「これバリア貫通してるわ」
「怖っ」
つんつん、と俺が落ちた穴に生えていた木の杭を突きながら、恭二は面白がるような表情でそう告げた。
「多分アンチマジックだと思う。俺らが使ってるのとはちょっと違う感じするけど、効果は一緒だ。多分」
「……研究用にもう何本か持ってくか?」
「いや、アンチマジックがあれば要らんだろ」
念のために一本は持っていくが、と木の杭を収納の中に片付けて、さて。と恭二は気を取り直す様に呟いた。
39層入口は見渡す限りに蜘蛛の糸が張り巡らされている。あの下にはこの落とし穴と同じような割と致死性の高い罠が仕込まれている可能性が高く、まともな移動手段では森の中に入ることも難しいだろう。
「そして森の中にはダークエルフの魔の手が! オークが居るんだからエルフも居るかもと思ったけど予感的中だね!」
「顔もなんもないまっくろくろすけだったがな」
それどころか対峙した際の情景を思い返すと、どうもあいつ影すら存在しなかった気がする。影も形も姿が~とかいう比喩じゃなく、上空から奴を見下ろしたら本当に足元に影がなかったのだ。
だが、奴を貫き通した際に
「考察は兎も角として、問題はどう進むか、だな」
各々が影エルフ?についてそれぞれの見解を述べた後、恭二はそう言って目の前に広がる落とし穴を指さした。
これまでの階層ではまぁ階層エリア自体には特に困難な場所はなくて、あったとしても水辺があって通行が制限される場所だったり森林地帯での擬態魔樹くらいのものだった。ああ、検疫所の設立までの足止めもあったか。それだって一度体制を整えてしまえば問題なく進むことが出来るようになった。
だが、この階層は違う。モンスターの脅威だけではなく、ただ進むだけでもこの階層では死の危険が纏わりついてくる。なにせまともに歩くことも難しいのだから。
「全体を一度見渡すのが必要かもしれませんね。安全なルートがあるならそれにこしたことはありません」
「フロートを使うのはどうでしょうか。地面と接しなければ落とし穴は意味をなさないのでは」
「そのルートに行くまでの、ここから森まで進む道をまず見極める方法がないと。フロートは良いかもしれないけど、この階層までフロートを使った移動手段を持ち込めるのは俺くらいだ。俺たちしか攻略できないんじゃ意味がないよ」
恭二の言葉に御神苗さんとケイティがそう持論を口にするが恭二は難しそうな表情を浮かべて首を横に振る。
「俺たちなら余裕をもって進めるかもしれないけど、俺たちしか進めないんじゃそれは攻略とは言えないだろ。俺たちの後続の冒険者たちが余裕をもって進める道筋を見つけるのが、俺たちに求められる攻略ってやつじゃないか?」
ただ進むだけなら、まぁ。俺が罠を見つけてその上に蜘蛛の巣張り巡らせればいいだけなんで、このチームならイケると思う。イケるとは思うんだが、恭二としてはそれだけではダメって事なんだろう。
随分と欲張りな事を言ってくれるが、まぁ、その欲張りは嫌いじゃない。むしろ恭二らしいというか、相変わらずダンジョンに対してだけは随分と意識高い奴だな、と無駄口を叩きたくなってくる。
俺と同じ感想を抱いたのか、沙織ちゃんが嬉しそうに「攻略、がんばろー!」と恭二の腕に抱き着く。一拍遅れて状況を理解したケイティが反対側の腕に抱き着き、くそ、モゲろという状況が作り出される中、びしっと音が立ちそうな勢いで一花が手を上げる。
「じゃあ良い案あるよ! 正にこれしかないって攻略法!」
「お、おぉ! 良いね一花、どういう攻略法だ?」
両手に華を抱えて窮屈そうな表情を見せる恭二がそう尋ねると、一花は片頬の口角を上げて悪そうな笑顔を浮かべた後、目の前に広がる森を指出した。
「これから毎秒、森を焼こうぜ!」
“奥多摩ダンジョン39層。悩める冒険者たちが挑む今日の階層です。さて、本日の冒険者たちが抱えていた悩みとは……”
「罠が多くて、まともに進めないんです」
“とは、冒険者の一人Oさん。足元に広がる落とし穴などのトラップにほとほと困っているのだとか。そんな冒険者たちを救う今回の匠は……”
【魔法の大先生 山岸恭二さん!!!】
「一回更地にするのがコツですね」
“と自信満々に語る山岸恭二さん。これまで幾度となくダンジョン攻略を成功させてきた魔法の大先生の手で、今回はどんな変貌を遂げるのでしょうか……”
“このナレーション、まだやらないとダメ?”
「一番いい所なんだからもうちょっと頑張ってよお兄ちゃん!」
“あ、うん……なんということでしょう! うっそうと生い茂った森にどこまで続くかわからなかった罠の数々で覆われた39層が、今は炎に包まれているではありませんか! 布や木の葉、それに草木で隠されていた罠たちは炎によってその姿を現し、どこに何があるかが手に取る様に確認できる有様に! 焦げた石ころがアクセントとなり匠の遊び心がうかがえます”
「たーのしー」
「キョーちゃん、ダメ! そういうのは言葉にしたら、ダメです! カメラも回ってますよ!」
「いや、でもエルフの森は焼かれるもんなんだろ?」
「そーなの?」
「一花ちゃんがそう言ってるしそうなんじゃないですか?」
そういいながら両手から不死鳥を連射する魔法の大先生と、それに追随するように沙織ちゃんとケイティ、御神苗さんがフレイムインフェルノを周囲に向かって撃ちまくる。エルフの森は焼かれるのがお似合いだ! と悪乗り全快の作戦なんだが、信じがたい事に本当に罠のあぶり出しに成功していてびっくりだ。
俺と一花は何をしてるかって? この作戦の効果を確認、映像として保管するための撮影だよ。ナレーションは一花の趣味だ。
この階層の攻略法として、この作戦は確かに有用そうなんだが……これ、教材として扱っていいのか?
色々後輩たちに悪影響になりそうで不安だよ。