奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十話 そこで私は賭けに出た。

「そこで私は賭けに出た。一路が目の前にいるのに手を出すことが出来ない状況にうんざりした私は賭けに出たのだ。だからありとあらゆる結城一路グッズで埋め尽くされた箱の中に閉じこもり、餓死する前に映画内43分時点の戦闘によって受けた傷によりズタズタになってエッチすぎる革ジャンを身に着けた一路が箱を開けて引き出してくれるのに賭けたのだ」

「意味が分からないが、お前は弟が好きなのか?」

 

 階段を上り屋上に出ると、目の前で怪談が話されていた。

 

 ハッハッハッ、我ながらうまい事言えたな。よし、昼の休憩も済んだことだし頑張って「そうあれかしー」してくるか。勤労は国民の義務だからな。20歳になったしちゃんと働いてお国にご奉公しないと。

 

「はい、気持ちは分かるけど行くよお兄ちゃん」

「アレを見てくれ、一花。姉を名乗るエルフ少女ともうアレとしか言えない魔女帽を被った20代後半の女性がへのへのもへじと書かれた何故かうちの中学の制服を着た案山子みたいな物体を挟んでアレな会話を繰り広げているんだよ」

「うんうん」

「近寄らない方が良いだろう?」

「うーむむむ否定できないなぁ!」

 

 見ている分には同年代の少女同士で会話に花を咲かせているように見えるが、会話の内容を聞けば10対0でいたいけな少女をダメな大人が騙しているとしか思えない。

 

 俺の言葉に一花はひどく悩ましげな表情で眉を寄せる。否定する材料を探しているのか「うーん」とかわいらしい唸り声をあげて思案しているが、中々言葉が思い浮かばないのか首を右に倒したり左に倒したりと考え続けているようだ。

 

 これは間違いなく論破した。勝ったな、風呂入って来るか。

 

「でもここで回避に成功しても今度はアレもって玉座の所に行くだけだよ?」

「回避手段をワ〇ップで探してくるからちょっと待っててくれない?」

「お兄ちゃんは逃げられません! 理由はもうお分かりですね? お兄ちゃんが逃げたとして30分もすれば彼女たちはアレをもって問答無用で玉座の間にやってくるからです!」

「覚悟の準備をしておく時間くらいくれよ」

「どんまい!」

 

 ただ一言で切って捨てられ、一花はズルズルと俺を引きずって歩き始める。なぜかくも現実は世知辛いのか。

 

 

 

「この階層の権限を有する弟なら役割を分担する事自体は問題ないんだ。ただそれをするには役割を振るべき存在が必要で、それは外部からの人間である探窟者にすることが出来ない。私達のように魔窟で生まれた存在でなければ役割を与えられないんだ」

「すみません、腹切って詫びます」

「お、おお。どうした弟? ぽんぽん痛いのか?」

「思った以上に真面目な話だったから恥ずかしくなっただけだよ! 姫は気にしないでいいから!」

「う、うむ?」

 

 ワイは恥ずかしかっ! 生きておられんごっ! と叫びそうになるのをなんとか堪えてその場に正座する事で謝罪をアピールすると、姉を名乗るエルフ少女は不思議なものをみるような目つきでこちらに視線を向けてくる。

 

「この案山子。便宜上フォーゲルくんと名付けたが、こいつは魔樹と魔鉄で全身を組んである。衣服はマスターから提供して頂いた一路の中学時代の制服だが」

「弟と関連付ける上でなじみのある物品が必要だったからな、すまんが借りているぞ」

「それは全然かまわないんですが、なんで俺の制服ちょっと全体的に汚れてるのかな???」

「この案山子に着せる際にはもうこの状態だったが……汚してしまったならすまん。許せ、弟よ」

 

 そう言って頭を下げる姉を名乗るエルフ少女に気にしないでくれと首を振る。中学生が3年も使っていたのだ。当然大分草臥れているのはしょうがないだろう。まぁ、卒業した後にクリーニングに出して仕舞った際には結構綺麗になっていたと思う。

 

 そう思っていたのだが、仕舞う前は少なくとも胸元とかについた染みっぽい何かはついていなかったと思うし、それを姉を名乗るエルフ少女が付けるとも思えなかったのでその旨を視線に込めてアガーテさんに向けると、アガーテさんは満面の笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「良いにおいがしました!」

「私貸す前に汚すなって言ったよね???」

「この御仁、腕のいい錬金術師だったがどうにも中々変わっているところがあるな」

「これをそう言える辺りやっぱり器が違うなって」

 

 悪びれもせずに言い切ったアガーテさんに一花が詰め寄る姿を眺めながら、ケラケラと笑うエルフ少女の言葉に格の違いのようなものを感じさせられる。

 

「アガーテと弟の妹は忙しそうだし、さっそくこれを使ってみようか」

「あ、はい」

「この案山子。アガーテの名づけでふぉーげる?か。こいつは全身を魔窟から産出された金属と木材で作成している。魔力が馴染ませやすい素材と弟に関連付ける物品で出来ている」

「ふむふむ。構造は結構単純な造りなんですね」

「単一の役割を持たせるだけだからな。難しい自己判断を下せる魔法人形を作る場合はもっと複雑な構造にするが、今回はこれで十分だ。とはいえ魔力を良く溶かしこんだ鉄を芯としてエルフェンウッドに入れ、互いの属性が反発しないよう整えなければならん。弟に懸想している錬金術師殿は実に良い腕をしている。あれほど金属を自在に操る術師はかつての我が国にも居らなんだ」

「アガーテさんは俺自身に懸想してるわけじゃないんですがね」

「う、うむ?」

 

 少し哲学的な事を言ってしまったためか姉を名乗るエルフ少女が妙な表情で首を傾げた。

 

「それで、俺はここからどうすればいいんですか。思った以上に真面目にやってくれてますし出来る限りのことはさせてください。そろそろ「そうあれかしー」って言うの疲れてきたんです」

「玉座の権能を使う場合は念じるだけでも良いんだがな」

「待って」

「とまれやる事は単純だ。私たちが作成した案山子を依り代にすれば単一の権能であれば委託することが出来るだろう。ああ、一応言っておくが私や我が配下たちにはそれぞれ役割が振られている」

「ちょっと待って???」

「単一の権能とはいえ新しく役割を振る事はできないから、弟の持つ役割を振り分けるにはこのような人形か、私たちのように意思を持ちかつ役割を持たない存在を中身にあてる必要がある」

「あの。素材を換金するのって別に言葉はいらないんですか?」

「うむ。最初のうちは思考がズレるのを避けるために言葉を使った方が良いが、必須という訳ではないぞ?」

 

 ここ1か月ほどの地獄の苦しみを思い返しながら尋ねると、姉を名乗るエルフ少女は特に気負った風もなく、さも当然という口調で頷きを返した。

 

 そうか。あれ、別に、いらなかったのか

 

 この世の無常に襲われて膝をつき、ちょっと蹲ったところに後悔がドスンと伸し掛かって来るとでも言うべきか。本当の衝撃に襲われると人間って割と簡単に立てなくなるんだな。

 

「……大丈夫か、弟よ。なにか辛い事があったなら姉の胸で泣いても良いのだぞ?」

「あ、いえ。自分の不出来を恥じてるだけなんでお気になさらず……それで、自分は何をすればよろしいのでしょうか」

「う、うむ。依り代は用意したから、後は中身を用意しなければいけない。弟の妹によれば弟は自身の内部世界に数多の英雄を住まわせていると聞いた故、彼らに力を借りてはどうかと思ってな」

「それは、俺から彼らを切り離してって事ですか? その、もう戻せないとか」

「この40層は弟の領域だ。いわば、この40層自体が内部世界ともいえる。依り代こそ必要になるが、一時的に存在の置き場所を変える程度ならそう難しい事じゃないだろう」

「わかりました適任(横島)が居るんでそいつにやらせますたのんだぞ横島」

『おっ前ふざけんなよ!!!? なんでワイがあ、ごらてめぇら何を――』

 

 反射的に口から出た言葉に、久しぶりに右手に口が現れて横島忠夫が叫び声をあげた。が、瞬時に鎮圧されたのか口が消え、そして右手がうじゅるうじゅるとうごめいた数秒後。

 

『準備出来たわよ。1月くらいやらせればこいつも大人しくなるでしょ』

「お、おう」

『それ以降は交代制で私たちの誰かが入るわ。あと、その依り代っていうのは出来ればもう少し良いものを用意してほしいわ。例えば両手が使えるような――そうね、両手両足があれば望ましいわね。あ、こいつ(横島)が入る場合は案山子(それ)でいいわよ。下手に両手両足があると何するか分からないから』

「おかのした」

 

 再び動き始めた右手の口から聞こえてくる美琴の声にそう返事を返すと、彼女は満足したのか口を閉じた。

 

 今、俺の内部ってどうなってるんだろうか。怖いもの見たさのような感覚でそう考え、いやな予感がしたのでその考えを振り捨てる。危うきに近寄らないのが一番って中国の偉い人も言ってたしな。

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