奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百三十七話 魔法剣

「40層を攻略した後、あそこは元々拠点として利用できるように作られている。意味は分かるか?」

「皆さんが北海道へ赴いている間に、こちらでも色々試してみました。まずはこれをご覧ください」

 

 姉を名乗るエルフ少女の言葉に、俺たちの装備、特に武器開発を担当してくれている刀匠・藤島さんが続けるように口を開く。

 

 言葉の後、彼は一本の刀を取り出した。特に拵えにも特徴のない、傍から見れば普通の刀にしか見えないそれにその場全員の耳目を集めた後、彼は小さく「抜きます」と言葉にして、鞘から刀を抜く。

 

 ――最初に感じたのは、熱だった。

 

 抜き放たれた瞬間、周囲の空気が歪むほどに強烈な熱を放った刀は、ただそこにあるだけで周囲の温度を引き上げ続けている。

 

 燃えているわけではない。ただ、熱い。

 

「―――の工房を使ったな? 良い剣だ」

「……魔法剣? それは、ええと」

「ええ。魔法剣です。付与しているわけでも、ファイアーボールを纏わせているわけでもありません。そうあれと打ち、そうあるように作られた本物の、魔法剣です」

 

 藤島さんは言葉を震わせながら、ゆっくりと。噛みしめるようにそう口にして、刀を鞘に納めた。

 

「エアコントロール越しでも分かる位に、発熱してましたね」

「ええ。軽く魔力を通すだけで熱を持ちます。恐らく、2000度近くまで上がります」

「なんでそれで刀身無事なんですか」

「わかりません」

 

 いっそすがすがしい程にそう言い切った藤島さんに全員の視線が集中する。

 

「作業工程は、地上と同じです。違うのは場所と、人間です。私は普段一人で打ってますが、この刀を打った時は、ええと。あの」

「―――だな? ああ、そうか。こちらの言葉では認識できぬか」

「体格のいいエルフの、そう。鍛冶師の男性を指すならそれで間違いありません。彼に相槌を頼み、こちらの流儀で刀を打ったらこれが出来上がりました。彼は非常に腕のいい鍛冶師でした。これは、良いものです」

 

 そこまで口にしてから、藤島さんは深く大きなため息を吐く。

 

 良いものを打ったと言うのに表情が暗いのは、これを為したのが自分の力ではないと思っているからだろうか。

 

「―――は故国でも随一と言われる鍛冶師だったが、この国でもその腕は通じたか。色々と面白い国だが、一つの分野で通ずるものがあるなら我々の都も役に立つだろう」

「都っていう規模じゃないけどね!」

「ダンジョンに必要な部分だけが再現されているが、我々の都は、元はもっと大きな都市だったんだぞ。確かにお前らの都は人も建物も大きいが」

 

 一花の言葉に姉を名乗るエルフ少女が張り合うようにそう口を尖らせる。

 

 彼女を新宿駅前に連れて行ったらどういう反応をするんだろう。少しやってみたいな、と考えていると姉を名乗るエルフ少女が怪訝そうにこちらに視線を向けてくる。

 

 魔力ケーブルで繋がっているためか、近距離にいるとなんとなく互いに考えている事がわかるせいで、あまり隠し事ができない。

 

「40層だと、他に利用できる施設はどういったものがあるんだっけ」

「うむ。私以外の12名には家屋があるだろう? 彼らはそこでそれぞれの役割に応じた働きをしてくれる。戦士長ならば戦士の訓練を。商人であれば我々の故国のアイテム販売を」

「でも通貨はダンジョン内で手に入る奴だけなんでしょ?」

「うむ。後は素材を売れば換金してくれるぞ? もちろん商人の手持ち以上には買い取れないが」

「MMOの商人プレイかな???」

 

 誤魔化すために他の役割について尋ねると、コロッと誘導に応じた姉を名乗るエルフ少女と一花の会話が始まる。

 

 ここで話題に出てくる通貨とは、10層ごとに存在するエレベーターホール前の特別なボスを倒した時に出る宝箱の中身の事だ。

 

 今まで全く使用用途が不明だった硬貨にようやく使い道が誕生したのは嬉しいんだが。それほど量のないアレだけでどれだけ買い物が出来るんだろうか。

 

「買い物以外でも訓練を受ける際には謝礼が必要であるし工房を使用する際にも当然使用料は必要だ。農場を借りたいとも言われていたが、その場合は一区画ごとに銅貨なん枚という形になるだろうな。その辺りは担当の者に確認してくれ」

「ローグライクから経営SLGになったのかな???」

「なんで40層なんだよ。これ10層くらいに在った方が良い奴だろ」

「知らん。恐らくは奴も学んでいる途上なのだろう」

 

 恭二の愚痴にも似た言葉を姉を名乗るエルフ少女は一言で切って捨て、不機嫌そうに言葉をつづける。

 

 彼女が言う奴というのは、おそらくダンジョンの造物主だろう存在だ。

 

 俺と彼女。そして“扉”を開けた時すぐそばに居た恭二は、確かにあの瞬間に奴を知覚した。おぼろげながらも見ることが出来たのは俺だけだったが、二人は確かにあの瞬間、扉の向こうで興味深そうにこちらを観察するナニカの存在に気付いた。

 

「私たちの時もそうだった。奴は魔窟に潜る者の成長を望んでいる。その世界に合わせたやり方で、魔窟に人を誘うのだ――それがどういう理由で行われているかは、知らんがな」

 

 そこまで言った後、彼女は座っていたソファに深く腰を沈めて、むすっとした表情で黙り込んだ。

 

 姉を名乗るエルフ少女と彼女の一党は、記憶がほとんど残っていないらしい。恐らくはそこまで再現されていなかっただけなんだろうが、自分が造りものであるという事をこの上なく実感させてくるその事実が、彼女にとって非常に苛立たしいようだ。

 

「――ところで、これ。どう考えても貨幣が足りないと思うんだけどさ。その辺ってどうなるの?」

「うん? 手持ちの金銭では賄えぬのか」

「流石に宝箱の通貨だけだとね。貨幣量全然足りないと思うよ」

 

 場の空気が悪くなったのを悟ったのか。一花が話を変えるように話題を切り出すと、姉を名乗るエルフ少女も気を取り直したように会話を始める。

 

 確かに、宝箱に入っていた通貨がどれだけの価値があるかは分からないが、せいぜい硬貨数枚という内容では満足に店舗を利用することも出来そうにない。

 

 別に初回踏破だけじゃなく、新規PTが攻略するたびに宝箱は手に入るらしいんだが、それだってそこまで多いわけじゃないし大体の冒険者は20層まで行けるかどうかってレベルだ。全冒険者が持っている通貨をすべて集めればまた話は変わってくるだろうが。

 

「なるほど。であれば通貨を発行するしかあるまいな」

「……おおっといきなり話の規模が変わったぞ? え、いや。そうかあそこってよく考えれば城だし姫ちゃんは王女って役割だろうから」

「王たる我が弟が玉座で“そうあれかし”と発すれば貨幣も用意できるだろう」

 

 な、我が弟! と曇りなき笑顔でこちらに話を振る姉を名乗るエルフ少女の言葉に、その場に居る全員の視線が俺に集中する。

 

 いや、こっちを見られても何も分からないんだが。え、そうなの?

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