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第五十九話 テキサス接待ダンジョンツアー
ブラス家の一室で俺はコーヒーをメイドさんに淹れてもらう。テレビを付けると先日のニューヨークでの出来事が流れていた。
盛大なパーティから一夜明けた翌日。俺達は別れを惜しむスタンさんに挨拶をした後、ニューヨークから再びテキサスに戻った。
スタンさんの誕生日パーティーは大成功と言っていい出来だった。
『ありがとう。私はこの世で一番幸せな脚本家だ』
自分が生み出したヒーロー達からのバースデーソングを聞き、涙を流しながら彼はそう言っていた。
彼が生み出したスパイダーマンというキャラクターによって多大な利益を受けた身としては、せめてもの恩返しになれば嬉しい。
それと、プレゼントとして用意していたゴーレムの魔石を5つ吸収して貰った。全て吸収しきった時には50代かと見間違える位に肌にハリが戻っていて、ヒーローを演じていた女性の方々からの熱視線が凄かったわ。
アメリカ冒険者協会の宣伝もしときました。
さて、今日はテキサスのウルフクリークにあるブラス家所有のダンジョンに宿泊の礼として共に潜る予定だ。
スタンさんのパーティーでは色々協力して貰ったし今日は全力で頑張るぜ!
「お前はご婦人方の護衛な」
「そりゃないぜ真一さん」
「向こうからのご指名だ。目立ちすぎたんだよお前は。ほら、ご婦人方がお待ちかねだぞ」
やる気満々といったブラス家の男達に真一さんや恭二、沙織ちゃんが付き、俺や一花、シャーロットさんが婦人方の護衛につく。婦人方の黄色い声がなんとも居心地が悪い。
あと、何故かやる気満々組だったはずのジェニファーさんが婦人組に来てます。こっちだと経験が碌につめないかもしれないけど良いんだろうか。良いんですか、はい。
ダンジョンへはブラス家からハマー5台に分乗して向かった。
現地に着くと使用人達がやたらとでかいテントを立て、その中でダニエル老らと婦人組はコーヒーを飲みながらくつろいでいる。
そしてジョシュアさんとジェニファーさん。それ米軍の兵士が持ってるライフルでしょ。民間人が持ってて良いんですか?
『ああ、これは正式名称がAR-15と言ってM16とは同じ銃だが、フルオートが出来ないタイプの民間用だよ』
『M16というのは米軍が割り振った番号で、要は組織内での名前なんです』
『成るほど、銃にも色々名前があるんですね』
一つ勉強になった。ただ、中では出来れば銃ではなくて刀や槍が望ましいので一応注意しておく。
理由を尋ねられたので、同士討ちが怖いのが一つと、下に潜れば潜るほど銃が効果を及ぼさなくなってくるのが一つ。
あと、イヤープロテクターをつけていると味方の声も近隣の音も拾えなくなるのが不味い。
狭いダンジョン内では跳弾も起こり得るから正直デメリットが目立つという事を説明した。
まぁ、そう言われても銃社会のアメリカではやっぱり身を守る=銃の印象が強いだろうからお勧めは拳銃を一つ。
後は折角なのでウチのメインウェポンのご紹介といこう。
先生、よろしくお願いします!
「どぉれ」
お。流石は真一さん。最近見栄えの良い槍の扱い方を研究してるだけあって咄嗟のネタ振りにも反応してくれるんですね。
何事か始まるのかと興味津々のブラス家の面々の前で真一さんは愛用の素槍を構えて、
「フレイムインフェルノ!」
ボゥ、っと炎を宿した槍で突き、払い、叩きと動作を繰り返して最後に魔法を切り替え。なぎ払うように周囲に振り回す。
簡単な実演だったが十分に興味を引けたようだ。
『魔法しか通用しない相手にも効果があるし、通常の状態でもダンジョン内なら十分メインウェポンとして利用できる。全て奥多摩で開発者の刀匠が手作りで作成している物です』
『素晴らしい。
『全員分は流石に用意していませんが、とりあえず予備の半分の3本ならお譲りできます。ダンジョン内の不測の事態を考えてこれ以上は』
因みにケイティはすでに槍を持っている。前回来日した際に恭二が使った炎の槍技に魅せられてしまったらしい。
真一さんとジョシュアさんの商談により一先ず3本を購入という形でお譲りすることになったが、このままだと恐らく重さが問題で扱いにくいだろう。
という訳で皆さんには一度潜ってもらい、ある程度進んだ辺りで魔石を吸収してもらうことになった。
ジョシュアさんとジュニア氏は最初から槍に挑戦するつもりという事なので、先に手持ちの魔石を少し吸収してもらう。これだけでも大分違うだろう。
『凄いなこれは。さっきまであんなに重く感じたのに』
『父さん、片手でも持てるようになったよ!』
『ダンジョンに長く居れば居るほど魔力も蓄積されます。その時には魔石も溜まっているはずなのでもう一度吸収を行いましょう』
『ご婦人方はある程度奥に進んだ辺りで魔石を吸収してもらいます。魔力が自覚できるまで吸収して頂ければ魔法に挑戦しましょう』
すっかり接待になれた真一さんとシャーロットさんがそれぞれの担当する人員に軽い予定の話を行っている。
『ねぇ、イチローは今日はどんな変身をするの?』
『あー。決めてないからジェニファーさんのリクエストがあれ『スパイディ!』はい。好きなんだ?』
『大好き!ビルとビルの間を飛び交う赤い影!その名は!スパイダーマン!』
『それ日本版のオマージュ?』
『そうよ、マーブルのHPで全部見たの。あれが20年以上前の作品だなんて信じられないわ!』
結構コアなファンだね君。ならちょっとファンサービスと行こうか。
ふふふ。新魔法のお披露目だぜ。
「ボイスチェンジと、更に変身!」
『声?何を・・・』
【俺は地獄から来た男、スパイダーマッ】
『うそ!?山城拓也!?』
一発でキャラ名が出てくるってすげぇな。
今回の探索は通常のスパイダーマンではなく東映版をリスペクトといこう。
ボイスチェンジ:変声の魔法。あくまで声を変えるだけのため翻訳と併用は出来ない(翻訳はどちらかというとテレパシーに近い為)