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第六十一話 弟子取り・弟子入り
正月三が日をバージン諸島で過ごした俺達はいよいよ日本に帰ることになった。
帰りはブラス家のプライベートジェットで送ってくれるそうなので羽田にフライト申請を出したが、一杯のようだったので、横田経由でこっそり帰ることになった。
何故かウィルも一緒に。
『イチカに弟子入りしたんだ。あのハルクをどうやれば良いのかが知りたくって』
『弟子にしました』
無い胸を張ってふんぞり返る一花をちょいちょいと呼んで事情を聞く。
なんでもウィルはTV中継で流れていたスタンさんの誕生会で、ハルクの中身が誰なのかを調べていたらしい。
ただ、どう調べても俳優が分からなかったので現場に居た恭二に聞いてみたら、恭二が指差したのが一花だった、というわけだ。
それなら恭二に弟子入りすれば良いのにと思ったが、恭二曰く、「出来る奴に教えるのは簡単だけど出来ない奴に教えるなら一花が一番上手い」らしい。
まぁ、一花はこういっちゃなんだがヤマギシチーム内ではセンスが良いというより器用って評価が高いからな。
『彼女に弟子入りしてわかったよ。キョージの感覚は天才のそれで、天才に近しい人か感覚が近い人じゃないとイメージがしにくい。その点彼女はまず、イメージを構築するやり方から自分で考えている。学びやすさが全然違うんだ!』
「照れるぜ」
「まぁ、本人が納得してるなら良いんだが」
見た目小学生でも通じる一花に『マスター!』とか言ってる大学生って絵面がね、ヤバい。
だが、確かに誰かに教えるなら一花のやり方が一番いいかもしれない。
俺や恭二のような感覚で魔法を使ってる節がある奴なら兎も角・・・というかヤマギシチームはほとんど感覚で引っかかればその魔法を使える面子で構成されているが、一花や米軍のジュリアさんなんかは感覚よりも理論。
こうやってイメージしてここに魔力を注いで、といったやり方で魔法を使っているらしいとは聞いていた。というか、ほとんどの人はそうやって魔法を使っているらしい。
どちらもイメージ次第なんだが、ある程度魔力があるのに魔法が中々使えない、発動できない人達はこのイメージで手間取っているみたいだ。
その最初の段階を手助けする一花の教え方は、なるほど理に適っているんだろう。
「ハルクの時はどうしてたんだ?」
『ハルクの時はまずこの位の大きさになるってのを想定して、ハルクのイメージ画像を見ながら自分からどれだけ『膨らませる』かってのを意識しながら変身したよ!自分の今の動きとハルクの動き、両方をイメージしながらやったから難しかったけど楽しかった!』
『殆ど幻術だよね!マスター、変身の魔法自体は覚えたけど正直サイズが違う人は演じ切れないよ!』
『逆に考えるんだウィル。「演じる必要はない」って考えるんだ。自分の頭の中にそのヒーローはいるか?居るんなら彼をただ思い浮かべて動けばいいんだ!居ないならすぐにコミックスを見るんだ!』
『なるほど!わかった、やってみるよ!』
演じる必要はないってそれいやよそう。俺の勝手な思い込みで(ry
まぁ、一花の教育のお陰かウィルは急速に魔法使いとしての実力を高めてきており、元々磨いていた戦士としての実力も相まって一月ほどの滞在の間に10層への到達に成功。
俺達ヤマギシチーム以外では初めてテレポート室を利用した冒険者になった。
まぁ、自衛隊と米軍の教官チームも皆大詰めに来ているから来月にはもっと利用者は増えるんだがな。
日本の冒険者以外では初の民間人でのレベル10となり、まだ米軍兵士は教習受講中のため、二種免許を発行された海外初の冒険者となる。
という訳でちょっとしたお祝いに記念撮影と、食事会を行う。
『信じられない。味噌っかすの僕が、民間人初のレベル10だなんて』
10層までの独力突破・・・他のメンバーこそヤマギシチームだが、俺達ははあくまで補助と支援に徹していたため独力突破と認められた・・・を達成したウィルの頬からつぅ、っと涙が伝う。
この時に取った記念写真はアメリカ冒険者協会のトップページに暫く載ることになりそうだ。
訓練中の教官陣を除けば米軍の7層到達が最高だったからな。世界冒険者協会にとっても新年早々嬉しいニュースだろう。
あと何故かその写真の下に『偉大なる師、イチカ・スズキと我が友イチロー・スズキに捧ぐ』と書かれたコメントがあり、英語が読めなかった為ウィルに何を書いたのか尋ねると「箔付け」とだけ応えられた。
シャーロットさんに聞いてみると爆笑してたのであんまり良い事が書かれてないっぽいな。
ちょっとウィルを連れて空中散歩でもしてくるか。右腕基点だからぐるぐる回って凄いぞ?
そして2月。この月は別れの月になった。
日米共同の教官教育はめでたく全員履修終了となり、自衛隊20人、米軍20人の新任教官の育成が完了した。
そしてそれにあわせて浩二さんと美佐さん、ベンさんとジュリアさんの軍属組も原隊復帰し、奥多摩を去ることになる。
「寂しくなるなぁ・・・ここのラーメン好きだったんだが」
「ラーメン、ステイツとは比べ物にナリません。悲しいデス」
「そこはせめて奥多摩から離れたくない、とかにしてくださいよ」
笑いながら並んでラーメンを啜る。場合によってはもうこんな事出来ないかもしれないなぁ。
浩二さんには色々教えてもらったし、ベンさんとは一緒に山手線を何度も利用する仲だった。
これから教育隊に配属になった後、政府が保有するダンジョンに赴きそこで新人教育の任に当たるそうだが、そこが奥多摩ほど環境が整ってるとは思えないからなぁ。
ヤマギシとしては、今回の教育を機に自衛隊や米軍とは距離を置くことが決まっている。というか政府からそう依頼されている。
民間冒険者の教育に舵を振りたい日米政府としては、軍属の為だけの訓練期間が惜しいと感じている人が要るみたいだ。
実際、ヤマギシチームに参加しレベル20認定と教官免許まで手に入れた人材が日米共に2名も居るのだ。
真一さんなんかはこれ以降は民間に振り分けてくれと直接言われてたりするらしい。
皆魔石が欲しいんだろうなぁと思いながら俺達はラーメンの支払いを済ませて帰路に就く。
40名もの人が居なくなるせいか、やけに寒く感じる日だった。
鈴木一花:米国で変なあだ名が付いている事に気づきプルプル震える羽目になる。
ウィリアム・トーマス・ジャクソン:可愛い女の子をマスター呼びして教えてもらっていたと全米に向かって自慢した。同志と呼んでいた友達が少し減った模様。尚すぐ仲直りしたらしい。