「そうあれかし」
ペカー
「ありがとうございます。次はゴブリンの短剣2万本ですね。現在のレートだと金貨で26枚、銀貨4枚に銅貨が52枚です」
「おかのした」
「次の搬入入りまーす!」
殺風景だった内装を近代的に整えられた玉座の間で、玉座に座って「そうあれかし」と呟く。それがここ一月の仕事になりました、鈴木一郎です。
持ち込まれたダンジョン産の物資――ほとんどが低層のモンスタードロップだ――に手を向けて変換すると、ペカーっと光った後にその場には十数枚の硬貨が落ちており、職員はそれらを種類別に分けてアタッシュケースに分けて詰めていく。
この硬貨はダンジョンの40層でしか使用できないものだ。使用用途もこの階層にある店舗や田畑、訓練施設といった設備を使用する際に支払うものでかなり限定されている。
そのため、一先ずは少量ずつ。直通で40層まで来れるようにはなったが安全性を考えるとあるレベル以上の冒険者以外は入れない方が良い、という恭二の主張もあり、ゆっくりとこの階層の有用性を調べていこうと、当初は考えられていた。
だが、ヤマギシという会社がなぜこれほど急激に膨張したのか。ダンジョンが世にどれだけの影響を与えるのかを甘く見ていたこの考えは、あっさり覆される事となる。
最初は訓練施設だった。ダンジョン40層マラソン中の恭二が試しに、と自身の持っていた硬貨で戦士長の訓練を受けたのだ。
魔法を主軸に接近戦も、というどちらかというと魔法戦士とでも呼ぶべき恭二は、接近戦を安定して戦える技術を求めていた。戦士長はなるほど、と恭二の相談にのり、それならば小盾を使った防御技術。いわゆるパリィを覚えてはどうかと言った。
そして恭二に盾を持たせた後、こういう風にやるのだ、と何回か実演を交えて伝えると、恭二はパリィを覚えていた。
比喩ではない。魔法を唱えれば魔法が出るように、パリィを使おうとすればパリィが使えるのだ。自然と、その動作が、行われるのだ。
もちろんその日のうちにヤマギシ家族会議が開催され、満場一致で社員のスキルアップのために使用することが可決された。この段階で嫌な予感はしていた。
次に起きたのは農場と、牧場だ。この農場では畑の一区画を有料で貸し出しており、そこの維持管理をエルフの農夫さんがやってくれる。こちらは種子を提供してお金を払うだけで育ててくれる上に稲作までやってくれるそうなので、40層開通初期から利用していたのだが。
そこで作られた作物がヤバかった。米とか特にヤバかった。なんかヤバいとしか思い浮かばないレベルの作物が出来上がったのだ。
まず成長が速い。尋常じゃなく早い。預けて1週間くらいで普通に完成してる。牧場〇語でもやってるのかという生育速度だ。そして普通に炊いただけでも匂いが凄い。米が炊き上がる匂いだけでご飯が3、4杯いけそうで、炊き上がった米を盛りつけたら一瞬蒸気に虹が垣間見えた。
実際に食べた後も凄かった。一口一口噛みしめるたびに甘みと旨味がコラボして胃袋を殴りつけてくる。これでお替りをしないなんて米に対する冒涜だ。結局おかずも食べずに最初の数杯はお替りする事になった。
そして効能。これが一番問題というか、ヤバいとしか言えないのはこの辺なんだが。
まず、ダンジョンの農場で作った作物を食べるとどうもバフがかかる。魔力が全身にみなぎる感覚というか、なんというか。実際に冒険者用の体力測定機器で試してみると、ダンジョン農場産の作物を食べた時と食べないときでは1.5倍ほどの開きが出ていた。
同じく農場でも既存の家畜。例えば牛や豚を飼育する事が出来るため、なぜか牧場主ではなく牧童と呼ばれているエルフの少年に預けて育てた結果、子牛や子豚が1週も経たずに成熟し美味しいお肉になった。ちゃんと一頭分のお肉になって木の箱に詰めて氷漬けで手渡してくれた。
そしてこちらを実食してみると、まぁ素晴らしい。本職のステーキ屋さんであるブラックさんに調理をお願いしたところ、調理場から味王様ビームみたいな光が漏れ出ていたし、漂ってくる匂いだけで涎が止まらなくなった。
実際に出てきたお肉は周囲で漂う湯気が虹色みたいな光彩を放っていて、つい食べる前に拝んでしまったが、アレを目にした人はきっと同じことをすると俺は確信している。
味? 味は、何故かよく覚えていない。気づいたらステーキ皿は空になっていて、2枚目を再注文していた結果だけが残っている。勿論2枚目の味も覚えていない。
この結果にアガーテさんは発狂した。元からたまに狂ってるような気もするが、いい加減帰って来てくれお前はドイツ冒険者協会のトップなんだぞ、とドイツからの電話で泣きつかれた際に『私はこの農場で作ったジャガイモを常食できるようになるまで帰らないぞ! 良いかフリじゃないからな!』などと叫び声で返したほどだ。
食い物は、まぁ、しょうがない。割とガチ目にアガーテさんにはお世話になっているので出来る限り要望には応えるつもりだ。
「さしあたってはヤマギシチームでドイツのダンジョンを1つか2つ解放して差し上げてですね。もちろんメンバーはベストメンバーで」
「鈴木さん、次です、今日は後13回になります」
「はい」
この造幣局、持ち込まれた物資の分しか貨幣にすることが出来ないせいで一度に大量に貨幣を作るという事が出来ない。当然需要に全然間に合わせられないため、俺は土日も惜しんで毎日「そうあれかし」と叫ぶ日々を送っている。
これが無能上司の末路の一つ、判子マシーンか。漫画やアニメで見る分には楽そうだと思っていたが、ただ座って同じことを繰り返すって中々辛いもんだな。