奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百二十四話 切り株の城

「何時間か前にやったネタだけどさ」

「ああ」

「劇的〇フォーアフターはここで使うべきだったね」

 

 撮影用のビデオカメラで周囲の景色を撮りながら、一花が半ば呆れたような口調でそう言った。

 

「そうだなぁ」

 

 その言葉に相槌を返し、目の前に広がる長閑な村の風景を眺めていると背後の森が大きく揺れ、足元に伝っていた木の根がボロボロと崩れ落ちていく。終わったかと振り返ると、木の洞に空いた大きな出入口に御神苗さんが顔を突っ込んでいる姿が見えた。先に立つ御神苗さんに何かが起きた場合の備えとして、少し離れた位置から沙織ちゃんもスタンバッているようだ。

 

 まぁ、ここに来る11個のツリーハウスでは特に何も起きてなかったんで、何事かが起きる可能性は低いんだが。

 

「ここまで肩透かしだとどう考えてもあそこがヤバいんだよね!」

「期待感だけが膨らんでいくなぁ」

「不安しか膨らんでかないんだけど?」

 

 森が密度を減らし、遠くに見えるようになった巨大な建造物について妹と意見を交わしていると「おーい」と恭二がこちらを呼ぶ声が聞こえてくる。周辺の警戒と変化の確認のために散っていたほかのメンバーたちも御神苗さん達が入っていったツリーハウスに集まってきているようだ。

 

「推定ボス部屋周りまでの道が出来てる。これは解放したって事でいいのか?」

「恐らくは。モンスターの影も勿論人の影も見当たりません。全く情報がなければダンジョンだとは分からない、長閑な光景ですね」

「ツリーハウスばっかだし、私は観光地っぽく感じたかな……あ、さお姉と御神苗さんお帰り! どうだった?」

「最高でした! 食器一つ、家具一つとっても見たこともない様式のこれはあのエルフの青年の一族が居住していた場所である可能性が濃厚で節々に見られる文字も現存する地球上の文字に類似するものが思い当たらず」

「おkわかったお疲れちゃん」

 

 周囲について話をしていると、最後のツリーハウスを見回っていた御神苗さんと沙織ちゃんが木の洞から出てくる。一花の問いかけに抑えきれない興奮を口から垂れ流し始めた御神苗さんをスルーしながら、5人で今後どう動くかを話し合う。

 

 と言っても、ここまできたらやる事なんて決まっているのだが。

 

 随分と足踏みしちまったが。40層、クリアするか。

 

 

 

「ツタとかに覆われてて良く分かんなかったけどさ」

「ああ」

「これ切り株だよ、ね……?」

「切り株じゃないか? 樹冠ないし」

「イチロー君、樹冠って何?」

「あれだよさお姉。葉っぱとかが集まって緑の頭っぽく見えるところ」

「ああ!」

 

 遠目に見えていた巨大な建造物は、大樹の。恐らくは切り株と木材に石材を組み合わせた城だった。

 

 何を言っているかわからないと思う。俺も見た瞬間に頭がハテナマークで埋め尽くされた。これをツリーハウスと呼んでいいのかが疑問符をつけたくなるような代物だが、もうそうとしか言いようがないのだから仕方がない。

 

 巨大な――それこそ下手な学校の体育館よりもありそうな横幅の切り株は、所々に空いている穴の部分に石材が補強するかのように詰められている。恐らくは窓なんだろうと中をうかがってみるが、内部には明かりが届いていないようで遠目では薄暗く覗き見ることは出来ない。

 

 先ほど見つけた二本の石柱はどうやら入り口で間違いなかったようで、その石柱と石柱の間には石畳が敷かれてあり切り株の根本にある大きく開かれた門まで石畳が続いている。

 

 俺たちはその石畳の上を歩きながら、切り株の城の中へと足を踏み入れた。

 

「ライトボール」

「ライトボール」

 

 内部には灯りがなかったため、俺と並んで前に立つ御神苗さんと最後尾の沙織ちゃんがライトボールを唱える。ライトボールは基本的に唱えた人物の近くをふよふよと付いてくるから前後に出しておけば視界に困ることはなくなる。

 

 それはそれとして魔法が打ち消された場合に備えて各自の持つヘッドライトを点灯させて石畳を奥へ奥へと進んでいく。

 

「そういえばケイティはドレスアーマーって奴だよね。ヘッドライトってどうしてるの?」

「ライトボールで賄っていたので……このドレスは相手側がアンチマジックを使ってくることを想定してないんです」

「まぁ大妖精以降じゃないと想定する意味がないからな……」

 

 俺の質問に要改善ですね、と頭に着けているサークレット?を触りながらケイティが答える。それを言うなら御神苗さんのY・Mスーツ(ヤマギシマッスル)も似たようなもんだからヤマギシにとっても他人事じゃない。まぁあの先輩さんと真一さんなら大妖精のアンチマジックに対抗する何かを考えてるかもしれないが。

 

「んー、脇道や扉があるけど」

「スルーだ。まずは奥に行くぞ」

 

 途中で見かけた通路について確認すると、恭二はそちらに軽く視線だけを送って首を横に振った。おそらく外から見えた窓のある部屋などに続いているのだろうが、そちらの探索よりもボスを確認する方が利が多いと恭二は判断したって事だろう。

 

 コツコツと石畳が続く道を歩いていくと、奥に大きな扉が見えてくる。再前方の御神苗さんが立ち止まり、恭二に判断を仰ぐように振り返った。

 

「イチロー、罠感知」

「罠感知じゃないんだが。危険は感じない」

「OK。御神苗さん、ゆっくりとドアを開けてくれ。イチローは何があっても対応できるようスタンバイ」

「オーライ」

 

 恭二の指示に従って御神苗さんがドアに手をかける。変身はスパイダーマンを維持し、いつでもウェブが放てるように神経を尖らせておく。

 

「ふんぐっ、ぎっ……」

 

 御神苗さんはY・Mスーツ(ヤマギシマッスル)の筋肉を最大限に膨らませながら、顔に血管を浮かべて扉を少しずつ開いていく。相当な重さがあるらしいが、その機能は見せ筋ではなかったろうかと不躾な疑問が頭を過ったが、口にすることは止めておく。

 

 開かれたドアの向こうには、大きな空間が広がっていた。大理石のように滑らかな石を敷き詰めているらしく、磨き上げられたように光る床に天井を支えるための柱が等間隔で置かれている。

 

 最奥に見えるのは玉座だろうか。そこに座する少女の荘厳な雰囲気と相まって、ここは恐らく王と呼ばれる存在のための場所なのだと言外に伝えてくる。

 

「…………エルフの兄ちゃんの時に感じたことだけど」

 

 そう、ここは王のための広間であり、玉座と呼ぶべき場所があるならばそこに座るのはただ一人。

 

「このダンジョンを作った奴は、性格悪いな」

 

 恐らくこの階層のボスであろう少女――エルフ達の女王と呼ぶべきだろう存在を見据えながら、俺はそう呟きを零した。

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