最初に動いたのは、御神苗さんだった。
エルフ少女の間の抜けた声に反応するように全員の視線が玉座に向いたその瞬間、もっとも間近にいた罠師の頬に全力の右ストレートをかまし、轟音と共に広間の隅へと吹き飛んでいった罠師を追って走る。
次に動いたのは一花だった。こちらに弓を向けた狩人らしい青年を牽制するように、槍を手に彼の前へ立ちふさがる。沙織ちゃんは鞭を持った女性に、ケイティは魔法使い然とした初老の男性に向かい合う。
『形勢逆転ならず。厳しいな』
「してやられたというべきか。ここまで見事ならば悔しさもない」
エルフの兄ちゃんの言葉に、どこか呆けたような表情のまま少女が答えた。言葉を発するまで気づかなかったが、いつの間にかごく自然に少女を庇う立ち位置に来ている。恭二に負けたとはいえ、やっぱりこの兄ちゃん強いな。
『恭二』
「おん?」
『剣くれ。刀じゃなくて、そっちの兄ちゃんの奴』
「いや、良いけど……イチロー?」
隣にやってきた恭二に横島がそう言うと、恭二は数回パチクリと瞬きをした後、怪訝そうな顔で剣を収納から出した。
差し出された剣のグリップを右手で握り、感触を確かめる。
『イケるな?』
横島の問いかけに応、と答えると、横島はへっと小さく笑った。
『そろそろ抑えきれんから、引っ込むわ』
「了解。助かったよ」
『恩に思うんやったらエロい本かビデオのインプット頼むわ』
「美琴にぶっ飛ばされて来い」
ゲラゲラと笑いあって、不意に体の感覚が完全に戻ってくる。
『イチロー』
体のコントロールをこちらに投げて寄越した横島が、右手から語り掛けてくる。
『俺のこの感情が。ワイの記憶が、お前が読んだ原作のものだっちゅうのは分かっとるんや』
少しずつ内部に潜っていきながら、俺にだけ聞こえるように語り掛けてくる。
横島の声が、右腕を通して俺に語り掛けてくる。
『でもな。それがワイじゃないってわかっとっても。それでもワイは……横島忠夫は、
だから、今。
聞こえるこの声は。どこかで夕日を眺める少女のような声は。
『そんな横島忠夫が、言うべきこっちゃないのは、分かってんだ……分かってんだけどよ』
幻聴なんだと、分かっているんだ。
『あの娘を助けてやってくれ』
だけれど、それでも今感じているこの胸の。
胸からあふれ出しそうなほどの悲しみと、痛みは本物だった。
『――
右腕に力をこめる。誰も宿さない、本当に久しぶりにただ一人の意志だけが乗った右腕が、魔力で構成された剣を強く握りしめる。
右手を構成する魔力が巻き付くように剣へと浸み込んでいく。浸み込んで、そして飲み込んで。まるで横島の
「は?」
恭二の呆れたような声が耳に入ってくる。気持ちは分かるが流石にお前に呆れられるのは癪に障るな。
「魔法はイメージっつったのはお前だろうが」
「いやいやいや話が違うだろそれは。それ物じゃん、物」
「魔力で出来てるからまだセーフ」
「まだってなんだ?」
「オレハワルクヌェって事」
目の前に立つ少女は言っていた。お前は私達と同じだと。お前たちからはダンジョンの匂いがすると。
彼女の言葉が正しいとするならば、俺の右手はダンジョンに近いのだろう。思い当たる節はある。ダンジョンが出現した時に俺は右手を切り飛ばされて、恭二は全身ズタボロにされた。恐らくあの時。あの瞬間、俺と恭二はダンジョンの一部を取り込んで――いや、もしかしたら、ダンジョンの一部になっちまったのかもしれない。
まぁ、そうなっちまったもんは仕方ないわな。なっちまったんならなっちまったで、どうにか生きるしかないんだ。
なら、使えるもんはなんでも使わんといかんだろう。多少物理法則に喧嘩を売っていても、非常識かなって思うようなことでも。
なにせこちとら年がら年中、自分以外の
出来ちまうんなら、やるしかない。
やるしかないなら、やり通すっきゃない。
やり通して。臨んだ未来までの道を貫き通すのが。
「
俺は、俺たちが
「
目を爛々と輝かせてこちらを見る少女にカギを向ける。
「道を開けろ、モンスター」
「押し通して見せろ、探窟者!」
闘いが、始まった。