層境の大きな
「国語の教科書で見た奴」
「いや、流石にこれは笑うしかないだろ。ネタにも走るわ」
「1時間もレゴブロック見た後にこれはクルものがあるね!」
「僕は面白かったですがね。異世界の建築風景」
40層へと続く門をくぐり、恐らくセーフゾーンだろう門の下から覗き見た40層は森だった。完膚なきまでに森だった。39層よりも森とゲートとの距離が近いくらいしか違いが分からないくらいに森だった。
「イチロー、罠感知頼む」
「罠感知じゃないんだが? あー、いや。反応はない」
スパイダーマンへ変身し、最大限警戒しながら40層に頭だけを出して周囲を見渡すが特にビビッと感じる気配はない――というか36層のトレントの森よりも感じるものが何もない。むしろ生き物が居るのかってくらいに静かな空間だ。
門の一部にウェブを張り付け、慎重に一歩足を踏み入れる。問題なし、なら更にもう一歩、と足を進めてセーフエリアを広げていく。チェックし終わった部分にウェブで境目を作り、門と森の間の大体20mほどを安全地帯として確保する。
「あの、なんか俺の役目が鉱山のカナリアじゃ」
「見ようによってはそうかもしれんな」
「斥候職が出来る人がほかにいないから。というか、今の冒険者制度だと正面戦力しか育ってないんだよね」
「検討はしてるんですが……戻ったらやる事が山積みになりましたね」
米国に、でも折角キョーちゃんと、でも……と憂鬱そうな声でケイティが嘆いている。俺も最初期の教官教育に携わっていたが、あの教育が間違ってるとは思わない。ただ、現状だと正しいとも言い切れない状況になっている。というかこの数時間で色々前提が変わってしまったな。
現状の冒険者の教育制度だと前衛・後衛と大まかに分けられている中で、最初にどちらも教育して向いていると判断された方へ教育を偏らせていく形で育てられている。だが今回、40層まで至った結果その内容を更に細分化して役割を分けるという事が明確に必要になってしまった。というか罠をチェックする役割の人物が必要になった。
まぁ、検討している、というケイティの言葉の通り、元々もっと各自のポテンシャルや向き不向きに合わせて役割を分担すべきでは、という話は出ていた。なんなら北海道ダンジョンのネズ吉さんやみちのくダンジョンでニンジャやってる千葉さんなんかはまさにそれで、あの人たちのスタイルはただの前衛後衛という括りでは表すことが出来ない独自のものになっている。
というかネズ吉さんの隠密アサシンスタイルは36層以降にずっぽし刺さるんじゃなかろうか? あの人がこの階層まで来たら38層のマッスル以外はあっさりクリアしそうだな。
「38層はその辺意識して作られてるのかもな。隠密アンブッシュだけじゃ絶対突破できない」
「最低でも高レベルの
「あれツタに絡めとられたら自力脱出はほぼ無理だぞ。自爆する覚悟くらいないと」
実際横島が絡めとられた時もほぼ自爆する覚悟で“燃”やしたからなんとかなっただけで、仮に俺自身があの状態になったら正直かなり苦労したと思う。やたらと頑丈そうだったし。
「で、今回は燃やさない方向で行くのか? モンスターが居ればほぼ相手しないで済むだろ」
「出来れば燃やすのは最後の手段にしたいんだよな。俺たち以外の冒険者たちの攻略方法も考えときたいから。焼き畑農業出来るくらい魔力に溢れてる冒険者ならそれが一番効率的だろうけど」
「ちょうど40層だし焼いた後に畑でも作ってみる? ダンジョン産作物とかこう、定番じゃない?」
「…………だから焼くのは最後の手段だって」
一瞬考える素振りを見せた後、恭二は頭を振って一花の提案を退けた。多分それはそれで面白そうとか思ったんだろうな。
安全地帯を確認し、森の中の探索を開始してから十数分。
「恭二さん! イチローさん、こっち! こっちにもありましたよ!!!」
御神苗さんが壊れた。
「ほら見てくださいよ! これ! この大きな木の上、あそこに木の棒が並んでるでしょう!? あれは間違いなくツリーハウスの床になっていたものですよ! 周囲を見てみましょう、恐らく樹上に上がる足場が見つかるはずです!」
「御神苗さん」
「いやもしかすると……ここ! この木の洞、これが入口ですね! 凄い! この建築物は木と一体化して作られているんだ!」
「御神苗さーん」
数回呼びかけるも御神苗さんはテンションが振り切れたままの状態でどこからか取り出したカメラをカシャカシャと動かしている。
危険なダンジョンの中だ。ダンジョンアタック中なら殴ってでも止めるべき行動なんだが、ちょっと今は状況が違っている。
「
流石にちらりちらりとみんなの頭を過っていた考えを、一花が口にした。
「罠もなし。モンスターもなし、だもんね」
ガサガサと草むらに刀の鞘を突っ込みながら、沙織ちゃんが退屈そうな口調でそう返事を返す。森に入った当初は慎重に慎重を期していたのだが、あまりにも何も起こらな過ぎて集中力が切れてしまったのだろう。
真面目にしろ、と注意するべきなんだろうが、本気で何も居ないからな。あった事と言えば明らかに相当な期間放置されただろう森に飲まれた廃墟があるくらいだ。
「お、またあった」
「これで5件目か?」
率先して森の中に飛び込み廃墟を見つけては奇声をあげている御神苗さんのお陰で探索は非常に良いペースで進んでいる。というのも御神苗さん、軽く外観や内部を写真で撮影したらどこからか取り出した蛍光色のテープを入口付近に張り付けて次の建物に向かって走り出すのだ。
「御神苗さんさ」
「うん」
「大学時代は考古学専攻してて、冒険者になった理由もダンジョンが遺跡の一種ではないかって考えたかららしいよ」
「……ああ」
嬉々としてカメラをパシャり続ける御神苗さんを見ていると、一花がぽつりと呟いた。
そういえば39層の
――そういえばあのAMスーツもどきの、もどきじゃない方の持ち主は遺跡の保護を主目的にする集団のエージェントだったな。御神苗さん自身、あの作品は結構意識してるって言ってたし、もしかしたらその流れで考古学を学んだのだろうか。
「39層の敵とこのツリーハウス群を見れば、関連付けるしかないよね」
「明らかに俺たちとは違う生活様式だしなぁ。恐らくあのエルフ耳さん達のかつての住居なんだろうが」
「御神苗さんじゃないけど、考古学者の先生とかなら涎を垂らして調査したがるんじゃないかな。ここって!」
アッタアアアアァァ!
どうやら6件目が発見されたらしい。突如森を貫く奇声にも、流石にそろそろ慣れてきたな。
まぁあの調子で御神苗さんが動いてくれればボス部屋も割かし早く発見できそうだし、40層のボスを倒してエレベーターホールを確保したらこの階層をじっくり調査するのも良いかもな。
あのエルフの兄ちゃんは明らかに俺たちと違う文明の持ち主だったし、何か今までにない発見もあるかもしれない。一度戻った時に真一さんに提案してみるか。