奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、ドッペルドッペル様、げんまいちゃーはん様、244様ありがとうございます!


第三百三十一話 決着

 振り下ろした斬撃を、半歩横に動いて交わす。そのまま横薙ぎの一閃を放つと、兄ちゃんは振り下ろした剣を跳ね上げるようにして合わせてくる。なるほど。

 

 直後、足元に緑色の光が集まるのが見えたので、兄ちゃんの動きを模倣して背後に跳躍。先ほどまで立っていた場所を緑色のツタが覆い、直後に恭二のカイザーフェニックスがツタを焼き払う。あれ、あいつ俺ごと……?

 

 炎を切り裂くように飛んできた斬撃を剣でかき消すと、斬撃を追いながら地面を滑るように飛んできた兄ちゃんと視線がぶつかり合う。勢いをつけた切り上げに対して、剣を振り下ろして迎え撃つと火花と星が飛び散って室内を明るく照らす。

 

 なるほど、なるほど。

 

 飛ぶ斬撃、振り下ろしの一閃に合わせて踏み込んだ足がキモだ。恐らく瞬動とか瞬歩とかそういう類の技術なんだろうが、踏み込んだ足が一瞬の間にコンマ数ミリというレベルで動いていた。恐らく、あそこで再度踏み込みなおしている(・・・・・・・・・)んだろう。

 

 地面を滑るように移動している秘訣は恐らく魔力だ。飛ぶ斬撃は魔力を空気を切り裂きながら風に纏わせて放つ技だから、同じように足裏に魔力を纏わせて、踏み込みなおした(・・・・・・・)足で微調整しながら勢いをつけて飛び込んでいるのだ。

 

 覚えたぞ。

 

 剣閃に合わせて飛び去る兄ちゃんを追いかける際、足裏に魔力を纏わせてスベる(・・・)。ホバー移動のように追い縋る俺に兄ちゃんはギョッとしたような表情を浮かべながら、悲鳴のような声を上げた。

 

『ほんとにさぁ! こっちの技を、簡単に!』

「簡単じゃないですよ?」

 

 鼻血が出そうなくらいめちゃめちゃ神経研ぎ澄ませて集中してるんだ。簡単なんて一言で言われるのは流石に心外だな。

 

『グッ』

 

 追い縋った俺の一撃を受け損ねて、兄ちゃんの方にキーブレードの一撃が入る。くぐもった声を上げて兄ちゃんが体勢を崩し、地面に膝をつく。

 

「兄さま!?」

 

 好機到来と追撃を放とうとしたら、聞き捨てならない一言を発したエルフの少女から緑色の閃光が放たれた。これまで彼女がこちらに向けて放っていた緻密な操作がされていた魔法とは違い、直線的な軌道でかなりの速度で飛来するものだったが、拙速という言葉が当てはまる非常に拙いものだった。

 

 フェイントもクソもない上に銃弾よりも遅いビームなんて捌くのは簡単だし、何よりも俺にリソースを割いたのは悪手としか言いようがない。

 

 キーブレードで彼女の放った閃光を切り飛ばすのと同じタイミングで、彼女の体を恭二のアンチマジックが襲う。一瞬激しく光った後、彼女の周囲に展開されていた見えざる膜は砕けたガラスのように光りながら空気に散って消えていった。

 

『まだだ!』

 

 転がるようにこちら側に近づきながら、地面すれすれから跳ね上げるように兄ちゃんの剣が飛んでくる。前転回避か、覚えたぞ……ではなく。

 

「焦ったな?」

 

 低空から跳ね上がったきた剣にキーブレードを振り下ろして合わせる。飛び散る火花と星の中、振り下ろしの勢いのままに、キーブレードで剣を押さえつける(・・・・・・)

 

 兄ちゃんは軽快な動きでこちらを翻弄する軽戦士とでも呼ぶべき戦士だ。羽のように軽く不規則な動きで蜂の一刺しをこちらに見舞い、その上飛ぶ斬撃のような一撃で勝負を決める威力の技も使える。

 

 こちらがモノマネなんて反則技を使ったとはいえ、もしもここで焦らずに持ち味を生かして戦い続けていればまだまだ勝負は分からなかっただろう。

 

 手を伸ばせば届く距離に兄ちゃんの顔がある。剣を抑え込まれた現状に驚いた表情を見せ、瞬時に剣を手放してこちらに手を伸ばそうとしている。剣士が剣を捨てる。それを一瞬で判断できる辺り、やっぱりこの人は凄い戦士なんだろうと何度目かもわからない感想を抱きながら、俺も同じくキーブレードを手放した。

 

 青年の動きは鋭く、迷いがない。最小限の動作で勢いをつけた拳撃が、俺の顔を目がけて飛んでくる。目つぶしが出来れば御の字、少しでもこちらを怯ませられれば。そういう考えの透けて見える拳を、円を描くように回した左の掌が優しく受け流す。

 

『……は』

「回し受け」

 

 きょとん、とした表情を浮かべた兄ちゃんの鳩尾に、拳を固めた正拳を打ち込む。グホッと空気を押し出されたような悲鳴を上げて、そしてその場に崩れ落ちる。

 

「正拳突き」

 

 もしも彼が拳の方も剣くらいに達者だったら危なかったかもしれないが、彼の拳闘の技術はそれほど高いものではなかった。鋭さこそはあったが、初代様に散々に扱かれた俺の空手も伊達ではないって事だな。

 

 鳩尾を撃ち抜かれた兄ちゃんはその場で苦しそうにうめき声をあげながら、地面の上でもがき苦しんでいる。流石にライダーパンチとまでは言わないが、魔力を込めた右拳の一発だ。そうそう復帰できるダメージじゃない。

 

 キーブレードを拾い上げ、同じく地に落ちていた兄ちゃんの剣を恭二に向かってけり飛ばす。「危ねっ!?」と悲鳴が聞こえたが味方に火の鳥を嗾けるバカ野郎にはいい気味だ。

 

 少女から緑色の閃光が放たれ、迫りくるそれを切り落とす。恭二が放ったウォーターボールが少女に着弾し、衝撃に耐えきれず後ろに倒れこんだ彼女へと走りこむ。恭二が放ったウォーターボールは弾けず、彼女の顔を覆い続けている。

 

『お嬢様っ!?』

 

 沙織ちゃんと戦っていた女性が、悲鳴のような声をあげてこちらに向かおうとし、それを沙織ちゃんに制止されている。彼女だけではない、一花が戦っている弓手も、ケイティが抑えている老魔法使いも、御神苗さんが抑えこんでいる罠師も。誰もが同じように何とか彼女の救出をしようと隙を探しているが、ヤマギシチームのメンバーに完全に抑え込まれている状況だ。

 

 助けを得られない少女はパニックを起こしたように体を跳ね回らせ、四方八方に緑色の魔力光が飛びまわる。最小限の動きを意識しながらそれを避けて、少女の元へと歩みを進めていく。

 

 別に勿体ぶっているわけではない。暴れまわる魔法の嵐に飛び込むのは流石に面倒が過ぎる。油断をしてラッキーパンチなんぞ貰ったらそれこそ恭二に笑われちまうしな。

 

 それに、もうそろそろだろう。

 

 そう当たりをつけてゆっくりと少女に近づいていくと、やがて彼女はじたばたと空気を求めるように水球を両手で掻き分け始めた。パニックを起こして暴れすぎ、酸欠に陥ったのだ。どうやら思った以上に彼女たちは人間と同じ機能を有しているらしい。

 

 冷静にアンチマジックを展開出来ればもう少し持っただろうに、等と多少上から目線な感想を持ちながら、彼女の前に立つ。水を掻き分ける力が、腕を振り回す勢いが徐々に弱まっている。あまり長くは持たないだろう。

 

 最低の気分だ。死にたくなってくる。でもやらなければ、始まらない。

 

「兄さまはないよ、ダンジョン作った奴死ねばいいのに」

 

 兄妹とかこの世で最も相手したくないチョイスをしたダンジョンの作成者はいつか泣くまで殴り続けてやる、と固く心に誓って、キーブレードを振りかぶり、振り下ろす。

 

 背後から響き渡る男女の悲鳴をBGMにしながら水球を切り飛ばすと、形を失った水球ははじけ飛び、中からずぶぬれになった少女の姿が現れた。

 

「何とかなるのか?」

 

 ケホッ、ケホッと水を吐きながらせき込む少女にキーブレードを突きつけると、いつの間にか背後にいた恭二がそう尋ねてくる。

 

「分からん」

「なんだそりゃ」

「けど」

 

 せき込みながらこちらを眺め、達観したような少女の瞳に抱いた感情が俺に動けというのなら。

 

 ――奇跡をおこすくらいは、やってやれないこともないだろう。ヒーロー(鈴木一郎)

 

 そう自分だけに聞こえる声で格好をつけて、少女の胸にキーブレードを差し込んだ。

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