奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百十九話 大爆笑

 少し予想外のことが起きている。

 

 罠だらけの森を突破する。これを出来うる限りの効率で行うために森に火を放ったわけだが、これに関してはまったく問題がなく。それこそ最大限こちらが想定した通り――むしろ炎に焼かれて姿を現した罠の数々を考えれば、想定以上の効果を発揮したと見てもいいだろう。

 

 落とし穴だけじゃなく焼け落ちて地面に落下した槍らしき代物に誤作動したのか矢じりっぽいのが地面に突き刺さったりとこれ仮にそのまま突っ込んでたらゲリラ戦みたいな有様になってたかもしれない。途中で炎にやられたのかドロップ品らしきアイテムも落ちていたし。

 

 ドロップ品といえば最初に手に入れた小刀っぽいナイフがこの階層の敵のアイテムなのかと思ったが、その次に手に入ったのは弓、その次は煤で汚れた宝石のネックレスとてんでバラバラなのも気にかかる。が、それらは予想外ではあるがそれほど重要ってわけでもない。後々検証が必要かもしれないが、そんな事よりもだ。

 

「めっちゃ笑ってらっしゃる」

「めっちゃ笑ってるね」

 

 森の大部分を焼き払い、恐らくボス部屋? ボスのいるエリアまで進んだ俺たちを迎えたのは、焼失した森を指さして腹抱えて笑ってる長耳の人の姿だった。笑い声こそ聞こえないが言葉なんかなくても人は感情を伝えることが出来るんだな、と謎の確信を抱かせるくらいに、彼は全身を使って笑っていた。

 

 たまに顔を上げてこちらに視線を向け、若干涙目になりながら『お前らマジかよ』みたいな表情を浮かべた後また笑い始める、を3度ほど繰り返す彼――これまでの影と違いちゃんと顔形も判別でき、なんなら陶器みたいに白い肌の美形の兄ちゃんは、やがてヒィヒィと荒い息をつきながら『まった。ちょっと待った』とばかりに片手を向けて静止するようなジェスチャーを浮かべている。

 

 これこのまま攻撃したら何の苦労もなく倒せてしまうのではなかろうか?

 

 一瞬そう邪念が過るも、この場の責任者である恭二が眩しいばかりの笑顔を浮かべて白エルフ?兄ちゃんの静止に応じてしまったのでこちらから始めることもできないが、まぁ恭二にもなにかしら考えがあるんだろう。

 

「おーい、そろそろ良いか?」

『…………!』

 

 やがて笑いの発作が収まったのか、息を整えようとしている兄ちゃんに恭二が声をかけると、まだ動きは怪しいがなんとか兄ちゃんは右手の親指を天に立てて返事を返す。

 

「……言葉通じてるな?」

「そうじゃないかなぁとは思ったけど、明らかに知性があるね!」

 

 最初に遭遇した黒い影と同じように緑色をメインにした服装と、何かしらの動物の皮を使って作られただろう鎧に身を包み見事な拵えが施された剣を腰に差している。最初の影が兵士だとしたら、彼はその長、もしくは兵士を率いる立場なのだろう。明らかに装備の質が違うように感じる。

 

「えーと。あれだ。ここまで森を焼いててこれ言うのもどうかと思うが、話が通じるなら穏便に事を収めるってのはできねーか?」

『!!!………!』

「ですよねー」

「あの、キョーちゃん。折角出会えた明らかな知性持ちで、しかも恐らく文明も」

「うん。ケイティが言いたいことは分かってる。俺もそう思ってるんだけどさ。ありゃ無理だろ」

 

 ジェスチャーでいやいや無理だろと右手をフリフリと振るう兄ちゃんに分かってましたと恭二が笑う。そんな恭二にケイティが声をかけるが、恭二は苦笑いにも似た表情を浮かべて首を横に振った。

 

「あれは、多分そういう風に外側を整えられてるだけで、生きてないんだと思う」

「お前の鑑定、モンスターも見れるのか?」

「あー、ちょっと違うけど、まぁそんな感じ。お前はどう思う?」

「あの人、舌がない。斬られてるとかじゃなくて、口の中に何も見えない。なーんにも、な。生きてないってのは、多分間違いない」

「そっか」

 

 こいつの目どうなってんだと思いながら尋ねると、右目を赤くしたまま恭二がそう答える。逆に質問されたので観察したうえでの所感を伝えると、恭二は一つ頷いた後にそう呟いてスタスタと歩き始めた。

 

『…………?』

「あー。今回大分ズルしてきたし、モンスターっぽい見た目なら兎も角一人を複数人でボコるのは見た目が」

「いや流石にダメだろ」

「きょーちゃん、危ないのはダメだよ?」

 

 一人? と言いたそうに指を一本、ピンと立てた兄ちゃんに恭二がそう答えるが、流石に一人で戦わせるなんて出来るわけがない。ダンジョン内の闘いは人命優先。この人明らかに強そうだし。

 

「うーん。消耗してる3人は周囲を警戒しててくれ。一郎はサブ、一花は補助に。なら、どうだ」

「ま。まぁ、前中後衛って考えたらバランスは悪くは……?」

「それなら本気で不味いときは沙織ちゃんたちの加勢も入るだろうし問題ないだろ」

 

 一花の呟きにそう返事を返し、変身を入れ替える。援護に入るならここはライダーマン……いや、ここは。

 

「あれ? 使えるようになったのか?」

『まだ簡単なものしかできねーがな。土とか』

 

 愛用している魔剣を抜き放った恭二の言葉に、変身後の声音でそう答える。

 

 パン、と両手を叩き合わせて地面にたたきつける。大事なのは理解と分解、再構築。その過程をすべて脳内でイメージする処理能力。バチリと音を立てて地面が動き出し、盛り上がった土が“舞台”を創り出す。

 

 その過程で仕込まれていた地雷らしき何かをひき潰しておくのは、ご愛敬。バレタか、と頭をかく兄ちゃんに片目をつぶって右手の人差し指を向けておく。

 

『ま、死なねー限りはなんとかしてやるよ』

「ニーサン、あんがと」

 

 恭二の言葉にニーサン、鋼の錬金術師エドワード・エルリックの姿でそう答えて、目前で剣を引き抜いた白エルフ兄ちゃんに視線を向ける。

 

 兄ちゃんは俺たちのやり取りを理解しているのか、感謝を、とでも言いたげに微笑を浮かべる。そして剣を眼前に掲げ、何かに捧げるかのように黙礼した後に両手で剣を持ち、構えを取る。その姿は堂々としたもので、明らかに上の階層で戦った大鬼や剣士ゾンビなんかとは戦士としての格が違うと理解できた。

 

 これぞエルフの剣士ってか。攻撃力1400程度じゃ済まなそうだな。

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