奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百二十一話 お叱り

 俺の目の前で恐ろしい拷問が繰り広げられている。

 

 原因は山岸恭二。俺にとって物心つく前からの腐れ縁、幼馴染とも呼ぶべき相手だ。こいつは今、同じく幼馴染である下原沙織の目の前に正座をさせられている。正座させられている理由は危険な階層で単独行動をとったこと。これは冒険者としての規範を作った際、絶対に戒めなければいけないこととして綴られている文言の一つだ。

 

 その規範を作ったヤマギシチームの、実働班の長である山岸恭二が自らこれを破った。それを重く受け止めた下原沙織は合流時に開口一番「正座」と冷たく命令を下した。恭二と俺はその言葉が耳に入った瞬間居住まいを正して地面の上に足を揃えて座った。

 

 恐ろしいのはここからであった。正座して並んで座る俺と恭二を冷たく見下ろした後、沙織ちゃんは唇をツンと尖らせて「私不機嫌なんですが」と態度に示しながら恭二の目の前、向かい合わせになるように正座をして座り込んだ。その行動に周囲が目をぱちくりさせていると、便乗するようにケイティが沙織ちゃんの隣に座り込んだ。こちらは体育座りだった。

 

 これがかれこれ30分ほど前の出来事だ。それ以後、急速に組みあがる木製の壁と門?の音を耳にしながら俺たちは無言でこの場に座り込んでいる。二人分の視線に晒されてだらだらと脂汗を流す恭二と、ふくれっ面で恭二に視線を向ける二人の女の子。その隣でただ正座している俺と、その異様な集団から離れて門が組みあがっていくのを観察している妹と御神苗さん。

 

 なにがキツイって逃げることも出来ない状況なのに根本的に俺は蚊帳の外扱いなんだ。いったい前世でどんなことをやらかしたらこんな目に合うというのか。

 

「恭二兄を止められるのお兄ちゃんだけだし。残当じゃない?」

「一花。木の枝で足を突くのは止めなさい一花!」

 

 超自然土木工事を眺めるのに飽きたのか。正座した俺の足をつんつんと突きながらそうのたまう妹にやんわりとした叱りの言葉を放つも、一花はプークスクスと笑って俺の言葉に耳を貸してくれない。

 

 人の心を思いやらない子になんて育てた覚えはないんだが。

 

 ……仕方ない。ここはこのチーム最年長者であり常識人である御神苗さんに頼るとしよう。いつまでも座り込んでるわけにもいかないし、唇と唇まで5cmくらいの距離で見つめあう幼馴染を眺めるのがそろそろ痛い。封印したはずのクソガキスピリッツがむくむくと表に現れて「キーッス! キーッス!」と囃し立てそうになっちまう。

 

「というわけで御神苗さん、ちょっとこの現状をなんとかしたいんですが」

「……そう、ですね。そろそろ時間も立ってますし。休憩も十分に取ったと考えれば」

「御神苗さん、無視していいよ」

「すみません一郎さん。マスターの言葉はすべてに優先されますので」

「御神苗さん!?」

 

 しょうがないなぁとばかりに苦笑いを浮かべていた御神苗さんが、一花の一言でスゥっと表情を消して頭を下げる。唐突すぎる梯子外しに愕然としていると、俺の頬に一花の両手が添えられる。

 

 ぐいっと顔の向きを変えられる。一花は口元だけ笑みを浮かべて、まるで笑っていない目で俺を静かに眺めていた。

 

「お兄ちゃん」

「はい」

「恭二兄とお兄ちゃんだけで通じ合ってないでさ。説明しようよ? 私たちチームだよね?」

「はい」

「はいじゃないが?」

「すみません」

 

 底冷えするような冷たい声に、考えるよりも先に口がそう言葉を発した。

 

 

 

「あいつで最後だって思ったのは、コレだ」

 

 恭二はそう言いながら収納から小ぶりのナイフを取り出した。この階層で最初に遭遇した影がドロップしたアイテムだ。

 

「このアイテム、鑑定すると“罠猟師”―――の小刀って名前がでて、その後ろに4/12って数字が書かれてるんだ」

「……ごめん、きょーちゃん。猟師って部分のあとがよく聞こえなかったんだけど、なんて言ったの?」

「分からん」

「分からない?」

「冗談抜きで発音が分からない単語なんだけど、意識して言おうとすると一応口から出てくるんだよな」

 

 翻訳魔法の影響かな、と首をかしげながら恭二はそのナイフをしまい、今度は先ほど戦ったエルフ兄ちゃんの折れた剣を取り出した。

 

「で、これが“戦士長”――――の剣。後ろには12/12って書いてある」

「数字が変わった……というかそれって」

「森の中で拾ったドロップ品は全部そういう数字が書かれてて、戦士長含めて12個あった」

「そういう重要そうな情報をなんでパーティーで共有しないかな?」

「悪い。戦士長が一人で爆笑してる所みるまで確信できなかったんだ。下手に情報を伝えて油断して最後に囲まれてボコられる、なんてのもこの階層ならありえそうだったからさ」

「それでも伝えてほしかったかな」

「すまん」

 

 不機嫌そうな一花の言葉に、恭二は素直に頭を下げる。

 

「……あとで真一さんにも報告しとくから」

「一花さん!!?」

「で、お兄ちゃんはなんで恭二兄を止めなかったの? なんか二人して通じ合ってたじゃん」

「あ、それ私も聞きたい」

「私も聞きたいデス」

 

 悲鳴を上げる恭二を無視して一花が矛先を俺に向けると、恭二の両手をそれぞれ占有していた沙織ちゃんとケイティがこちらに視線を向けた。その状態で質問とかされると視線を向けざるを得なくて、俺の内部で横島が暴れ始めるからいまそっちを向きたくないんだけどね。

 

 というかぶっちゃけ、俺の方は大した理由がないんだ。周囲にあのエルフの兄ちゃんしか居ないのは分かってたし、恭二が一人で戦うって言い出した瞬間に細工も施してあったからな。

 

「細工って?」

「この舞台作ったの俺だぞ?」

 

 質問に質問で返すのは不作法だが、その一言でなんとなくこちらが言いたいことは伝わったらしい。沙織ちゃんはそっかぁと朗らかに笑い、ケイティはなるほど。と小さくうなずいて、一花は物凄く眉根を寄せて胡散臭そうな顔でこちらを眺めながら、一回、二回と頷いた。

 

 あとは恭二辺りは気づいてそうだが、この階層の仕組みも判断材料だった。冷静に考えればおそらく一花やケイティも気づくだろうが、この階層は足の踏み場もほとんどない階層だったが、逆に言えば数少なくとも足の踏み場は存在していたのだ。一人か二人くらいなら通行できるレベルで。

 

 そして明らかにほかの階層よりも少ない敵の数。回収したアイテムの分布図の距離を考えるに、この階層は恐らくだが本来1~2人とか少人数での攻略を考えて作られていたんじゃないだろうか。

 

 罠を察知する冒険者一人に、戦闘メイン一人か二人。多分想定されていた攻略メンバーはそのくらいか。

 

 まぁ、その思惑も全て炎の中に消えていってしまったんだが。ダンジョンマスターが居るなら、今頃キレてるだろうなぁ。

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