1日8時間豪華な椅子に座って「そうあれかし」と呟くだけの簡単な作業を初めて1月。積んでいたゲームや漫画、アニメのDVDで玉座の周辺は俺の部屋と化していた。
唯一の不満と言えば流石にこの階層だとネット環境がないくらいか。エレベーター越しにはネット環境を築くことが出来ないし、10層からそれ以降にインフラを伸ばすには手と人員が足りなさすぎる。
「鈴木さーん、次はワーウルフの牙1万個です」
「そうあれかしー」
ペカー
ネット環境がいらないPS2のゲームで円卓の鬼神になりながらそう口にすると、部屋の中が光に包まれ、次いでチャリンチャリンと硬貨が地面に落ちる音がする。良い音だ。なんど聞いても聞き飽きない。
「お兄ちゃん」
「行くぞ! 臆病者!」
「いやそれ臆病者はサイファーじゃ。違う、おーいお兄ちゃん!」
なぜか飛んでくるビームをかわしながらミサイルを放っていると、グイッと耳を引っ張られる。あ、ちょ。今その耳敏感なんだからやめ、やめるぉぉ(巻き舌)
「あ、起きた起きた」
「兄はずっと起きて居たんですがそれは」
「なら早めにこっちに気づいてほしかったな???」
半ば無意識で仕事しながらゲームをしていると、随分と久しぶりに感じるマイシスターの姿がそこにあった。
あれ、確か今、俺を覗いたヤマギシチームは40層解放マラソン中じゃなかったかな。一花もそっちに付いて行ったと思ってたんだけど。
夕張ダンジョンの40層を攻略した後、恭二を含むヤマギシチームはそのまま日本中のダンジョンを40層まで解放する事になった。40層の有用性を考え、これは至急で済まさないといけないと判断されたからだ。
ダンジョン攻略は身の丈に合った階層を、という信条をもつ恭二は反対よりだったが、40層で訓練をする効果が思った以上に大きい事と安全に魔樹を伐採できるという経済的な利点、それに現状では本当に40層がセーフティーエリアであるのか、奥多摩と夕張だけが例外なのではないか、という疑問がぬぐい切れないため、最終的には日本に存在するダンジョンは全て40層まで解放するということで納得したらしい。
俺はその会議に参加しなかったので伝聞だが。その会議の時も元気よく「そうあれかし!」と言ってたからな。
「それで、無限そうあれかし呟きマシーンと化した兄に何の用だ妹よ」
「あ、これ大分ダメージいってるね???」
「だって、この仕事、ちょう、つまんね」
一言一言はっきりと、区切りながらそう言葉を発する。大事なことなので聞き逃されたら溜まらんからな。最初のうちは姉を名乗るエルフ少女が横に居てひっ切りなしに話しかけてくるのでまだ我慢できたが、あの娘も大概飽き性だからな。
1週間もしないうちに「ちょっと遊んでくる!」と言って検証のために各訓練所を回っているヤマギシ社員や奥多摩ダンジョンで教官を務めている冒険者の群れに突撃していき、今ではちょっとしたアイドル扱いらしい。可愛いエルフだしね。仕方ないね。
おかげで彼らが外に出る前に「イッチさ。いい加減、あの娘に名前つけろよ」って割とガチ目な説教をされるんだ。いや、俺だってさ。いい加減姉を名乗るエルフ少女なんて呼びたくはないんだけど色々事情があるんだよ。
今の俺と彼女は魔力ケーブルで繋がっている。ダンジョン外と違って内部だとどれだけ離れても問題ないのだが、それでも繋がっている実感はある。
そんな状態で俺が彼女の名前を決めてしまうと、それが彼女の“本当の”名前になりかねない、らしいんだ。
その辺は正直俺も理解していない。けれど、他でもない彼女本人がそう言ってるんだから間違いないんだろう。
彼女にとってはむしろバッチこい、らしいんだが。
俺としてはどうもその辺、踏ん切りがつかないというか。
「でも他のエルフさんもお兄ちゃんしか命名権ないんでしょ? 王様だし」
「なんで俺が王様なんだろうな」
「キーブレードぶち込んだからでしょ」
端的にはっきりと口にした妹の言葉に、はい。と頷きを返す。ぐうの音も出ないとはこういうことなんだろう。
あの場面の事は一切後悔していないしまた同じ場面に遭遇したら同じことをすると断言できるが、とはいえ現状の事を考えると色々「やっちまった」と思ってしまうのは否めない。
変身能力が機能不全を起こしているのは、まぁ飲み込めるとしても現状一人で造幣局やってるのは流石に何とかしたいもんだ。ヤマギシの社内ルールとして1日8時間労働だけは順守しているが、このままのペースで一人で供給とかいう話になると本気でこの40層から離れることが出来なくなる。
この仕事が大切なものだってのは分かっているんだが、俺には正直全然合わない。この1月言いすぎて「そうあれかし」と呟くと時折気が狂いそうになるんだ。
「あ、うん。本当に大変だね……?」
「日本刀持ったシスターが嫌いになりそう」
「完全にとばっちりで草」
「兄の一大事に草生やしてるんじゃない」
「ごめんて。まぁ、そんなお兄ちゃんに朗報だよ!」
ケラケラと笑う妹に兄としての威厳たっぷりにそう注意すると、一花は笑いながら頭を下げてピン、と指を立てる。
「今、このお城の上で実験してたんだけどさ。造幣局、なんとかなるかも」
本当は明日更新予定だったんですがまた一つ齢を重ねた記念にちょっと早く書き上げました(嘘)
今年もよろしくお願いします(抱負)