あんまりにも嬉しくてちょっと早く書き上げちゃったのでコミックシーモアの奥多摩個人迷宮(フルカラーコミカライズ)を宣伝させてください。
コミックシーモア 奥多摩個人迷宮
https://www.cmoa.jp/title/271870/
誤字修正、244様、ドッペルドッペル様ありがとうございます
祖父ちゃんと姉を名乗るエルフ少女がやたらと仲良くなって困った。
「弟! 速く爺の家に行くぞ!」
「鈴木さん! 40層攻略について一言!」
「ノーコメントで」
「あの少女との関係性は一体!」
「その変身はいつまで続けるんですか!?」
「新作映画の噂は本当ですか!!」
「女優の――さんとの関係について!」
「ノーコメえ、誰それ?」
何が困ったって、やたらと祖父ちゃんの家に行きたがる姉を名乗るエルフ少女に合わせる形で実家に帰宅すると高確率で取材陣に囲まれるのだ。SPさんたちはエルフ少女を守るために動いてくれてるが、その分手薄になった俺は家に入るまで取材陣に囲まれるわけで。
こういう動きにくい時こそスパイダーマンの出番なんだが、残念なことに現在俺の体は変身が出来ない。
というのも現状、俺の体は本来の姿とは全く違う状態らしくその状況で変身を行うのは危険……らしい。説明してくれた結城さんもここ最近の騒動続きにかなり疲れた様子で、頼むから暫く変身は控えてくれと言っていたので俺はその判断に従った。
現状、結城さんを始めとした頭脳労働が出来るキャラクターが頭を悩ませて体の安定化と元の状態へ戻すために知恵を絞ってくれているので、少なくともその結果が出るまで変身はお預けだ。
という訳でこの場から上手く抜け出すことも出来ず。また、強化された身体能力では無理に押し通ろうとするとそれだけで何人か“挽き”殺してしまうので力押しすることもできず。結局騒ぎを聞きつけた祖父ちゃんが報道陣を一喝して散らすまで、俺はマイクでもみくちゃにされるハメになった。
「実の兄がショタエルフになってモテモテすぎる件について……っと」
「好きでマスコミにモテてるわけじゃないんだけどな。それと、なんだその何年か前にどこかの小説サイトで流行ってそうなタイトルは」
「え、今まさに流行ってるくらいのタイトルじゃない?」
北海道から帰って来た妹の言葉にジェネレーションギャップを感じながらお土産の恋人を名乗るラスクを齧る。北海道の夕張ダンジョンでは夕張メロンを使ったラスクを『ダンジョンの恋人』と名付けて販売し、結構な収益をあげているらしい。
商魂逞しいなぁと思いながら隣に座る姉を名乗るエルフ少女にそれを渡すと、彼女はおっかなびっくりといった様子で包装を開けて中のラスクを渋い顔で眺めていた。
「あれ。姉を名乗るエルフさん、どうしました?」
「お兄ちゃん、いい加減名前で呼んであげれば?」
「ううむ。これは、――――か……? 固いから嫌いなんだが」
「似たような食べ物がある……もしや噂に聞くレンバスか?」
「レンバス。こちらの言葉ではこの菓子をそう呼ぶのか。あれはまぁ貴重品ではあるし甘いのだが、歯が欠けそうなほどに固いんだよ」
「それはめちゃめちゃ柔らかいんで大丈夫ですよ?」
「スルーは酷くない?」
「ほんとか? 弟、信じるぞ……?」
宥めすかしてみると姉を名乗るエルフ少女は「ええい、ままよ!」とどこからか調達したらしい語彙を使って『ダンジョンの恋人』に齧りつき、次の瞬間に「あまーーーーーい!」と叫び声をあげた。
「相変わらずべったりなんだな、この娘」
「ダンジョン外だと俺から離れられんしな」
恭二の言葉にそう返事を返す。今の所姉を名乗るエルフ少女は、ダンジョン外だと俺から50m以上離れることが出来ない。比喩とかではなく物理的な話だ。
見えない線のようなもので俺と彼女は繋がっており、ダンジョン外部に出るとそれが俺と彼女の行動を縛っている。縛るというよりは、互いに距離を離れることが出来ない、と言ったほうが正しいか。何度か距離を離せないか実験してみたものの、それらは全て失敗してしまった。姉を名乗るエルフ少女を車に乗せて走った時はウェブを使って大型ヴィランを止めようとするスパイダーマンの気持ちが味わえた。もう2度とやりたくない。
また、彼女はダンジョン外ではそのケーブルを通して、肉体の維持のための魔力を俺から受け取っているのが分かった。つまり、変身の発展形の一つであるヒーローの形成とほぼ同じ原理で彼女はダンジョン外でも受肉しているのだ。
まぁ、元になった形成はダンジョン外だとあっという間に魔力が切れる極悪燃費だったがこちらはかなりリーズナブルというか、全然負担がないから別物ではあるんだろうが。
彼女とつながるこの見えない線のようなものを、アガーテさんは“魔力ケーブル”と名付けた。本来ならそろそろドイツに帰るべき彼女が今も元気に奥多摩で俺に襲い掛かっているのは、この“魔力ケーブル”がどういう物なのかを解明するためだったりする。
「あ、だからアガーテさんがまだ居るんだ」
「真一さんが物凄くこの魔力ケーブルってものに興味持ってるからなぁ」
「うまい!うまい!うまい!うまい!」
これが解明できれば一切のロスなく送電線のように魔力を送る事も可能になるかもしれない。魔力エネルギーの開発に日夜邁進しているヤマギシとしては興味津々な存在だ。
あと姉を名乗るエルフ少女さん。そんなに食べると夕飯が入らなくなりますよ?
「所で北海道はどうだった?」
「あー、うん。ネズ吉さんは相変わらずだったけどあの人もう個人で30層超えちゃってたねぇ」
「超えちゃってたかぁ」
「ボス部屋以外は本当に私たちやること無かったなぁ」
暗にそれ以外はアンブッシュで全部処理してしまってるんだろうな。
「まぁ、40層は突破したよ。夕張ダンジョンも」
「お、お疲れさん」
直接面と向かっての殴り合いって意味だとネズ吉さんは確かにヤマギシチームに劣るが、何でもありって場合あれほど怖い冒険者はほかに居ない。目の前にいるはずなのにネズ吉さんを見失って真正面から首を掻き切られたモンスターを見れば、どんな人でもあの人を侮ろうなんて考えないだろう。
前回のメンバーから俺とケイティを除き、代わりにネズ吉さんと最近新婚になった岩田さんを加えた6人で40層を再攻略出来たんだから、総合力で見ればあの人もヤマギシチーム級だと言える。
まぁ、その辺は兎も角として、だ。
「どうだった?」
「40層を攻略して、次の日にエレベーターを使って40層を確認してきた」
なにが、とは言わずに問いかけた俺の言葉に、反応したのは一花ではなく恭二だった。少し苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべた後に恭二は口を開く。
「40層は、セーフティーだ」
恐らく、世界中の政治家が望んだ言葉を吐き出して、恭二は深いため息をついた。