒くて少しわかりにくいが尖った耳を見るにエルフ……だろうか。ダークエルフという奴かな。目も鼻も口も真っ黒で表情がまるで分らんが。

 

 思考しながらウェブを放つも、影に当たる前に空中で減速し、地面に落ちてしまう。37層ボスの大妖精のように強めのアンチマジックを張り巡らせているのだろう。2層先の相手と考えると、ボスだった大妖精よりも強い可能性もある。あのレベルのアンチマジックが張り巡らされているなら、下手に近づいたら変身が解かれる可能性もある。

 

 スパイダーマンだと少し相性が悪いか。幸い森の中は先ほどまでと違って罠は少ないようでスパイダーセンスの反応もそれほどではない。完全に無いという訳ではないが、それはスパイダーマン(こちら)で先ほどのように対処すればいい。であるならば。

 

「変身具現――ARMS(ナイト)

『お、出番か!』

 

 対大妖精用の戦法だが、試してみる価値はあるだろう。

 

 スパイダーマンを維持したまま右腕からARMS(ナイト)を呼び出す。ゴリゴリ削れる魔力に白目を剝きそうになるが最悪恭二が突入してくるまでの十数秒を稼げばいい。魔法主体の恭二だと相性が悪い気がするが、あいつは最悪魔剣で殴る選択肢もある。

 

 ……俺も完全物理の手段、持っとくべきだろうか。持っとくべきなんだろうな。変なもの持ってると変身先によっては邪魔にしかならないんだが。

 

 次回への反省を内心ですませながら、ピョンピョンと樹上を飛び回り影の注意を惹きつけ、少なくなった罠の上ににウェブを張り巡らせる。いきなり相手が増えたからか、影は混乱したかのように俺とARMS(ナイト)に視線を向けている。どちらを攻撃すべきか迷っているように見えるが、こいつもしや結構な知能持ちか?

 

『貰った!』

 

 その逡巡の隙をつくようにARMS(ナイト)が踏み込んだ。瞬く間に影との距離を詰めるARMS(ナイト)の姿に流石に危機感を覚えたのか、影は即座に風魔法を使って迎撃しようとする。がアンチマジックを張り巡らせたミストルテインの槍が風魔法を切り裂き、そのまま影へと襲い掛かる。

 

 一瞬、何かが干渉しあったかのようにミストルテインの槍と影の間の空間が揺れた後、ミストルテインの槍はアンチマジックに影響されることなくまっすぐ影を突き刺した。

 

「よし! 成功だな」

 

 追撃の用意をしながら樹上で様子を見ていたが、対策に間違いはなかったようだ。大妖精並みのアンチマジックだと近寄っても変身が解かれる可能性がある。ならいっそアンチマジックでアンチマジックに殴り掛かれば相殺できるのではと考えていたのだが、どうやらこれが正解だったらしい。

 

 ARMS(ナイト)のミストルテインの槍は原作において、同じARMSに対して特攻ともいえるARMS殺しの能力を持っていた。その特性を利用できるかな、とミストルテインの槍に重ね掛けするようにアンチマジックを張り巡らせられないか試行錯誤を繰り返していたのだが、結果を見るにどうやら成功したらしい。

 

 胸のど真ん中を貫かれた影が解けるように消えていく。後にはドロップアイテムだろう小ぶりのナイフが一振りその場に残されていた。

 

 魔法攻撃しかしてこなかったが、近づいていたらこのナイフで攻撃してきたのかな?

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