失敗した。
体から力が抜け落ちていき、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
「お兄ちゃん!?」
ガクリと膝をついた俺に、間髪入れずに少女の右手から放たれた緑色に光る煙のような何かが襲い掛かってくる。常時展開していたバリアがそれを受け止め、ぶわりとバリアごと俺を覆うように広がっていく。
少女は一瞬驚いたように片眉を上げて俺に視線を向ける。彼女にとってはかなり自信のある一撃だったんだろう。俺に気をとられた彼女の隙をつくように炎が走り、少女の姿を炎の柱が埋め尽くす。
終わったか、と思う間もなく周囲を覆う煙が枝木に姿を変え、バリアごしに俺を締め付けるように纏わりつき始めた。あ、これはやっこさん元気満々だな。炎の中に隠れて見えないが、どうやらまだまだ戦いは終わらないらしい。
「どうした、イチロー!」
「わり、やば」
恭二の声に返事を返そうにも、上手く口が動かず端的な言葉しか発することが出来ない。両手から稲妻を迸らせながらこちらを見る恭二の顔が目に映った。レールガンみたいな超火力を使わないのは、相手が相手だからだろうか。
原因は分かっているんだが、さてさてどうしたものか。どんな状態でも対処が出来ると考えて変身していた“スパイダーマン”にこんな弱点があったなんて考えていなかった。
いや、分かってはいたんだ。俺の考える俺の中の
彼女が自分の胸を刺し、ここに剣をさせと言った瞬間。俺の中の
ここで矛盾が起きた。俺自身の意志と俺の中の
だから、立てない。心は動こうとしているのに体は重く、反応を返してくれないのだ。俺と
意図してはいないだろうが、彼女の一言は痛恨の一撃となって俺の行動を縛ったわけだ。
【一郎悪い! 今、こっちでピーターを……ああもう! いい加減にしろ!】
【カズマてめぇ! なんで邪魔してんだよ!】
【気に食わねぇからに、決まってんだろうがッッ!】
内心からエドワード・エルリックの声が聞こえてくる。どうやら俺の心の中では一部のやんちゃな連中とそれ以外によるシャレにならない規模の大乱闘が開催されているようだ。漏れ聞こえる声になんだか大変なことになってそうな予感がするんだが、流石にこのタイミングで体の支配権を手放して内心に潜るなんて事は出来ない。
ヤバいな、本格的にピンチじゃないかこれは。ミシミシとバリアを締め上げてくる枝木は、少しずつ俺の体に近づいてきている。瞬間的な火力には対応できても、継続ダメージは試した事なかったな。まさか実地で、命がけで試すことになるとは思わなかった。ははっ()
「笑える余裕はあるんだね!?」
「むり、た」
一花の声に返事を返した瞬間、体をアンチマジックの光が包み込む。少女が放っていた枝木も魔法による産物だったらしく、アンチマジックによってぼろぼろと空気に溶けるように消えていった。
圧迫感からの解放と共に、背後から腰に手が回されて、引きずられるようにその場から動かされる。盛り上がった筋肉の腕。御神苗さんの腕だ。
「あり、がと」
「構いません! 少し距離を開けますね!」
御神苗さんはYMスーツを膨らませて軽々と俺を担ぎ上げると、一足飛びとでも呼ぶべき速度で戦場から距離を取った。その瞬間、硬いものが砕けるようなバキバキとした音が響き渡り、俺が先ほどまで拘束されていた場所を貫くように一本の樹木が
あれは、食らってたらヤバかったかもしれないな。
エルフの少女は健在だった。あれだけの集中砲火を意にも介さず、彼女が腕を振るう度に緑色のオーラが流れ、その先を樹木が覆いつくしていく。あれが彼女の攻撃魔法なんだろう。即効性はないが、一度絡めとられたら面倒くさい上に締め上げてくる形で継続ダメージが入る。バリアとアンチマジックで防ぐことは出来るが、何度も喰らえば破られる可能性はある。
遠目から眺めていると、恭二たちは彼女の攻撃を受けるのではなく等間隔で並んでいる柱の陰に隠れるなどしてやり過ごし、魔法で攻撃する戦法に切り替えたようだ。
とはいえ、彼女の魔法防御力?はどうも大妖精以上に思えるし、先ほどの言葉が確かなら彼女をただ倒すだけではいけないらしい。大威力の魔法で殲滅といういつもの戦法が使えず、特に恭二が非常にやりづらそうにしているのが見て取れた。
「アンチマジック! くそ、何が起きてるんだ!? リザレクション!」
そんな状況であれば一人でも手が欲しい所だろうが、無様なことに体が思うように動かない。
少し離れた場所の柱に体を預ける形で俺を座らせた後、御神苗さんは何度も魔法を唱えてくれるが、俺の体は動かない。まぁ、内部で絶賛大乱闘スマッシュブラザーズが開催されているせいなんだが、口が上手く動かないせいでそれを伝えることも出来ない。
「片手が下がったのは好機と思えたが……儘ならぬな」
状況を変えなければ。その思いはこちらだけではない。魔法を放ちながら、少女はやけに良く通る声でそう言葉を発した。
「故に、埒をあけるとしよう。我が精鋭よ、ここに」
そう少女が呟いた瞬間、背後から眩い光が発されて、背中を預けていた硬質な石の感触が消えた。あっと言葉を発する間もなくバランスを崩した俺の体は後ろに倒れこみ、なにか柔らかな感触を側頭部に感じながら地面に横たわる羽目になる。
視線の先には、すらりと伸びる健康的な肌色の脚と……
なにとは言わないが、白か。清純だと、俺は思うよ。