エルフの兄ちゃんとの戦いは、そこまでの顛末から考えるとあっけなくと言えるレベルの速さで終わった。
一合、恭二と兄ちゃんが切り結ぶ。華奢な外見とは裏腹に豪快な一閃を、恭二が愛用の刀で何とか対応する。この一瞬で相手側の方が剣士としては明らかに格上だと分かったが、恭二は何かを確かめるように二合、三合と剣技での戦いを続けていく。考えがあるとは分かっているが、随分とやきもきさせてくれる奴だ。
そうやって二人の剣と刀がぶつかり合っているうちに、ようやっと顔に確信を浮かべた恭二の剣から雷が迸る。
眼前に現れた雷にエルフの兄ちゃんは驚愕するように目を見開き、瞬時に後ろへ飛び恭二との距離を開けた。
だが、それは悪手だったようだ。
「ギガ」
呟くように恭二はそう口にして、大上段に振り上げられたそれを――
「ブレイク」
袈裟懸けに斬るように振り下ろした。
『…………!?』
雷撃を収束したようなその一閃に兄ちゃんは、引きつったような、けれど心の底から今の状況を楽しんでいると言わんばかりの笑顔を浮かべて手に持った剣を握り直し、斜め下から打ち上げるように剣を振るった。その際に淡く剣が光を放っていたから、もしかしたらあの剣も魔法剣なのかもしれない。
雷撃と光を纏った刀と剣は舞台の中央で激突。一瞬の拮抗と共に激しく光った後、恭二の放った一撃は光を纏った剣を両断し、咄嗟に身を捩った兄ちゃんの右腕も切り裂き斬撃に合わせるように伸びた
――いや。いやいやいや。
それは初見殺しすぎるだろう。腕ぶった切られたエルフの兄ちゃん、「嘘やろ」みたいな顔浮かべて崩れ落ちたんだが。
「おー……」
なんと言えばいいかもわからず、間の抜けた声が口から出ていく。手助けもいらない完勝。相手の方が剣技は上だったと思うんだが。まさに恭二らしい勝ち方というべきか。
とりあえず言いたいことが幾つか出来てしまったんだが、まぁそれはそれとして。
「恭二」
「分かってる」
俺の呼びかけに一つ頷いて、恭二が兄ちゃんに向かって手を伸ばす。
「恭二兄、なにしてんの!?」
「心配するな、一花」
恭二の行動に一花が声を荒げた。明らかに知性があるとはいえ、敵対した相手に見せるには恭二の行動は無防備に見える。それは恭二も俺も理解しているのだが、あの兄ちゃん相手なら問題ないだろうな、という予感があるのだ。
スパイダーマンの時のそのものズバリな超直観とは違うが、なんというかな。あの兄ちゃんは、少なくともここで顔を合わせた後はフェアだったんだ。
最初から設置されていた罠は兎も角として、それ以降の闘いにおいては常に対等の条件でこちらに合わせていた。最初から魔法剣を使うことも出来たはずだし、なんなら魔法だって恐らくは扱えただろうに彼は刀を構えた恭二を見て、それに合わせるように剣技での戦いに応じてくれた。
その行動に、俺は彼がただのモンスターではないと確信を抱いたし、実際に戦った恭二はもっと深く彼について理解しているのではないだろうか。
恭二のその行動に右肩を左手で抑えた彼は苦痛に表情を歪ませながら恭二の左手と顔を交互に見やる。最初は訝し気だった彼の表情は、恭二の表情と左手を見比べているうちに徐々にあきれ顔になり、最後には声にならない苦笑いを浮かべて口元を歪ませた。
「呆れられてるぞ」
「おかしいな。ここは夕焼けの河川敷コースだと思ったんだが」
「右肩ぶった切っといてそれはないでしょ」
俺と恭二のやり取りに冷静な妹の口撃が突き刺さる。
俺たちのやり取りを理解しているのか、耐えきれないとばかりに肩を震わせたエルフの兄ちゃんが何度も首を横に振る。またツボに入ったのだろうか。随分と笑い上戸なエルフだなぁと思っていると、彼は無事だった左手で切り落とされた右腕が握っていた剣の半ばで切り裂かれた剣身を握って拾い上げ、恭二に差し出した。
「俺は別に、あんたと最後までやる気はないんだけど」
『…………』
恭二の言葉にフルフルと首を振り、兄ちゃんは握った剣身を自身の首筋に添える。彼は言葉になどしていないのに、仕方がないと言っているような気がした。
そう、これは仕方がないことなんだと、彼は態度で俺たちにそう諭しているのだろう。
「…………わかった。オーケー」
彼が差し出した剣を握り、恭二の左目が赤く光りを放つ。
「じゃあな、――――。あんたの剣、凄かったよ」
『!?……………』
恭二が呟くように語り掛けると、兄ちゃんは驚いたように目を見開かせて恭二を見上げ――そして安堵したような、満足したような表情を浮かべた彼を、彼の剣を持った恭二の斬撃が切り裂いた。
ズシャっと地面に倒れこんだ彼の体が、光の粒子になって消えていく。
ドロップ品は出なかった。代わりに、地面に突き立った彼の剣の半身と、恭二が手に持つ半身だけが彼がここに居たことを教えてくれる。
「………………ふー」
少しの沈黙。恭二は深く息を吐いて、地面に突き立った剣の半身を拾い上げ収納にしまい込む。先ほどまで持っていた剣のもう半身も消えているから、そちらもしまい込んだのだろう。
恭二が彼の剣を回収すると、視界を覆っていた森の一部が動き始めた。ゲートらしきものが見当たらないと思ったが、ここはボスを倒したら出現するタイプだったのか。
なら確かに、仕方ない事だったのだろう。
「ダンジョンってなぁ、なんなんだろうな」
「わかんね」
眼前で急速に組み上げられていく木製の巨大な門を眺めながら、誰に向けたかもわからない恭二の呟きにそう返事を返す。
「わかんねーけど」
「けど?」
「それを知るために、先に進まないといけないんだろ」
「……そうだな」
「そうさ」
どさっと腰を下ろしながらそう口にすると、恭二は納得したように首を振って同じように腰を下ろした。
これ、どのくらいで完成するんだろうか。まさか組みあがるまで一日かかる、なんて言わないよな。