奥多摩個人迷宮+   作:ぱちぱち

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第三百四十一話 案山子

「おんなのぉぉぉぉちち! しりぃ! ふとももぉぉぉぉぉおお!!」

 

 半ば観光名所になりつつある案山子の叫び声が響くと、その日の業務は始まる。

 

 今日も一日ご安全に! という掛け声に合わせて「ご安全に!」と唱和し、列を崩して各々の職場へと向かう職人や作業員を尻目に、ヤマギシ一般職員のAはジャラジャラと音を立てて地面に落ちた硬貨を拾い上げる。

 

「ワータイガーの牙3万個で金貨が50枚に銀貨が」

「メガネぇ! 朝一の分が終わったんだから、早く! 早く再生してくれ!」

「ああ、はいはい」

 

 Aが地面に落ちた硬貨を選別しようとしていると、玉座に縛り付けられた案山子が大声を張り上げる。少しは待ってほしいなぁと思いながらその考えを噯にも出さずにAは一先ず拾った効果を専用のコインケースに収め、案山子の前へ近づいていく。

 

 元からあった玉座の近辺は、その日そこで作業をする者のために簡易なリフォームが為されていた。鈴木一郎が読むために用意した漫画や小説などが並んだ本棚に、ゲームやアニメを見るために用意された大型テレビとその台座。そしてDVD対応のブルーレイディスクプレーヤー。このブルーレイプレーヤーを動かすためのリモコンは紐でくくられており、案山子の首にぶら下げられている。

 

「はい、じゃあ朝の分の報酬として15分再生しますね。次の便が来るのは」

「わかっとる! わかっとるから、早く! はよしてくれぇ!」

 

 腕時計を眺めながらそう案山子に注意を促すAに、もう辛抱堪らんとばかりに体を揺する案山子。初めて目にすれば思わず仰天してしまいそうな光景も、もはやこの現場では日常茶飯事である。

 

 周囲の作業員たちが苦笑を浮かべているのを尻目に、Aは案山子の首にかけられていたリモコンを手に取り、ブルーレイプレーヤーに向かって再生ボタンを押す。

 

『あっは~ん♪』

「ふおおおおおぉぉぉ! い、生きててよがっだああぁぁぁ!!!」

 

 再生された“爆裂!激烈!oh!モーレツ!24時間耐久ブルンブルン体操~ポロリを添えて~”と銘打たれたそこそこ過激なIVの映像に、案山子は歓喜した。おそらく一年近くにも及ぶ禁欲生活から案山子の体とはいえ抜け出せたことに、彼は歓喜していた。

 

 このまま1か月のバカンスが続くならいっそ元に戻らなくても良いのでは。いやしかしイチローに粉かけるネーチャンには美人が多いし戻らないとあのネーチャン達とのラキスケな日常が。いや、いや。

 

 本来なら動く機能がないはずなのに元気にゆさゆさと体を揺らす案山子は、ありもしない未来を妄想してたぎるリビドーを迸らせ続けた。

 

 この様子を全て彼が見てほしくない面々に見られており、一か月の刑期が終わった後どういう目に合うかを彼が知るのはこれから約1週間後。

 

 五体を持った人形の体を依り代にした御坂美琴が、無言で歩み寄って来るのを目にする時であった。

 

 

 

 すべての責任を案山子に押し付けた後、我々は夕張のメロンを求めて北上していた。まさに旬と言うべき夕張メロンの芳醇な香りと甘み、そしてとろけるような食感は農作物についてかなり厳しい舌を持つ姉を名乗るエルフ少女すらも唸らせる出来栄えであった。

 

 北海道の海を全面に押し出した海鮮丼をたっぷり腹に収めた、スイーツとして旬の夕張メロンを口に収める。これ以上の至福があるか?いやない(断言)。

 

 東京から片道2時間くらいなら毎日でも食べに来たくなる味だ。流石にエアコントロールやフロートをバリバリに使った魔導ヘリでもそこまでの速度は出せないが、飛行機に魔法技術を用いて速度アップとかできないだろうか。

 

「ど、どうですかね……?」

「いけます。奥多摩と同じですね」

 

 恐る恐る、といった様子で尋ねてくるネズ吉の言葉にそう応えて彼が持っていた素材、マンドレイクさんの葉っぱを換金する。二枚で金貨になるのか、やはりボスドロップはお高いな。

 

 たっぷり夕張メロンを食べさせてもらった後は仕事の時間だ。夕張ダンジョン40層は、そこに居るエルフ達が全て影だという事を覗けば奥多摩ダンジョンとほぼ同じと言っても良い場所だった。

 

「当然だ。私の一部を受け入れた弟はエルフ族の王たる資格を有している。別の魔窟とはいえ王国の影ともいえる場所ならば権能を振るえるに決まっているだろう」

「こーいうのは実際に行うことが大事なんだよ、姫!」

 

 自信満々にふんすふんすと鼻息を鳴らす姫とよしよしとあやす一花を尻目に、玉座の間から立ち上がる。

 

「やった!」

「ああ、これなら……!」

 

 俺たちの言葉に夕張ダンジョンの関係者の表情が一気に明るくなる。施設に関してはヤマギシからの融通で一通り試しており、奥多摩と同じ結果が出ることは分かっていた。だが、その施設を利用するためにはダンジョン内部だけで使える通貨が必要だ。

 

 これを自ダンジョンで賄うことが出来るかもしれないというのは、彼らにとって非常に大きな意味合いがある。それだけ40層のエルフの都で手に入る諸々は魅力的であり、人類にとって非常に価値のある存在である。

 

 まぁ、こと北海道は夕張ダンジョンにおいては他とはまた別の意味合いも強かったのだが。

 

「よし、急いで社〇さんに連絡だ!」

「ノ0スさん所にも」

「大手の牧場には声かけろ! 良いか、不平等だと思われることだけは避けろ!」

「バカ野郎! 馬産だけじゃなく畜産もだろうが! 生産量日本一の肉牛をブランドとしても日本一にするんだよ!」

「うるせぇ! 凱旋門への夢を忘れたのか!?」

「いつまでも『北海道? ああ、ブランド牛あるよね、トップ10外のwww』なんてなんも分かってない連中に言われてて悔しくないのか!!?」

 

 バタバタと指示を出す偉い人と指示を受けて走る人を尻目に、きょろきょろと落ち着きなく周囲を伺っていたネズ吉さんが申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる。ああ、うん。地元の産業は大事にしないといけないからしょうがないですよね。多分この後に行くみちのくダンジョンでも似たような光景はみるんだろうな。

 

 実際に40層の情報が政府筋に知らされた時、一番反応したのが農林水産省とあとなぜか財務省らしい。魔法省とか陰陽省みたいなのができたら流石にそこが一番活発に動いてたかもしれないがね。

 

 発足は秒読みとかニュースで見た覚えがあるんだがいつ出来るんだろうか。実際の所ダンジョンに対する法律こそ整えたがダンジョンを管轄する官公庁は未だに存在しないから、冒険者協会とヤマギシがほぼそれに近い存在なんだよね。今は。

 

「よし、じゃあ次はみちのくダンジョンだね。夏休みももう終わっちゃうしキリキリ次に――あ、ネズ吉さん。千葉さんになにか言っとくことある?」

「あ、はい。じゃあ、修練は怠るな、と……」

「うん、OK!」

 

 みちのくダンジョンの筆頭冒険者にして忍者のコスプレイヤーである千葉さんは、一時期ネズ吉さんの元で修行を積んでいた事がある。いわば師弟関係なんだが、この気弱そうな青年があのいかにもコミュ力のある忍者のコスプレしたお兄さんの師匠だとは実際に目にしたことがあっても違和感が凄い。二人並んだらネズ吉さんの印象完全に消えてしまうんじゃなかろうか――いや。人間関係の摩訶不思議を感じるのは後にして、今はさっさとみちのくダンジョンに移動しよう。

 

 あちらも同じ結果になるのなら、いよいよ日本のダンジョンは同じもの、もしくはコピーされたものではないかという仮説が成立する――かもしれない。

 

 まぁそれは実際に回ってみて確かめるしかないんだろうが。時間が空けば外国のダンジョンがどうなっているかを確認した方が良いだろうな。

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