奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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スパイダーバース見てきました。最高だった。最高だった。最高だったんだが。
これをあそこで一年お預けって製作陣は人の心がないとしか……エンドゲーム前の一年をもう一回ファンに強要しやがって……チクショウメェ!!!

誤字修正、244様ありがとうございます!


第三百二十六話 イチロー式言語学習

 言葉を交わせる。ただそれだけで過去これまでに遭遇したあらゆるモンスターをぶっちぎってきた推定エルフの女王は、その幼げな見た目に反して随分と落ち着いた声音で話しかけてきた。

 

「拙はそこな片腕を元に言葉を学んだだけであるが」

「つまりお兄ちゃんが悪いってこと?」

「横暴すぎる。訴訟も辞さない」

 

 ぼんやりとした表情のまま“日本語”でそう話すエルフお嬢様の言葉に全員の視線が俺に集中する。あ、背後でケイティが一歩後ずさった。まぁそうだよな。

 

「俺……こちらは男言葉でありんすか。ウチは……私……女子の一人称はこれだっちゃ」

「あの、サラッと俺で言語学習するの止めて貰えませんでしょうか?」

 

 このお嬢さん、今ナチュラルに言語が学べるくらい俺の頭を覗いてるって言ったんだもん。というかなんで俺なんだよ。というかどういうボキャブラリーだよ。どんだけ無作為に俺の脳内覗かれてるの?

 

 “内部の人たち”で慣れてるけど考えてることまるっとお見通しとか流石の俺でもビビるわ。これがサトラレの心境か……知りとうなかった。

 

「うむ? ああ、これはすまねェ。貴殿からは色々漏れ出ているから読みやすいってばよ! 無作法ではあるが学ばせてもらっチャブル」

「何が漏れ出てるのか怖すぎるんですがそれは」

「ふむ? 纏うている魔力を見るに主らは既に魂での意思疎通は会得していると思うておったが……ああ、なる。そっちの女子が下がったのはソレかにゃあ」

 

 表情はぼんやりとしたまま。着々と進む言語学習とは別に、何かを理解したかのように数回頷いた少女はケイティに視線を向けて口を開く。

 

「安心するばい。私が見えるのは此方の上辺に漏れ出る“言葉”だけ。此方とそちらのは魔窟と混ざっているようだから、わかりやすいんだわ――此方、魔窟以外にも混ざり物がおおくないかしらぁん?」

「混ざってる? 魂? なにそれ」

「それを俺に聞かれても困るぞマイシスター???」

「MYSISTER? hmm......it's a complicated language(この言語難しくないか?)

「あ、そっちは別の国の言語でして」

 

 ぼんやりとした顔が初めて困惑に歪み、話しづらそうに英語を口にした少女にそう告げると、やっぱり少女は困惑した表情のまま首を傾げる。まぁ、言語学習中に他の単語混ぜられると混乱するわな。俺も内心をやっぱり読み取られてたっぽい事が確定して混乱しているのだが。

 

 というかなんか魔窟って言われてるけどなにそれ。初めて耳にした単語なんだけどもしかしてダンジョンの事を言ってるのか?

 

 俺はこんな不思議空間と混ざり合ってるつもりはないんだが?

 

「俺とイチローは、なんかおかしいって言ってるのか?」

「うむ。汝と此方は私と同じ、ダンジョンの被造物としての気配がある。此方は、なんだろう分裂してるのか? 意味が分からな過ぎて怖い……ああ、この話し方がしっくりくるな。これを使わせてもらおう」

「なぁ、ダンジョンってなんだ? 俺とイチロー……は一緒にしていいかわからないっぽいけど……みんなと何が違うんだ?」

「おいこら」

「ダンジョン、とは魔窟の事か。本当に難しい言語だ。ああ、私達が探窟者であった頃の経験で語るのならば探窟者にこれほど魔窟……ダンジョンの気配を纏わせるものは居なかった。それこそダンジョンの魔物かと疑うほどだ。此方はダンジョンの気配があるが、それ以上に意思が見えすぎて判断がつかぬ。汝ら魂の合成でもしているのか? 魂に手を加えるは神々への冒涜だぞ?」

「ただ一生懸命生きてるだけなんですが」

「……ダンジョンとは何か、か。それはこの場にいる私も知らない事だ。かつて汝らのように探窟者としてダンジョンに挑んでいた時も、今ダンジョンの一部となった後も終ぞ知る事は出来なかった」

 

 存在しているだけで禁忌みたいな言われ方だったのでつい本音を漏らしたが、少女は眉を寄せたままハテナマークを複数浮かべているかのような表情で首を傾げて言葉をつづけた。これは、俺が、間違っているのか……?

 

 愕然としていると御神苗さんがポンと俺の肩を叩いた。無言でサムズアップはむしろ煽ってるようにしか思えないんですがそれは。

 

「さてさて。ここに出でて幾年月……久方ぶりの会話でつい、余計なことまで話してしまったな」

「待ってください! 貴女は一体何者なんですか? 貴女方も我々と同じようにダンジョンに挑んでいたのですか!? それはどのような、どの世界の……!」

「知らぬ。汝らが知りたい事は私には残っていない。この身は最早――の神官ではなく、ただただ魔力で形作る人形であるゆえに」

 

 詰め寄るようなケイティの言葉に、少女はぼんやりと宙を見るような表情を浮かべたまま、小さく首を横に振って応える。

 

「例え姿形は人なれど、言葉は交わせれど我は魔ぞ。決して油断するな。絆されるな。心を許すな」

 

 少しずつ、言葉が続くごとに少女の体から圧力のようなものが発されていく。距離が近すぎると判断したのか、恭二が左手で後退の指示を出すと沙織ちゃんがさっと後ろに飛び退る。

 

 少女の周囲を緑色に光る靄のようなものが覆っていく。バリアかアンチマジックかは判断つかないが、恐らくはそれに類するようなものだろう。

 

「此度の後進は如何ほどのものか……ああ、そうだ忘れていた。ここまで来たのなら前の階層で手に入れた戦士長の剣を持っているだろう?」

 

 少女の言葉に反応して、恭二が収納から折れた剣を取り出した。空間から抜け落ちるように現れた剣に少女は無表情のまま視線を向け――

 

「先に進みたいのならば私のここにそれを刺すと良い。それが先に進むための仕組みだ」

 

 トントンと自分の胸の中心を指出して、彼女は初めて笑顔を浮かべた。

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