奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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誤字修正、244様、アンヘル☆様ありがとうございます!


第三百三十三話 牛乳飲めば身長は伸びるのか

 東京都西多摩郡に位置する奥多摩町は、この2年で恐らく世界一様変わりした街だと言っても過言ではないだろう。

 

 かつては美しい野山と湖に囲まれた長閑な町――いや。少し人口の多い村落という呼び方が相応しかったこの町は、ふと気づけば駅前に長大な複合施設が出来、田畑は開発されて巨大なマンションへと姿を変えていた。

 

 毎日のようにどこかしこで工事が行われ、山は削られ、道は広げられていく。つい数年前までは一山いくら程度といった価値しかなかった地価は桁違いに跳ね上がり、土地に愛着のある一部の地元民以外は皆が土地を売り払ってその土地に建てられたマンションへ住居を移している。

 

 学校帰り。駅前をぶらついて、恭二の家のコンビニを冷かして家路についた道は、もう無い。無いというよりは、面影が亡くなったというべきか。

 

 発展するという事は、悪い事ではない。元の奥多摩は都内とは思えないほどに山の中だったから、買い物一つするのにも不便なありさまだった。大学生になればこんな町を出て、もっと都会らしい生活を送ってみたいとも思っていた。

 

 今は、そんな事はない。駅前の複合施設はちょっとしたショッピングモールのような規模だし、山を削って開いたエリアには大規模なホームセンターも出来ている。電車の本数も増えたし、青梅方面に抜ける道路も拡張を続けている。

 

 間違いなく、数年前よりも今の方が住みやすくなった。

 

 それが分かるのに、なぜか少し寂しい。

 

「森だらけの領地よりここの方が何倍も住みやすいと思うが」

「それでいいのか、森の民」

 

 変わりゆく故郷にノスタルジーを感じていた俺を、現実に引き戻す少女の声。

 

 恐らく来年以降の教科書に載ることが確定している少し尖った耳が特徴的な少女は、俺の言葉にハァ、と小さくため息をついて首をすくめる。

 

「発展の余地がなく森の中で生きるしかないから森の民等と名乗って誤魔化していたにすぎん。住めるんなら肥沃な平野の方が良いに決まってるだろう?」

「このエルフ夢も希望もないんだけど」

「夢も希望もあったら魔窟になんぞ手は出さんよ」

「夢も希望もあったけどダンジョンに前のめりに入っていった俺たちはいったい……」

 

 異世界レベルでバカなことをしてたのでは、等と自身の行いを思い起こしながら、俺とエルフさんはヤマギシ第二ビルの中に入る。

 

 ヤマギシ第二ビル――最近では奥多摩ダンジョンビルと呼ばれるようになったそこは冒険者用の店舗や日本冒険者協会の本部、そして中心に奥多摩ダンジョンの受付がある、まさに日本の冒険者たちの中心地とも言うべき場所だ。

 

 エルフさんはその中でも、奥多摩ダンジョンの受付――通称『冒険者の酒場』を気に入っている。

 

「やはりここは良いな。空気がダンジョン内に近い」

 

 最近では魔樹を用いて一部カウンターや机が高級品化しているその部屋で、エルフさんはフスー、と大きく息を吸って、吐き出した。魔樹から漏れ出てる魔力に反応でもしてるのかな、と彼女を観察していると、ダンッと大きな音が響く。

 

 音の発生源に視線を向けると、なぜかガイナ立ちをしながら不機嫌そうな口調で愚痴を言う受付嬢に、ヘルメットを被った犬――の被り物をした青年が答える姿が目に入った。

 

「私の大事な仕事場が工事現場の事務所になってるんですがね?」

「いやー、しょうがないっしょ」

 

 受付嬢の名前は如月芽衣子。世界でも日本でしか許されない贅沢、レベル25の受付嬢。それに応対する犬のコスプレイヤーは現場犬と名乗る配信冒険者だ。

 

「何分こっちも急ぎの仕事だ、って政府から言われてますんで。表で抗議活動してる方々に変な感じに先に入り込まれて、所有権だ起源だって言われるのが嫌なんでしょ。政治家様方も」

「エルフっ娘から正式にイッチが受け継いだんでしょ? というかヤマギシチーム抜きで40層に行ける人類が向こうに居ると思えないんだけどね」

「イッチとキョージくんは我が国が起源だって二年位前から言ってませんでしたっけ? あ、頭撫でますね」

 

 そう口にして、現場犬さんはわざわざ席を立って俺の頭を撫でにくる。なぜこっちに来た???

 

 というか一度もかの国とは関りをもったことがないんだが、何故かかの国では俺の演じるハジメや結城一路はかの国の人間だという事になっているらしい。流石に公式設定以外のパロ設定を声高に主張するのはちょっと止めてほしいかなって。

 

 あと、なんも言わなかったら如月さんもナチュラルに頭を撫でにくるの止してもらえます?

 

「あ、すみません。いやー、本当に変身じゃないんです? 随分と可愛くなってしまって」

「変身魔法はちょっとメンテ中で……小さいって意味ですよね? 可愛いって小さいって意味だよな?」

「ははは」

「イッチ、私は……! 元のイッチのカッコよさも捨てがたいけど……!お、おねショタの魅力に抗えない……ッッ」

「とんでもない事言い始めたぞ、この受付嬢」

 

 こわ。とずまりすとこ……とばかりに距離を取ると、如月さんはガーン、と自分の口で言った後に先ほどまで座っていた机に戻り、ヨヨヨ、と魔樹で出来た超高級品の机を涙で汚していく。

 

「貴殿ら。私の弟を誑かすのは止めてもらおうか」

「別にあなたの弟になったわけじゃないんですがね?」

 

 そんなやり取りを傍目で見て何を思ったのか。

 

 姉を名乗り始めたエルフさんは、現場犬さんから俺を後ろ手に庇うようにすると、ガルル、と擬音が聞こえそうな表情で彼をにらみつける。

 

 俺たちが奥多摩ダンジョン40層から帰還して3日。もう何度目になるかも分からないそんなやり取りを楽しそうに眺める現場犬さんを眺めながら、自分の頭にポンと手を置いてみる。

 

 現在の身長、153cm。美形のエルフ少年になるというご褒美と30cmも身長を失うという男にとって再起不能レベルのダメージを受けて、早3日。

 

 牛乳飲めば、元に戻るんだろうか。戻らないかな。戻ると良いなぁ。

 

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